第19話「涙の金曜日」
第19話は、前回の続きです。
傷ついたひよりを、支える人たちが現れます。
課長の謝罪、そして澪の登場。
辛い展開から、
少しずつ温かさが戻ってくる。
そんな物語です。
ひよりは一人じゃない。
支えてくれる人がいる。
それを、感じていただけたら嬉しいです。
それでは、第19話をお楽しみください。
金曜日の朝。私は、重い足取りで会社に向かった。
昨夜は、ほとんど眠れなかった。
桜井さんのこと。
ホテルでのこと。
全部、頭から離れなかった。
会社に着いて、営業部のフロアに入ると、課長が私を見つけた。
「朝比奈、来たか」
「おはようございます……」
「会議室に来てくれ」
私の心臓が、ドキッとした。
会議室。
怒られる。
契約が取れなかったこと。
会社の期待を裏切ったこと。
全部、私のせいだ。
私は、また泣きそうになるのを必死に堪えた。
会議室に入ると、課長が先に立っていた。
私は、覚悟を決めて、ドアを閉めた。
「すみません、課長。契約が……」
「朝比奈」
課長は、私の言葉を遮った。
そして、深々と頭を下げた。
「すまなかった」
「え……?」
私は、目を疑った。
課長が、謝っている。
「今朝、先方からクレームの電話が入った」
「クレーム……?」
「ああ。桜井拓也という男からだ」
その名前を聞いて、私の身体が固まった。
「何でも、うちの社員が無理やりホテルに連れ込もうとしたとか、そういう言いがかりをつけてきた」
「そんな……!」
「安心しろ。俺は信じてない。お前がそんなことするわけがない」
課長は、顔を上げた。
「それで、事の顛末を聞いた。お前が騙されたこと。危ない目に遭いそうになったこと」
課長の目が、真剣だった。
「朝比奈、すまなかった。俺が、お前に無理をさせた」
「課長……」
「お前の成長のために、全てを任せすぎていた。もっと細かく報告させていれば、こんなことにはならなかった」
課長は、また頭を下げた。
「本当に、申し訳ない」
私は、涙が溢れてきた。
「すみませんでした……!」
私も、頭を下げた。
「私が、馬鹿だったんです……! 騙されて……ホテルまで行って……!」
「朝比奈、お前は悪くない」
「でも……!」
「お前は、一生懸命やってただけだ。悪いのは、あの男だ」
課長の声が、優しかった。
「それに、俺だ。『可愛いから近づけ』なんて、そんな指示をした俺が悪い」
「課長……」
「朝比奈、今日は仕事しなくていい。週末だし、ゆっくり気持ちを立て直してくれ」
「でも……」
「いいから。お前は、もう十分頑張った」
私は、大号泣してしまった。
課長は、黙って私が泣き止むのを待っていてくれた。
会議室を出て、私は自分のデスクに戻った。
仕事をしなくていいと言われても、何をしていいか分からない。
とりあえず、デスク周りの掃除を始めた。
書類を整理して、引き出しを片付ける。
気持ちを整理するために、手を動かした。
そうしていると、少しずつ落ち着いてきた。
その時、営業部のフロアに、見覚えのある人が入ってきた。
「澪さん……?」
澪さんだった。
仕事中に、澪さんが私のところに来るなんて、珍しい。
「ひより」
澪さんは、まっすぐ私のところに歩いてきた。
そして、いきなり私を抱きしめた。
「え……澪さん……?」
「話は聞いたわ。ごめんね、何も知らなくて」
澪さんの声が、優しかった。
私は、また涙が溢れてきた。
「澪さん……!」
「大丈夫。もう大丈夫だから」
澪さんは、私の頭を撫でてくれた。
周りの視線が気になったけど、今はどうでもよかった。
澪さんの温もりが、嬉しかった。
「ごめんなさい……私、馬鹿で……」
「ひよりは悪くない。悪いのは、あの男よ」
澪さんは、私を離して、私の顔を見た。
その顔が、すごく怖かった。
いつもの落ち着いた澪さんじゃない。
目が、冷たく光っている。
「澪さん……?」
「もう大丈夫だから……」
「え……?」
「じゃあ、仕事に戻るわね。何かあったら、いつでも言って」
澪さんは、そう言って、営業部を出て行った。
私は、呆然とその後ろ姿を見送った。
澪さんのあんな怖い顔、初めて見た。
でも、不思議と安心した。
澪さんがいてくれる。
それだけで、私は救われた気がした。
私は、また掃除に戻った。
デスクを綺麗にして、書類を整理して。
少しずつ、気持ちが落ち着いていく。
窓の外を見ると、秋の空が広がっていた。
今日は、ゆっくり休もう。
そして、また月曜日から、頑張ろう。
騙されたこと。
傷ついたこと。
全部、忘れないけど、乗り越えよう。
私は、そう決めた。
そして、澪さんのことが、少し気になった。
あの怖い顔。
何を考えていたんだろう。
でも、澪さんなら、きっと大丈夫。
そう信じて、私はその日を過ごした。
第19話、いかがでしたでしょうか。
少し、救われましたか?
課長の謝罪、温かかったですね。
そして、澪の登場。
でも、澪の顔が怖かった...。
そう、澪さんは怒っています。
大切な友達を傷つけられて。
次回、第20話は澪の視点。土曜日、澪の復讐が始まります。冷静に、でも容赦なく。理詰めで追い詰め、最後は...。スカッとする展開です。澪のかっこよさが爆発する、第20話です!お楽しみに!
最後まで読んでくださって、
ありがとうございました。




