第34話【金曜日の夜】
金曜日。
いつもの金曜日が、またやってきました。
澪の家に、ひよりがやってくる。
二人の、温かい夜。
それでは、第34話、どうぞ。
金曜日の朝。
いつも通りに起きて、いつも通りに会社に向かった。
今日は金曜日。
ひよりが来る日だ。
会社に着いて、デスクに座る。
パソコンを起動して、メールをチェック。
今日も多い。
でも、金曜日だから、少し気持ちに余裕がある。
隣の席の木内さんが、鼻歌を歌いながら出勤してきた。
「おはよう、澪」
「おはよう」
「今日、金曜日だね!」
「そうね」
「私、明日、登山行くんだ。楽しみ!」
木内さんは嬉しそうだ。
「そう。気をつけてね」
「うん!」
九時になり朝礼が始まった。
「はい、みんな。今日も頑張りましょう」
課長の声。
「今日は金曜日。週末まで、あと少し!」
「はーい」
朝礼が終わった。
仕事に戻る。
請求書の処理を始めた。
黙々と、データを入力していく。
その時、後ろから声が聞こえた。
「木内さん、ちょっといいですか?」
佐藤くんだ。
「うん、どうしたの?」
「さっき、登山に行くって言ってましたよね」
「うん、明日行くんだ」
「僕も連れて行ってもらえませんか?」
「え、佐藤くんが?」
「はい!運動不足で……体を動かす趣味を探してたんです」
佐藤くんは真剣だ。
「うーん……」
木内さんは少し考えた。
「まあ、私一人で行くわけだし、別にいいけど」
「やった!」
「初心者向けのコースだから、大丈夫だと思うよ」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、明日の朝八時に駅集合ね」
「はい!」
佐藤くんは嬉しそうに戻っていった。
私は、そのやりとりを聞きながら仕事を続けた。
登山か。
全く興味が持てない。
そう、私はインドアな女。
午前中、黙々と仕事。
お昼休みは社員食堂でサバの塩焼き定食を食べた。
そして、午後も変わらぬ忙しさ。
電話対応と、データ入力。
書類の整理。
気がつくと、あっという間に五時になっていた。
定時だ。
「お疲れさま」
木内さんが声をかけてきた。
「お疲れさま」
「今日は早く帰るの?」
「ええ、定時で」
「いいな。私も帰ろう」
二人でデスクを片付けた。
「じゃあ、また月曜日ね」
「うん、登山楽しんでね」
「ありがとう!」
木内さんは嬉しそうに出ていった。
私も会社を出た。
駅前のスーパーに寄る。
今日は何を作ろう。
野菜売り場を歩く。
そういえば、ひよりは卵焼きを練習してた。
じゃあ、卵焼きはひよりに任せよう。
私は海鮮塩焼きそばを作ろう。
エビとイカを買った。
焼きそば麺、キャベツ、もやし、人参。
ひよりに秋の味覚って言っちゃったから、しめじも入れとくか。
レジを済ませて、マンションへ。
部屋に着いて、エプロンをつける。
料理の準備。
エビとイカの下処理。
野菜を切る。
準備ができた頃、インターホンが鳴った。
七時ちょうど。
ひよりだ。
ドアを開ける。
ひよりが立っていた。
満面の笑み。
手には、ビールの袋。
「澪さーん! 来たよー!」
「いらっしゃい」
「今日もお邪魔します!」
ひよりは靴を脱いで上がってくる。
「ビール、冷蔵庫に入れておくね」
「ありがとう」
ひよりは冷蔵庫にビールを入れて、キッチンに来た。
「今日は何作るの?」
「海鮮塩焼きそば秋バージョンよ」
「おお! 美味しそう!」
ひよりの目が輝いた。
「それとね、今日は卵焼き、私が作る!」
「そう? お願いしようかな」
「任せて! 火曜日から、家で二回も練習したんだ!」
「そうなんだ」
「うん!」
ひよりはエプロンをつけた。
ピンクの花柄。
この前買ったやつだ。
「じゃあ、始めるわね」
「はい!」
私はフライパンを火にかけた。
油を入れて、エビとイカを炒める。
ジュワーッ。
いい匂い。
次に野菜。
キャベツ、もやし、人参。
