公爵令嬢とデート③※ルードルフ視点
昼食を済ませ向かったのはクラウディアが喜びそうな場所。貴族専門の書肆だ。
そこはあっさりとクラウディアの満面の笑みを引き出させた。くるくる回りながら嬉しそうに本を見つめる彼女にこちらまで頬が緩む。
「嬉しそうだね」
「はい、幸せです!」
驚いたのは、クラウディアから花咲く笑顔を向けられたのが久しぶりだったからだ。
前にこの笑顔を向けられたのは婚約する前。姉の本を贈った時以来だ。
騙すような形で婚約してしまったからかクラウディアは私に強い警戒心を持っていた。心の底からの笑顔を向けられなくても仕方ないと分かっていたのに。
いざこうして向けられると嬉しくて堪らない。ずっとこんな風に笑いかけてほしかったのだと気がついた。
「すみません、変な顔になっていましたね」
私が何の反応も示さないからか変な誤解を招いてしまった。照れ臭そうに自身の頬を隠しながら謝るクラウディア。その姿すら愛おしく感じる。
真っ赤になった顔を見られたくなくて口元を手で隠しながら「違うよ」と返事をした。
「ディアがあまりにも愛らしい顔をしていたから…」
深く深呼吸した後、吃りながら伝えるとクラウディアは「へっ?」と驚いた顔を見せた。
「急に可愛い顔を見せないでほしい」
これまで何度も可愛いと言ってきたのに妙な照れが生じた。
私の言葉を受けたクラウディアは頬を赤く染め上げる。いつもなら適当に受け流すところなのに。
「照れているルード様も可愛いですよ」
可愛い。
咄嗟に紡がれた言葉は私が欲しくない言葉だった。
照れはどこかに吹き飛び、代わりに姿を見せたのはちょっとした苛立ち。
「誰が可愛いって?」
思わず声が低くなってしまった。
私は昔から可愛いと言われるのが苦手なのだ。
他の男がどう思うかは知らないが少なくとも自分に言われると女々しいと言われているような気がして好きになれない。
特に好きな相手であるクラウディアから言われるのは耐えられない。前に言われて長ったらしい説教を施した事があるくらいだ。
「ディア、説教が足りなかったのかな?」
「違います。今のは口が滑ったというか…」
「口が滑ったって事は可愛いと思っていたのは本当の事みたいだね」
クラウディアが逃げてしまわないように彼女の腰に腕を回して顔を近づける。張り付いた笑みを浮かべて「本を見る前にお説教にしようか」と提案してみせた。
「いや、あの…。本を見たいのですが…」
「駄目だよ。恨むなら失言をした自分を恨んでね」
涙目になりながらふるふると首を横に振るクラウディア。愛らしい姿だと思うけど許してあげるわけにはいかない。笑顔を浮かべて「じゃあ移動しようか」と腰を引こうとすると彼女が口を開いた。
「ですが、時間がなくなってしまいますし…」
今日は朝から遊ぶ予定だった。昼からになってしまったのは私のせいだ。
大遅刻をした私が彼女の失言を責められる立場にあるかと言われたら微妙なところである。
「ルード様への贈り物を買う時間がなくなるのは嫌なので…」
ぴたりと動きが止まった。
クラウディアからの贈り物が貰えなくなる?
それは絶対に駄目だ。お互いに贈り物をするのはかなり久しぶりで楽しみにしていたのにそれを奪われるのは許されない。
説教したい気持ちを溜め息に乗せて吐き出すとクラウディアをじっと見つめた。釘を刺しておく必要があるからだ。
「今回は見逃すけど次はないよ」
「え?」
「さぁ行こうか」
クラウディアの手を引いて歩き出す。
まずは私から贈り物をする番だと気合を入れる傍で深い溜め息が聞こえたような気がした。
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