第23話「震える勇気」
第23話は、澪の視点です。
今回は、佐藤くんの魅力発見回。
いつもは頼りない後輩だけど、
いざという時、男らしい一面を見せます。
不器用だけど、一生懸命な佐藤くんのお話。
それでは、第23話をお楽しみください。
火曜日の夜。私は、珍しく一人で飲みに行くことにした。
いつもはまっすぐ家に帰るのだけど、今日は少し気分転換したかった。
駅前の居酒屋に入って、カウンター席に座る。
日本酒を一合だけ頼んで、軽くつまみを食べた。
静かに飲む時間も、悪くない。
三十分ほどで店を出た。
少しほろ酔い。
でも、心地いい。
駅に向かって歩いていると、横から誰かがぶつかってきた。
「おっと……」
見ると、明らかに酔っ払った男性だった。
四十代くらい。スーツはシワだらけで、顔は真っ赤。
「あ、すみません」
私は、謝った。
明らかに相手がぶつかってきたのだけど、争いは避けたい。
「すみませんでした」
私は、その場を去ろうとした。
「おい、待てよ」
男性が、私の腕を掴んだ。
「え?」
「ぶつかっておいて、それだけかよ」
「すみません、謝りましたけど……」
「謝って済むと思ってんのか?」
男性の声が、大きくなった。
周りの人が、チラチラとこちらを見ている。
でも、誰も助けてくれない。
私は、冷静に言った。
「すみませんでした。本当に申し訳ありませんでした」
「ふざけんな! お前みたいな女が……」
男性が、私の肩を掴もうとした。
その瞬間。
「やめてください!」
誰かが、私の前に立った。
「え……?」
振り返ると、佐藤くんだった。
「佐藤くん……?」
「霧島さん、大丈夫ですか?」
佐藤くんは、震える声で言った。
「あ、ああ……」
「なんだお前! 関係ねえだろ!」
酔っ払いが、佐藤くんに掴みかかろうとした。
でも、佐藤くんは一歩も引かなかった。
「関係ありますよ! この人は、僕の……大切な先輩です!」
佐藤くんの声が、震えている。
身体も、震えている。
でも、目は真剣だった。
「これ以上、絡むなら、警察呼びますよ!」
佐藤くんは、携帯を取り出した。
酔っ払いは、少し冷めたのか、舌打ちをした。
「ちっ……面倒くせえ」
そして、フラフラと去っていった。
佐藤くんは、私の方を向いた。
「霧島さん、大丈夫でしたか?」
「ええ、大丈夫よ。ありがとう」
「よかった……」
佐藤くんは、ホッとした顔をした。
でも、まだ手が震えている。
「佐藤くん、どうしてここに?」
「あ、仕事が終わらなくて、少し残業してたんです。今、帰るところで」
「そう」
「駅まで、送りますよ!」
佐藤くんは、真剣な顔で言った。
私は、少し考えた。
一人でも大丈夫だけど……。
「う〜ん……じゃあ、お願いしちゃおっかな。ふふ」
「はい! 任せてください!」
二人で、駅に向かって歩いた。
佐藤くんは、私の少し前を歩いている。
まるで、護衛のように。
でも、足が少し震えている。
「佐藤くん、まだ震えてるわよ」
「え? あ、はい……すみません。実は、めちゃくちゃ怖かったです……」
佐藤くんは、照れくさそうに笑った。
「でも、霧島さんが危ない目に遭ってたから、放っておけなくて」
「ありがとう」
「俺、男だから。霧島さんが危ない目に遭った時は、守りますから!」
佐藤くんは、力強く言った。
でも、声は少し震えていた。
その不器用さが、何だか微笑ましかった。
「ふふ。ありがと」
私は、素直にそう言った。
駅に着いて、改札の前で立ち止まった。
「ここまででいいわ。ありがとう、佐藤くん」
「いえ、こちらこそ。無事でよかったです」
「じゃあ、また明日」
「はい! 気をつけて帰ってください!」
佐藤くんは、手を振った。
私は、改札を通って、ホームに向かった。
電車を待ちながら、さっきのことを思い返した。
佐藤くん、震えながらも、私の前に立ってくれた。
いつもは頼りない後輩だけど、あの時は……。
「でも、ちょっとドキッとしちゃったな」
私は、小さく呟いた。
電車に乗って、窓の外を見た。
佐藤くんは、きっとまだ駅にいるだろう。
ちゃんと、私が電車に乗るのを見届けてから、帰るつもりなんだろう。
不器用だけど、優しい。
そんな佐藤くんを、少しだけ見直した。
家に帰って、シャワーを浴びた。
ベッドに横になると、また佐藤くんのことを思い出した。
「俺、男だから」
そのセリフが、妙に頭に残っている。
でも、恋愛とかそういうのじゃない。
ただ、嬉しかった。
守ってもらえたことが。
私は、いつも一人で何でもできる。
強いし、冷静だし。
でも、たまには誰かに守ってもらうのも、悪くない。
そんなことを思いながら、私は眠りについた。
明日、会社で佐藤くんに会ったら、何を話そうか。
いつも通り、普通に接すればいい。
でも、少しだけ、優しくしてあげよう。
そう決めて、私は静かな夜を過ごした。
(第23話 おわり)
第23話、いかがでしたでしょうか。
佐藤くん、かっこよかったですね!
震えながらも、守ろうとする姿。
「俺、男だから」
この不器用なセリフが、グッときました。
でも、恋愛フラグが立つわけではなく、
微妙な距離感。
それが、この物語らしいと思います。
次回、第24話はひより視点。
水曜日、まだがむしゃらに営業を続けるひより。
ついに、ある気づきを得て…
第24話もお楽しみに。
最後まで読んでくださって、
ありがとうございました。