強火で一気に。
野菜がしんなりしたら、しめじを投入。
サッと火を通したら焼きそば麺をほぐしながら炒める。
塩コショウと鶏がらスープの素で味付け。
仕上げにごま油。
完成。
隣で、ひよりが卵焼きを作っていた。
卵を割って、ボウルに。
砂糖と塩を、小さじで計って入れる。
混ぜて、フライパンに流し込む。
ジュワーッ。
少し固まったら、奥から手前に巻く。
くるん、くるん。
前より、スムーズだ。
「上手になったわね」
「本当? 嬉しい!」
ひよりはまた卵液を流した。
また巻く。
三回繰り返して、完成。
「できた!」
ひよりは嬉しそうに卵焼きをまな板に移した。
切ってみる。
断面が綺麗に層になっている。
「すごい、上手よ」
「やった!」
ひよりは満面の笑み。
二人で、テーブルに料理を並べた。
海鮮塩焼きそばと、卵焼き。
ビールも。
「いただきます!」
ひよりは嬉しそうに手を合わせた。
まず、焼きそばを一口。
「美味しい! エビとイカ、プリプリ!」
「よかった」
次に卵焼き。
「自分で作った卵焼き、やっぱり美味しい!」
ひよりは幸せそうだ。
私も卵焼きを食べた。
甘さと塩加減が、ちょうどいい。
本当に上手になった。
「ひより、上達したわね」
「ありがとう! 澪さんのおかげだよ」
「ひよりが頑張ったからよ」
「えへへ」
ひよりは照れくさそうに笑った。
ビールを飲みながら、食事を続ける。
ひよりが話し始めた。
「あのね、澪さん。月曜日にね……」
ひよりは月曜日のことを話してくれた。
年明けにまた来てくださいって言われたこと。
「よかったわね」
「うん! すごく嬉しかった!」
ひよりの目が輝いている。
「頑張った甲斐があったわね」
「うん。澪さんのおかげだよ」
「私は何もしてないわよ」
「ううん、澪さんがいてくれたから、私は前を向けたんだよ」
ひよりは真剣な顔。
「ありがとう、澪さん」
「どういたしまして」
少し照れくさい。
でも、嬉しい。
ひよりが元気になってくれて。
前を向いてくれて。
それが何より嬉しい。
食事を終えて、後片付け。
片付けが終わって、ソファに座る。
お茶を淹れて、ゆっくり。
「澪さん、週末は何するの?」
「特に予定はないわ。いつも通り、掃除と洗濯と読書かな」
「相変わらずだね」
「ひよりは?」
「私もね、特に予定ないかな」
「そう」
二人で、他愛もない話。
仕事のこと。
週末のこと。
何気ない時間。
でも、この時間が好きだ。
ひよりがいる時間。
賑やかで、楽しくて、温かい。
時計を見ると、もう九時過ぎ。
「そろそろ、帰らないと」
ひよりは立ち上がった。
「ありがとう、澪さん。今日も楽しかった」
「こちらこそ」
「また来週ね」
「ええ、待ってるわ」
ひよりは玄関で靴を履いた。
「じゃあね、澪さん!」
「気をつけて帰ってね」
「うん! おやすみなさい!」
ひよりは手を振って階段を降りていった。
ドアを閉めて、部屋に戻る。
静かになった部屋。
でも、さっきまでのひよりの笑顔が残っている気がした。
キッチンに立つ。
綺麗に片付いている。
今日も、楽しい夜だった。
ひよりの卵焼きも美味しかった。
成長してるな、あの子。
ソファに座る。
お茶を飲んで、深呼吸。
今週も、終わった。
来週も、また頑張ろう。
そして、また金曜日が来る。
ひよりが来る。
それを楽しみに。
私は、静かな夜を過ごした。
お読みいただき、ありがとうございました。
ひよりの卵焼き、上手になりましたね。
火曜日に教えてもらってから、家で二回も練習したんですって。
努力家なひよりです。
そして月曜日の話。
あの会社から、また来てくださいって言われたこと。
ひよりの成長を、澪も喜んでいます。
いつもの金曜日。
でも、いつもと同じように温かい。
二人の関係が、じんわりと伝わってくる回でした。
次回はまた新しい展開があるかもしれません。
それでは、また次回お会いしましょう。




