説教と安堵
「お前は王族の婚約者である自覚が足りなさすぎる。分かっているのか?」
バルデマーによって生徒会室に連行された私は彼からの説教を受けていた。
ルードルフの婚約者である自覚はしているつもりだ。同時に「どうせヒロインにその座を奪われるのだから」と冷めた気持ちも持っている。
それがバルデマーにはバレていたみたいで昔から事あるごとに長い説教をされてしまう。
完全に自業自得なのよね。それにしたってもうちょっと優しくしてくれて良いのに。
きっと私が嫌いだからきつく叱るのだと思う。
「自覚が足りないから暗殺者に狙われるのだ」
「それは…」
関係ないでしょ。自覚していようがいまいが狙われていたに決まってる。
それにあの人が並の暗殺者だったらすぐに変装にも気づいていたと思う。でも彼は私が警戒するまで殺気の一つも出さなかった。
「お前を狙った奴はどんな人物だった?」
「逃げるのに必死だったので分かりません。申し訳ありません」
犯人の特徴くらい見ておけと叱られるだろうか。流石に狙われた直後にその説教されるのは嫌なのだけど。
そう思っているとバルデマーは深く溜め息を吐いた。
「謝る必要はない。それより暗殺者の侵入を許すとは学園側には抗議が必要だな」
「警備を万全にしたところで私を狙った人は捕まらないと思いますよ」
「しないよりはマシだろ」
それはそうだけど。
すでに学園の警備は容易く抜けられるようには出来ていない。それを彼は抜けてきた。
かなりの手練れだ。
厄介な相手に目を付けられたと落ち込んでいると部屋の扉が勢いよく開いた。
「ディア、大丈夫ですか!」
入ってきたのは珍しく焦った様子を見せるルードルフだった。
急いで来てくれたんだ。
彼の顔を見た途端、安心で身体の力が抜けていく。
「おい、ルード。ノックをしてから…」
「ディア、怪我はありませんか?」
バルデマーの言葉を遮ったルードルフは私の隣に駆け寄って手を握ってくる。慣れた手の温かさに涙が溢れてきた。
情けなくぼろぼろと涙を流す私に二人は揃って驚いた表情を見せる。いつもだったら気丈なふりも出来たのに今は無理そうだ。
「ディア、大丈夫ですか?」
「平気です」
「泣いているじゃないですか。また兄上に酷い事を言われたのですか?」
ルードルフに睨まれたバルデマーは動揺しながら首を横に振った。彼に説教されたから泣いているわけじゃない。そんなのは昔からだ。今更それくらいで泣くわけがない。
ただ今になって自分の命が狙われた事が怖くなったのだ。
「バルデマー様は助けてくださっただけですから」
「ならどうして泣いて…」
「命が狙われて怖かったんです」
命を狙われたら誰だって怖いものだ。特に私は命を落とす事の悲惨さを知っている。
破滅を回避する為に生きているのだから。
「命が狙われたくらいで…」
「兄上、やめてください」
ルードルフに睨まれたバルデマーは流石に言いすぎたと思ったのか「すまない」と小さな声で謝った。
結局ルードルフは私が泣き止むまで背中を撫で続けてくれた。
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