第17話「名探偵•霧島澪」
第17話は、澪の視点です。
今回は、珍しく外に出る澪さん。
そこで出会った、困っている子供。
澪は、持ち前の観察力と論理的思考で、
問題を解決します。
名探偵のような推理、冷静な対応、そして優しさ。
澪のクールで魅力的な一面を、存分に楽しんでいただけると思います。
それでは、第17話をお楽しみください。
水曜日の午後。上司から声をかけられた。
「霧島さん、この書類、取引先に届けてもらえる?」
「はい」
私は、封筒を受け取った。
いつもは事務所で仕事をしているけれど、たまにこうして外に出ることもある。
秋の午後。風が心地いい。
取引先まで歩いて15分ほど。
書類を渡して、すぐに会社に戻る予定だった。
住宅街を歩いていると、公園の近くで子供の泣き声が聞こえた。
小学校低学年くらいの男の子が、一人で泣いている。
私は、少し迷ったが、声をかけることにした。
「どうしたの?」
男の子は、涙目で私を見上げた。
「ゲームが……なくなっちゃった……」
「ゲーム?」
「うん……ここに置いてたのに……」
男の子は、公園のベンチを指差した。
「そこに置いてたの?」
「うん。友達と遊んでて、ちょっとトイレに行ったら……なくなってた……」
「友達は?」
「みんな帰っちゃった……」
男の子は、また泣きそうになった。
私は、ベンチに近づいた。
「いつ、なくなったの?」
「さっき……10分くらい前……」
「どんなゲーム?」
「赤い携帯ゲーム機……お母さんに買ってもらったばっかりなのに……」
私は、周囲を見回した。
公園には、他に数人の子供が遊んでいる。
ベンチの周辺を観察する。
地面に、小さな足跡。
ベンチの横に、飲みかけのジュースの缶。
「このジュース、あなたのもの?」
「ううん、違う」
「じゃあ、誰かが飲んでたの?」
「わかんない……」
私は、缶を見た。
まだ冷たい。最近のものだ。
それから、ベンチの裏側を確認した。
何かが擦れた跡がある。
「ねえ、さっきここで誰か遊んでた?」
「うーん……お兄ちゃんたちがいた」
「お兄ちゃんたち?」
「うん。中学生くらいの。三人くらい」
「どんな子たち?」
「一人は背が高くて、一人はメガネかけてた」
私は、公園の出口を見た。
足跡が、そちらに続いている。
「ちょっと待ってて」
私は、足跡を辿って歩いた。
公園の出口を出て、住宅街の路地に入る。
そこで、三人の中学生が、自動販売機の前にいるのが見えた。
一人は背が高く、一人はメガネをかけている。
私は、近づいた。
「すみません」
中学生たちは、私を見た。
「何ですか?」
「さっき、公園にいましたよね」
「え? まあ、いましたけど……」
「小さい子が、ゲームをなくして困ってるんです。何か知りませんか?」
三人は、顔を見合わせた。
「知らないです」
「そうですか」
私は、彼らの足元を見た。
一人の靴に、土がついている。
そして、その子のポケットが、少し膨らんでいる。
「そのポケット、何が入ってるんですか?」
「え? 別に……」
「見せてもらえますか?」
「なんで……」
私は、冷静に言った。
「警察を呼んでもいいですけど、それより、ここで解決した方がいいと思いますよ」
中学生は、焦った様子で、ポケットから赤いゲーム機を取り出した。
「これ……拾っただけで……」
「拾った? ベンチの上にあったものを?」
「……はい」
「それは拾ったとは言いません。持ち主がいるものを勝手に盗ったんです」
中学生は、うつむいた。
「ごめんなさい……」
「私に謝るんじゃなくて、持ち主の子に謝ってください」
「はい……」
私は、ゲーム機を受け取って、公園に戻った。
男の子は、まだベンチの近くで待っていた。
「あった」
私は、ゲーム機を差し出した。
「ゲーム!」
男の子の顔が、パッと明るくなった。
「ありがとう、お姉さん!」
「よかったわね」
男の子は、嬉しそうにゲーム機を抱きしめた。
そこに、さっきの中学生たちがやってきた。
「ごめんなさい……」
三人は、頭を下げた。
男の子は、キョトンとしている。
「もうしません……」
「うん……」
男の子は、小さく頷いた。
中学生たちは、去っていった。
私は、男の子に言った。
「大切なものだから、家の中で遊びなさいね」
「でも……みんな外でゲームするんだもん」
私は、少し考えた。
「そう……時代か……」
男の子は、不思議そうな顔をしている。
「じゃあ、気をつけてね」
「うん! ありがとう、お姉さん!」
男の子は、嬉しそうに走っていった。
私は、その後ろ姿を見送った。
今は、外でも、どこでもゲームをする時代。
時代は、変わっていく。
私も、変わっていかなければ。
そんなことを考えながら、私は会社に戻った。
事務所に戻ると、佐藤くんが声をかけてきた。
「霧島さん、おかえりなさい。無事に届きましたか?」
「ええ、何も問題なかったわ。」
「よかったです。」
私は、自分の席に戻った。
私は、パソコンを開いて、いつもの仕事に戻った。
少しだけ心が温かかった。
たまには、こういう仕事もいいものだ。
外に出て、色々な人と関わって。
それは、事務所の中では経験できないこと。
私は、仕事を続けながら、ふと思った。
ひよりは、いつもこんな風に、外で色々な人と出会っているんだろうな。
営業という仕事は、大変だけど、きっと楽しいこともたくさんあるんだろう。
それぞれの仕事に、それぞれの良さがある。
私は、静かに事務をするのが好きだけど、たまには外に出るのも悪くない。
そんなことを考えながら、私は穏やかな午後を過ごした。
第17話、いかがでしたでしょうか。
名探偵・霧島澪、かっこよかったですね!
観察力と論理的思考。
それが、澪の強みです。
事務の仕事でも、そういう能力が活きている。
そして、困っている人を助ける優しさ。
クールだけど、温かい。
それが、澪という人間です。
「時代か...」のオチも、澪らしくて良かったですね。
次回、第18話はひより視点。木曜日、ひよりが大きな仕事を取るために奮闘します。でも、そこには思わぬ罠が...。ひよりが騙され、傷つく、辛い展開が待っています。少し重い内容ですが、大切な物語です。
第18話もお楽しみに。
最後まで読んでくださって、
ありがとうございました。




