学園へ
ルードルフに嵌められて婚約者になってからもう四年が経つ。
最初は婚約から逃げようと悪あがきもしたけど逃げられるわけがなかった。国王夫妻も私の両親も喜んでお祝いしてくれたのだ。
私は嵌められただけなのに。
十六歳になった私の姿はゲームのクラウディアそっくりで「これがコスプレだったら」と現実逃避する毎日だ。
そして我が婚約者ルードルフもゲームの攻略対象そっくりな姿になっている。正直な話をすると見た目が好みすぎるので遠くから眺める許可がほしいくらいだ。
学園入学式の朝。
馬車から降りるとルードルフが待機していた。
「おはよう、ディア」
婚約者になった時からルードルフは私に対して敬語をやめてしまった。
好感度の高いヒロインではなく悪役令嬢の私にやめたのだ。当時は散々疑問に思ったけど答えは見つからず四年も経ったらすっかり慣れてしまった。
ヒロインと恋に落ちたら元に戻るだろうくらいの感覚だ。
「おはようございます、ルード様」
「今日も私の婚約者は可愛いね」
「ありがとうございます」
慣れたように私の腰を抱いてくるルードルフは甘ったるいほどの笑顔を見せた。
本当に顔が良すぎるのよ。卑怯だわ。
私達の姿を周囲の人間は温かい目で見つめてくる。
婚約者になったばかりの時は数多くの令嬢達に嫌がらせを受けていたがルードルフの甘ったるい態度を見て諦めたのか、公爵家が怖いからやめたのか今はほぼ無い。むしろ応援されているのだからおかしな話だ。
「行こうか、ディア」
「私を待っていなくても良かったのですよ?」
「何故?」
「ルード様は新入生代表だからです」
貴方は今からヒロインに出会うから邪魔をしたくないの。
とは流石に言えないので誤魔化しておく。
「大丈夫、打ち合わせは終わっているから開始に間に合えば問題ないよ」
「それなら良いのですけど」
全然良くないと思う。
ぼんやり歩いていると後ろから物凄い勢いでタックルされて前に吹き飛んだ。幸いにも顔から地面に当たる事はなかったけど膝を擦りむいた。
それよりもぶつかられた腰が滅茶苦茶痛いんだけど誰だろう?
「ディア!」
「ルードさまぁ!」
ルードルフと私にぶつかったであろう女の子の声が重なる。
痛みを我慢しつつ振り返ると一番会いたくない人物がルードルフに迫ろうとしているところだった。
ヒロインのバルバラだ。
出会いイベントの発生だと思うのだけどゲームの中ではヒロインがルードルフの横で転んで怪我をしたはず。でも今怪我をしているのは私だった。
いきなりぶつかられたという理不尽な気持ちと膝や腰の痛みにより軽く涙が溢れてくる。
「ルード様、おはようございます!よかったら一緒に体育館まで行きましょう?」
少し違うが攻略対象とヒロインが出会った。
ルードルフとの婚約生活はここで終わるのかな。
そう思うと胸が締めつけられる。嫌だと思ってしまった。
痛みとは違う意味で泣きたくなる。
「貴女はふざけているのですか?」
ルードルフから響いた声は低く怒りを含んでいるように聞こえた。見上げた彼は無表情。何を考えているのか全く分からない。
「え…?な、なに怒ってるの?」
「私の婚約者にぶつかっておいて謝りもしないなど。しかもわざとぶつかりましたね?」
バルバラを睨みつけるルードルフの表情はゲーム内でも見た事がある。クラウディアを断罪する際にしていた表情だったのだ。
どういう事?
「わざとじゃありません!」
「だとしても彼女に謝るのが先ですよね?それにどうして私が貴女と一緒に向かわないといけないのですか?」
「それは…」
「もう良いです。私達はこれで失礼しますので」
ルードルフの予想外の反応に驚いているとふわりと身体が浮き上がった。彼にお姫様抱っこをされていたからだ。
「あの、ルード様…」
「ディア、すぐに保健室に行こう」
「私、重いですから」
「軽いよ。むしろもっと太っていいくらいだ」
最近太ったから。体重が増えたのは大きくなった胸のせいだけど。
ふとバルバラを見ると強く睨まれた。感じた恐怖にルードルフの肩に顔を埋めると安心する匂いを感じて気持ちも和らぐ。
「どうかしたの?」
「いえ、その…。すみません、このままでも良いですか?」
「もちろん良いよ」
ルードルフの優しさに甘えて運ばれる事にした。
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