第21話「思い出の場所で」
第21話は、二人揃っての日曜日です。
辛い出来事の後だからこそ、
この優しさが、染みます。
思い出の場所で、
二人の絆を確認する。
言葉にしなくても分かる関係。
でも、時には言葉にすることも大切。
「出会えて良かった」
「ずっと友達よ」
シンプルだけど、
とても大切な言葉。
温かい気持ちで、
読んでいただけたら嬉しいです。
それでは、第21話をお楽しみください。
日曜日の昼。私は、駅前でひよりを待っていた。
秋晴れの気持ちいい日。
少し早く着いたので、ベンチに座って本を読んでいた。
「澪さーん!」
ひよりの声が聞こえた。
顔を上げると、ひよりが手を振りながら走ってくる。
「おはよう」
「おはよう! 待った?」
「いえ、今来たところ」
ひよりは、少し元気がないように見えた。
でも、笑顔を作っている。
「じゃあ、行きましょうか」
「うん! どこ行くの?」
「着いてきて」
私は、ひよりを連れて、駅から10分ほど歩いた。
住宅街を抜けて、小さな商店街に入る。
「この辺り……」
ひよりが、何か気づいたような顔をした。
「そう。覚えてる?」
「まさか……」
私たちは、一軒の小さなカフェの前に立った。
「カフェ・ソレイユ」
木の看板に、手書きの文字。
「ここ……!」
ひよりの目が、大きく開いた。
「初めて、二人で来たお店」
「覚えてる……!」
そう。ここは、ひよりと出会って間もない頃、初めて一緒に来たお店。
入社して3年目だった私と、新人だったひより。
仕事で関わるようになって、ひよりが「澪さん、美味しいお店知ってますか?」と聞いてきた。
それで、私がこのお店を紹介した。
あれから、2年。
私たちは、カフェに入った。
店内は、あの時と変わらない。
木の温もりがある、小さくて居心地のいい空間。
「いらっしゃいませ」
マスターが、私たちを見て微笑んだ。
「あれ?久しぶりですね。お二人とも」
「お久しぶりです」
「相変わらず、仲良しですね」
マスターは、嬉しそうに言った。
私たちは、窓際の席に座った。
あの時と、同じ席。
「何にする?」
「えっと……」
ひよりは、メニューを見ている。
「あの時と、同じのにしようかな」
「じゃあ、私も」
私たちは、ハンバーグランチを注文した。
あの時も、同じものを頼んだ。
料理を待つ間、ひよりが言った。
「懐かしいね。あの時、私、めっちゃ緊張してたんだ」
「そうなの?」
「うん。澪さん、すごく落ち着いてて、綺麗で……私なんかが一緒にごはん食べていいのかなって」
「大げさよ」
「本当だよ! でも、澪さんが優しくしてくれて、嬉しかった」
ひよりは、笑った。
「それから、ずっと一緒だもんね」
「ええ」
料理が運ばれてきた。
湯気の立つハンバーグ。デミグラスソースの香り。
「いただきます」
「いただきます」
二人で、食べ始めた。
味は、あの時と同じ。
優しくて、温かい味。
「美味しい……」
ひよりは、一口食べて、少し涙ぐんでいた。
「ひより?」
「ううん、大丈夫。ただ……なんか、色々思い出しちゃって」
ひよりは、ハンカチで目を拭いた。
「この2年間、楽しかったなって」
「そうね」
「澪さんと出会えて、本当によかった」
私は、ひよりを見た。
彼女は、笑顔だけど、少し寂しそうだった。
色々 思ってるんだろう。
でも、私は何も聞かなかった。
ただ、言った。
「私も、ひよりと出会えて良かったわ」
「澪さん……」
「あなたがいなかったら、私はきっと、もっと閉じこもっていたと思う」
私は、ハンバーグを一口食べた。
「でも、あなたが私を外に連れ出してくれた。色々な場所に、色々な経験に」
「私、そんな……」
「それに、あなたと話すのは楽しいの。いつも元気をもらってる」
私は、ひよりの目を見た。
「だから、ありがとう。」
ひよりの目から、涙がこぼれた。
「澪さん……!」
「これからも、ずっと友達よ」
「うん……!」
ひよりは、泣きながら笑った。
「ありがとう、澪さん。私も、ずっと友達でいたい」
「じゃあ、決まりね」
私も、微笑んだ。
それから、二人で食事を続けた。
ひよりは、少しずつ元気を取り戻していった。
最近あった面白いこと、仕事のこと、他愛もない話。
いつもの二人に、戻っていく。
「ねえ、澪さん」
「何?」
「今度の金曜日、また晩ごはん食べに行っていい?」
「もちろん。いつでも来て」
「やった! じゃあ、何作ってくれる?」
「何がいい?」
「えーっと……肉じゃが!」
「分かった。作るわ」
ひよりは、嬉しそうに笑った。
食事を終えて、店を出た。
マスターが、手を振ってくれた。
「また来てくださいね」
「はい、また来ます」
外は、まだ昼間の明るい光が差していた。
私たちは、駅まで歩いた。
「今日、ありがとう」
ひよりが言った。
「お礼なんていいわよ」
「ううん、言いたいの。澪さんがいてくれて、本当に助かってる」
ひよりは、真剣な顔で言った。
「私、これからも頑張るよ。色々あるけど、でも、澪さんがいるから大丈夫」
「ええ。私もいるから」
駅で別れる時、ひよりが言った。
「じゃあ、また金曜日!」
「ええ、待ってるわ」
ひよりは、手を振って、改札に消えていった。
私も、反対方向のホームに向かった。
今日は、いい日だった。
ひよりの笑顔が、少し戻った気がする。
辛いことがあっても、前を向いて歩けるように。
私は、そっと彼女を支えていこう。
それが、友達というものだから。
電車に乗りながら、私は窓の外を見た。
秋の景色が、流れていく。
来週の金曜日。
また、ひよりが来る。
肉じゃがを作って、ビールを飲んで、たくさん話そう。
それが、私たちの日常。
それが、私たちの幸せ。
そんなことを思いながら、私は家路についた。
第21話、いかがでしたでしょうか。
温かい気持ちになりましたか?
辛い展開が続いた後だからこそ、
この優しさが、心に染みますね。
二人の絆、とても素敵です。
思い出の場所に戻る。
それは、原点回帰。
そして、これからも続いていく関係を、
改めて確認する。
大切な友情の物語でした。
次回、第22話はひより視点。月曜日、桜井からの謝罪と退職の連絡。そして、気持ちを切り替えて営業に出かけるひより。でも、がむしゃらになりすぎて...。
第22話もお楽しみに。
最後まで読んでくださって、
ありがとうございました。




