第33話「道に迷って」
木曜日の朝。
ひよりは、今日も元気に営業に出かけます。
配達、訪問、そして新規開拓。
でも、道に迷ってしまって――
そこで出会った、優しい男性。
ひよりの心が、少しだけざわついた日。
それでは、第33話、どうぞ。
木曜日の朝。
目覚ましが鳴る前に、目が覚めた。
時計を見ると、五時半。
いつもより早い。
でも、もう起きちゃおう。
ベッドから起き上がって、カーテンを開けた。
外は、まだ真っ暗だ。
今日も、寒くなりそうだ。
顔を洗って、歯を磨いて、化粧をして。
スーツに着替えて、準備完了。
今日は、木曜日。
明日は、金曜日。
週末まで、あと少し。
頑張ろう。
会社に着いたのは、七時三十分。
少し早めに着いた。
デスクに座って、今日のスケジュールを確認する。
配達が三件。
それから、既存の取引先への訪問が二件。
午後は、新規開拓の飛び込み営業。
忙しい一日になりそうだ。
八時になった。
朝礼が始まった。
「はい、みんな。今日も一日、頑張りましょう」
課長の声が、フロアに響いた。
「年末まで、あと三週間。ラストスパート、かけていこう!」
「はい!」
みんなの声が、揃った。
朝礼が終わって、すぐに動き出した。
今日は配達もあるから車で営業に出掛ける。
最初の配達先は、駅前のスーパー。
商品を積んで、車で向かった。
店長さんに挨拶をして、商品を納品。
「いつもありがとうございます」
「こちらこそ、朝比奈さん、ありがとう」
次は、商店街の精肉店。
ここも、いつも通り。
店主さんが、笑顔で迎えてくれた。
「朝比奈ちゃん、今日も元気だね!」
「はい! ありがとうございます!」
三件目は、少し離れた場所の飲食店。
ここは、初めて行く場所だった。
住所を確認して、スマホの地図アプリを開いた。
ナビに従って、車を走らせる。
でも、だんだん不安になってきた。
この道、合ってるのかな。
周りの景色が、だんだん見慣れない場所になってきた。
住宅街。
細い道。
あれ、おかしいな。
飲食店なのに、こんな住宅街にあるの?
もう一度、地図を確認した。
でも、ナビは「目的地に到着しました」って言ってる。
え、ここ?
周りを見渡すけど、飲食店らしき建物は見当たらない。
普通の住宅ばかり。
おかしいな。
私は、車を路肩に停めた。
もう一度、住所を確認する。
間違ってない。
でも、ここには何もない。
どうしよう。
私は、車を降りて、周りを歩いてみることにした。
スマホを片手に、地図を見ながら。
でも、やっぱり分からない。
この辺りのはずなんだけど……。
焦ってきた。
時計を見ると、もう十時を過ぎている。
次の訪問まで、時間がない。
どうしよう。
その時、後ろから声がした。
「すみません、どこか探してるんですか?」
振り返ると、男性が立っていた。
三十歳くらいかな?
黒いコートを着て、バッグを肩にかけている。
優しそうな顔。
「あ、はい……この住所の飲食店を探してるんですけど……」
私は、スマホの画面を見せた。
男性は、画面を見て、少し考えた。
「ああ、それなら、この目の前の建物ですよ!」
「え、ここですか?」
「はい。ただ入口が反対側なのであそこを曲がってちょっと歩くんです。」
「反対側……」
「ちょっと、案内しますね」
「え、いいんですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。僕も、そっち方面に行くところなので」
男性は、にっこり笑った。
私は、ホッとした。
「ありがとうございます!」
男性と一緒に、歩き始めた。
「この辺り、初めてですか?」
「はい、配達で来たんですけど、道に迷っちゃって」
「そうですか。この辺り、ちょっと複雑なんですよね」
「本当に、助かります」
男性は、ゆっくりと歩きながら、道を説明してくれた。
「ここを右に曲がって、そのまま真っすぐ行くと、小さな路地があります。そこを入ると、すぐですよ」
「なるほど……」
私は、メモを取りながら聞いた。
「お仕事、大変ですね」
「はい、でも楽しいです」
「それは、いいことですね」
男性は、また笑った。
なんだろう。
この人、話してると落ち着く。
優しい声。
穏やかな雰囲気。
なんか、安心する。
私は、ちょっとドキドキしてきた。
え、なんで?
ただ道案内してもらってるだけなのに。
でも、心臓が、少し早く打ってる。
変な感じ。
「ほら、あそこです」
男性が、指差した。
小さな路地の奥に、看板が見えた。
あ、あった!
「本当だ! ありがとうございます!」
「いえいえ。無事に見つかってよかったです」
「助かりました!」
私は、深く頭を下げた。
男性は、また笑った。
「車なら駐車場がそこにあるので。」
「はい! ありがとうございました!」
男性は、手を振って、去っていった。
私は、その後ろ姿を見送った。
なんだろう。
なんか、気になる。
名前も聞かなかった。
また会えるかな…
私は、首を振った。
いや、今は仕事に集中しないと。
飲食店に入って、店主さんに挨拶をした。
「お待たせしました。ナチュラルキッチンの朝比奈と申します」
「ああ、待ってましたよ。ありがとうございます」
商品を納品して、無事に終わった。
よし、次に行こう。
午前中は、既存の取引先への訪問があと二件。
午後は、新規開拓の飛び込み営業。
何軒か回ったけど、なかなか上手くいかなかった。
でも、めげずに続けた。
夕方。
もう五時を過ぎている。
そろそろ、会社に戻ろう。
車を運転しながら、今日のことを振り返った。
忙しい一日だった。
でも、充実してた。
そして、あの男性のこと。
優しい人だったな。
会社に戻って、今日の報告をまとめた。
配達三件、完了。
既存顧客訪問二件、完了。
新規開拓、成果なし。
まあ、こんな日もある。
パソコンを切って、会社を出た。
家に帰る途中、コンビニに寄ってお弁当を買った。
部屋に着いて、ソファに座った。
ふう。
疲れた。
お弁当を食べながら、テレビを見た。
また、あの男性のことを考えてしまう。
なんでだろう。
私は、お弁当を食べ終わって、お風呂に入った。
温かいお湯に浸かって、深呼吸をした。
ああ、気持ちいい。
あの人に、もしまた会えたら。
ちゃんと、お礼を言いたいな。
それから、名前も聞きたいな。
私は、お風呂から上がって、ベッドに入った。
布団に包まれて、目を閉じる。
今日も忙しい一日だった。
明日もまた頑張ろう。
そんなことを考えながら、私は夢の中へと落ちていった。
お読みいただき、ありがとうございました。
ひより、道に迷いましたね。
そして、優しい男性に助けてもらいました。
「なんだろう。この人、話してると落ち着く」
「なんか、気になる」
ひよりの心に、小さな変化が。
これは、恋の予感でしょうか?
澪とひよりの関係も大切ですが、ひよりにも素敵な出会いがあるといいですね。
次回は金曜日。
またいつもの金曜日が来ます。
それでは、また次回お会いしましょう。




