第22話「がむしゃらな月曜日」
第22話は、ひより視点です。
今回は、ひよりの葛藤を描きます。
桜井の件は解決した。
でも、心は晴れない。
だから、がむしゃらに動く。
立ち止まったら、崩れそうだから。
でも、それは本当の解決じゃない。
「何かから逃げてるの?」
この言葉が、心に刺さる。
ひよりの、これからの成長に繋がる、
大切な一日です。
それでは、第22話をお楽しみください。
月曜日の朝。私は、いつもより少し早く会社に着いた。
昨日、澪さんとランチを食べて、少しだけ元気になった。
今週は、頑張ろう。
そう思って、デスクに座った時、課長が声をかけてきた。
「朝比奈、ちょっといいか」
「はい」
私は、課長の席に向かった。
「今朝、桜井拓也から連絡があった」
その名前を聞いて、私の身体が固まった。
「桜井さん……」
「ああ。本人から直接、謝罪の電話があった」
課長は、真剣な顔で言った。
「『先日は本当に申し訳ありませんでした。朝比奈様に取り返しのつかないことをしてしまいました』と」
「……」
「それから、自分の会社にも報告したそうだ。そして、今日付で退職すると」
私は、何も言えなかった。
「朝比奈、これは大きな問題だ。場合によっては、被害届を出すこともできる」
「被害届……」
「ああ。お前が被害を受けたことは事実だ。会社としても、全面的にバックアップする」
課長の言葉が、優しかった。
「どうする?」
私は、少し考えた。
桜井さんは、もう退職する。
それで、十分なんじゃないだろうか。
「課長、被害届は出しません」
「本当にいいのか?」
「はい。桜井さんは、もう十分に制裁を受けたと思います」
私は、課長の目を見た。
「それに、私も未熟でした。もっとちゃんと見極める力があれば、こんなことにはならなかったかもしれない」
「朝比奈……」
「だから、これは私にとっても勉強です。次は、もっとちゃんとやります」
課長は、少し目を細めた。
「分かった。お前がそう言うなら、会社もそれに従う」
「ありがとうございます」
「でも、朝比奈。今日は無理しなくていいぞ。ゆっくり休んでもいい」
「いえ、大丈夫です。営業に出ます」
「本当にいいのか?」
「はい。前を向きたいんです」
課長は、頷いた。
「分かった。頑張れよ」
「はい!」
私は、デスクに戻って、営業の準備をした。
今日は、新規顧客の開拓に行こう。
飛び込み営業。
断られることも多いけど、でも、それでいい。
今は、動いていたい。
午前中、私は五件の会社を回った。
全部、門前払いだった。
「うちは間に合ってますから」
「今、忙しいので」
「また今度にしてください」
冷たい言葉ばかり。
でも、私は諦めなかった。
午後も、続けた。
六件目。
「何度も来られても困るんですよ!」
怒られた。
七件目。
「しつこいですね。帰ってください」
冷たく言われた。
八件目。
「もう来ないでください」
完全に拒絶された。
私は、必死すぎたんだと思う。
でも、止まれなかった。
夕方。もう五時を回っている。
あと一件だけ、チャレンジしよう。
私は、最後の会社のドアを開けた。
「すみません、朝比奈と申します。お時間いただけますでしょうか」
受付の女性が、困った顔をした。
「アポイントはありますか?」
「いえ、飛び込みで申し訳ありません。でも、少しだけでも……」
「申し訳ありませんが、アポなしの方は……」
「お願いします! 少しだけでも!」
私の声が、少し大きくなった。
その時、奥から男性が出てきた。
五十代くらいの、落ち着いた雰囲気の人。
「どうしました?」
「あの、飛び込みの営業の方が……」
「ああ、そう」
男性は、私を見た。
「少しだけ、お話しします。こちらへどうぞ」
「え、本当ですか! ありがとうございます!」
私は、応接室に案内された。
男性は、椅子に座って、私を見た。
「それで、どんなご用件ですか?」
私は、準備していた資料を広げた。
「弊社は食品を扱っておりまして……」
「ちょっと待って」
男性は、私の言葉を遮った。
「あなた、何かから逃げてるの?」
「え……?」
私は、固まった。
「あなたの目、見てたら分かるよ。心に余裕がない」
男性は、優しい声で言った。
「営業って、焦ってやるものじゃない。お客さんと向き合うものでしょ?」
「それは……」
「でも、あなたは今、自分と向き合ってない。何かから逃げてる」
男性の言葉が、胸に刺さった。
「時には、自分と向き合うことも大事だよ」
「……」
私は、何も言えなかった。
「今日は、もう帰りなさい。ゆっくり休んで、また明日頑張ればいい」
「はい……」
私は、頭を下げて、会社を出た。
外は、もう暗くなっていた。
駅に向かう道を、一人で歩く。
今日の成果は、散々だった。
一件も取れなかった。
怒られて、冷たくされて、拒絶されて。
そして、最後には核心を突かれた。
何かから逃げてる。
そうなのかな。
私は、何から逃げてるんだろう。
分からない。
でも、何かがおかしいことは、確かだ。
「あーあ……上手くいかないなぁ」
私は、小さく呟いた。
夜空を見上げると、星が少しだけ見えた。
明日は、どうしよう。
また、がむしゃらに営業するのか。
それとも、立ち止まって考えるのか。
今は、まだ分からない。
ただ、疲れた。
とても、疲れた。
電車に乗って、家に帰った。
ベッドに倒れ込んで、目を閉じた。
明日、また頑張ろう。
そう思いながら、私は眠りについた。
(第22話 おわり)
第22話、いかがでしたでしょうか。
ひよりの葛藤、感じていただけましたか?
がむしゃらに動くことで、空回り。
上手くいくばかりが人生じゃない。
まだ答えは出ていない。
ひよりは、これからどうするのか。
次回、第23話は澪の視点。
火曜日、仕事帰りに一人で飲んで帰ることにした澪は…
第23話もお楽しみに。
最後まで読んでくださって、
ありがとうございました。




