小さな願い
「ところで命が狙われたというのは本当ですか?」
私が落ち着くのを待ってから声をかけてきたのはルードルフだった。
「ご存知だったのでは?」
「ディアに何かあったと教えてもらったところで走ってきたので」
詳しく聞かずに生徒会室まで走ってきたの?
あの冷静なルードルフが?
情けなさそうに「早くディアの元に行かないといけないと。話を聞いてる時間も惜しくて」と続けた。
「まさか学園で暗殺者に狙われるとは…」
「私がそう感じただけですから暗殺者と決まったわけでは」
「そうだとしても不審者の侵入を許したのは事実です。一人にならないように言ったではありませんか」
「すみません…」
ルードルフから忠告は受けていた。
王子の婚約者である自分が狙われる事は度々あったけどいつも私の知らないところで完結していた。聞かされるのは事後報告ばかりだったからいざ相対してみると恐ろしく思う。
「謝ってほしいわけじゃありませんよ。ただ心配しただけです」
「ルード様…」
私の手を握ったルードルフはバルデマーを見ると会話を続けた。
出会った頃は背丈も手の大きさもなにもかも変わらなかったのに。今のルードルフは誰よりも頼りになる婚約者だ。
このままずっと私のそばにいてくれたら良いのに。
自分を破滅させるかもしれない人間に縋るとは情けない話だ。
「兄上、ディアを狙った犯人は捕まったのですか?」
「捜索はさせているが犯人の情報は掴めていない」
掴めている情報は一つのみ。
変装されていた男子生徒は風邪で学園を欠席していたという事だけ。
本人が屋敷に居た事は確認が出来たみたいだから彼は犯人ではないのだろう。
私を狙った犯人は手練れだ。今回は運良く逃げられたけど次は分からない。ただ犯人が主体的に私を狙ったわけじゃないはず。私を恨む貴族の誰かが差し向けてきたという事は分かるけど一体誰が…。
思い当たる人が多い中で一人だけ異色な存在があった。
「バルバラ?」
一週間前に消してやると宣言を受けたばかりだ。
命を狙われる可能性としては考えられる。しかし彼女は平民。暗殺者を雇う術はないはずだ。
私の言葉に過剰反応をしたのはルードルフだった。
「あの女が犯人ですか?」
「彼女は平民ですよ。暗殺者を雇うほどのお金は持っていないかと」
「彼女自身はともかくお金を貸してくれる人ならいくらでも居ると思いますよ」
「それは…」
バルバラは貴族の男子を侍らせている。アロイスの時みたいに彼女に唆されて私を狙う人間がいてもおかしくはない。
ただ彼女を取り巻いているのはあまり身分が高くない貴族達だ。第二王子の婚約者であり公爵令嬢でもある私を敵に回すような真似をするのだろうか。
「とにかくあの女には警戒を…」
「バルバラとは誰だ?」
私とルードルフの会話に入ってきたのはバルデマーだった。攻略対象者の一人である彼がバルバラを知らないとは意外だ。
ルードルフに言い寄ろうとしたり、アロイスを誑かしたりしていたけどバルデマーには近づかなかったのだろうか。
「ディアを貶めようとしている平民の女ですよ」
「平民の?」
バルデマーは考える素振りを見せた後「あぁ」と何かを思い出したような声を漏らす。
「最近私の周りをうろうろしていた怪しい平民の女がいたな。その名前がバルバラだったはず」
しかめっ面で呟くバルデマーは婚約者がいない。女性に追いかけ回されるのは日常茶飯事。だから大勢の中の一人を覚えていなくとも不思議じゃないけど。
ヒロインですらうろ覚えってどういう事なのよ。しかもかなり迷惑がっているし。
何をされたのか分からないがバルデマーの好感度は高くないみたいだ。
「そのバルバラという女がクラウディア嬢を狙っている可能性があるのか?」
「そうです」
「ならばそのバルバラとやらを監視しよう」
王族が平民を警戒する必要があるのかと思うがこの二人は言い出したら聞かない。
彼女の潔白が完全に証明されるまではついて回る気だろう。
「それからディアには王城の方より護衛をつける事にします」
「流石にそこまでしなくても…」
王城からの護衛がついたら行動が不自由になるので勘弁してほしい。
そう思うが許してくれる婚約者じゃなかった。
「これは決定事項です」
やたらといい笑顔で言われてしまった。
【☆☆☆☆☆】で評価をして頂けると嬉しいです。




