第24話「涙の水曜日」
第24話は、ひより視点です。
今回は、ひよりが自分の弱さと向き合う物語。
いつも明るく元気なひよりが、
本当の自分をさらけ出す。
泣いて、泣いて、泣き続ける。
涙なしには読めない、感動の回です。
ハンカチを用意して、読んでいただけたら嬉しいです。
それでは、第24話をお楽しみください。
水曜日。私は、また飛び込み営業を続けていた。
がむしゃらに、ひたすらに。
断られても、断られても、次の扉を叩く。
立ち止まったら、崩れてしまいそうだから。
考えたら、全部が嫌になってしまいそうだから。
だから、動き続けた。
でも、今日も成果はなかった。
夕方、会社に戻った時、課長が声をかけてきた。
「朝比奈、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
私は、笑顔で答えた。
いつもの、明るい笑顔。
「無理すんなよ」
「大丈夫です。元気ですよ!」
課長は、少し心配そうな顔をしたけど、何も言わなかった。
私は、デスクに戻って、報告書を書いた。
今日訪問した会社の数。十二件。
成果。ゼロ。
また、ゼロだ。
でも、明日も頑張ろう。
そう思いながら、パソコンを閉じた。
定時になって、会社を出た。
駅に向かう道を歩きながら、ふと思った。
私、何やってるんだろう。
月曜日に言われた言葉が、頭の中で繰り返される。
**「何かから逃げてるの?」**
逃げてる?
私が?
何から?
私は、いつも笑顔で明るい。
元気で、前向きで。
周りからも、そう思われてる。
でも、本当は。
悩むことも、挫けることも、たくさんある。
弱い自分を、たくさん知ってる。
でも、それを認めたら。
一気に、崩れていってしまうかもしれない。
だから、がむしゃらに動いて。
自分と向き合うことから、逃げていた。
気づいたら、私は澪さんの家に向かっていた。
連絡もしていない。
水曜日だから、金曜日じゃないから、迷惑かもしれない。
でも、足が勝手に動いていた。
澪さんのマンションに着いて、インターホンを押した。
『はい』
「澪さん……私……」
『ひより? 今開けるわ』
ドアが開いた。
澪さんが、立っていた。
「あら? どうしたの?」
澪さんの顔を見た瞬間。
私は、堪えていたものが全部溢れてきた。
「澪さん……!」
私は、澪さんに抱きついた。
そして、大声で泣いた。
「うああああああ……!」
声にならない声で、泣いた。
澪さんは、何も言わなかった。
ただ、私を抱きしめて、頭を撫でてくれた。
私も、何も言わなかった。
言葉にできなかった。
ただ、泣いた。
怖かったこと。
悲しかったこと。
悔しかったこと。
情けなかったこと。
全部、全部、涙になって溢れてきた。
澪さんは、全てを知っている。
だから、何も聞かない。
何も言わない。
ただ、そこにいてくれる。
それだけで、いい。
二人の間に、言葉はいらない。
私は、泣き続けた。
いつまでも。
いつまでも。
玄関で、立ったまま。
澪さんに抱きつきながら。
涙が、止まらなかった。
どれくらい泣いたか、分からない。
でも、澪さんはずっと、私を抱きしめてくれていた。
少しずつ、涙が枯れてきた。
息が、まだ荒い。
身体が、震えている。
でも、少しだけ、楽になった気がした。
「ごめん……なさい……」
私は、ようやく言葉を絞り出した。
「いいのよ」
澪さんの声が、優しかった。
「水曜日なのに……来ちゃって……」
「いつでも来ていいって、言ったでしょ」
澪さんは、私の頭を撫でた。
「中、入りましょう」
「うん……」
私は、澪さんに手を引かれて、部屋の中に入った。
リビングのソファに座ると、澪さんが温かいお茶を淹れてくれた。
「ありがとう……」
「ゆっくり飲んで」
私は、お茶を一口飲んだ。
温かい。
身体に、染み渡る。
「少し、落ち着いた?」
「うん……」
私は、顔を上げた。
澪さんは、穏やかな顔で私を見ていた。
「話したくなったら、話して。無理しなくていいから」
「うん……」
でも、私はまだ何も話せなかった。
言葉にすると、また崩れてしまいそうで。
澪さんは、それを察してか、何も聞かなかった。
ただ、隣に座って、私の肩に手を置いてくれた。
時間が、ゆっくりと流れた。
窓の外は、もう真っ暗だった。
「今日、泊まっていく?」
「……いい?」
「もちろん」
「ありがとう……」
私は、また涙が出てきた。
でも、今度は静かな涙だった。
澪さんは、私の涙を拭ってくれた。
「大丈夫。あなたは、強いから」
「……強く、ない……」
「強いわよ。弱さを見せられることも、強さなのよ」
澪さんの言葉が、胸に染みた。
「弱い自分をさらけ出せる相手がいること。それは、あなたの強さの一つよ」
「澪さん……」
「だから、泣きたい時は泣けばいい。私が、ここにいるから」
私は、また澪さんに抱きついた。
そして、泣いた。
いつまでも。
いつまでも。
その夜、私は澪さんの家に泊まった。
ベッドで横になっても、まだ涙が出た。
でも、もう怖くなかった。
澪さんが、隣にいてくれるから。
私は、ようやく自分の弱さを受け入れた。
傷ついたこと。
怖かったこと。
全部、認めた。
そして、それでも。
明日から、また前を向こう。
そう思えた。
澪さんの温もりを感じながら、私は静かに眠りについた。
(第24話 おわり)
第24話、いかがでしたでしょうか。
泣いてしまいましたか?
ひよりの涙、澪さんの優しさ。
言葉のない抱擁。
「いつまでも、いつまでも」
この繰り返しが、胸に響きました。
弱さを見せられることも、強さ。
そして、それを受け止めてくれる人がいること。
それが、どれだけ幸せなことか。
二人の絆が、最高に描けた回だと思います。
それでは次回、第25話でお会いしましょう。
最後まで読んでくださって、
ありがとうございました。




