第12話「見えないもの」
第12話は、二人揃っての金曜日の夜。
でも、今回はいつもと違います。
前回の怖い話が、さらに展開していきます。
ひよりが見てしまったもの。
それは...?
怖い描写もありますが、
最後は温かい気持ちになれるお話です。
二人で支え合う姿を、
感じていただけたら嬉しいです。
少しドキドキしますが、
最後まで読んでいただけたら幸いです。
それでは、第12話をお楽しみください。
金曜日の夜。いつものように、ひよりが私の部屋にやってきた。
「おじゃましまーす!」
「いらっしゃい」
私は、キッチンで鶏肉の照り焼きを作っていた。
ひよりは、いつものようにテーブルにビールを並べて、座った。
「今週もお疲れ様!」
「お疲れ様」
料理をテーブルに運ぶと、ひよりが目を輝かせた。
「美味しそう!」
「どうぞ」
ビールで乾杯して、食べ始めた。
「ねえねえ、澪さん! 水曜日にね、すっごく不思議なことがあったの!」
「不思議なこと?」
「うん! 白い猫に導かれて、新しいお客さんを見つけたの!」
ひよりは、興奮しながら話した。
営業で落ち込んでいた時に現れた白い猫。猫についていったら、商店街にたどり着いて、そこで新しい取引先を見つけた話。
「その猫ね、シロって名前なんだけど、おばあちゃんが言うには、時々縁を運んでくるんだって!」
「へえ、不思議ね」
「でしょ? もしかして、神様の使いとか?」
ひよりは、嬉しそうに笑っている。
私も、つられて笑った。
「それは良かったわね」
「うん! 来週から取引開始なの! 頑張らなきゃ!」
ひよりは、ビールを飲んで、照り焼きを頬張った。
「澪さんは、今週どうだった?」
私は、少し躊躇した。
昨日のこと。
地下の資料室で見たもの。
「実は……ちょっと怖いことがあったの」
「怖いこと?」
私は、昨日の出来事を話した。
古い資料室での体験。足音。冷たい風。そして、白いワンピースの女性の影。
話しているうちに、また背筋がゾクッとした。
「それで、佐藤くんに聞いたら、昔から噂があるらしいの。地下で、白いワンピースの女性を見たって」
ひよりは、黙って聞いていた。
いつもの明るい表情が、だんだんと固くなっていく。
「ひより?」
「あ、う、うん……」
ひよりは、少し震えている。
「大丈夫?」
「あ、澪さん……」
ひよりの声が、か細くなった。
「ち、ちょっと聞きたいんだけど……」
「何?」
「その……白いワンピースの女の人って……どんな感じだった?」
「どんな感じ……と言われても、ぼんやりとしか見えなかったけど。長い髪で、顔はぼやけていて」
ひよりの顔が、さらに青ざめた。
「ひより、どうしたの? 顔色、悪いわよ」
「あ、あのね……」
ひよりは、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「実は……さっきから、ずっと気になってたんだけど……」
「何が?」
「澪さんの……後ろ」
私の心臓が、ドクンと跳ねた。
「後ろ?」
「うん……来た時から、なんか……変な感じがしてて」
ひよりは、私の後ろを見ている。
いや、見ようとして、でも見られないような、そんな表情。
「何が見えるの?」
「え、えっと……」
ひよりは、震える手でビールを飲もうとして、グラスを倒しそうになった。
「落ち着いて。何が見えてるの?」
「あ、あのね……白い……ワンピース……」
私の血の気が引いた。
「嘘でしょ……」
「ほ、本当に! 澪さんの後ろに……誰か立ってる……」
私は、振り返りたくなかった。
でも、確認しなければ。
ゆっくりと、首を動かした。
後ろには、何もない。
キッチンの入り口があるだけ。
「誰もいないわよ」
「で、でも……」
ひよりは、まだ私の後ろを見ている。
「今も……いる……」
「ひより、落ち着いて。きっと疲れてるのよ」
「違う! 本当にいるの! 長い髪で……白いワンピースで……」
ひよりの声が、だんだん大きくなった。
「顔は……見えない……ぼやけてる……」
私は、立ち上がった。
「ひより、場所を変えましょう。リビングから出ましょう」
「う、うん……」
二人で、寝室に移動した。
ドアを閉めて、電気を明るくした。
ひよりは、ベッドに座って、震えている。
「大丈夫?」
「ご、ごめん……怖くて……」
「謝らなくていいわ」
私も、正直、怖かった。
ひよりが見たもの。
それは、私が昨日見たものと同じ。
まさか……ついてきた?
「澪さん、もしかして……」
「何?」
「その女の人、澪さんについてきちゃったんじゃ……」
その可能性は、考えたくなかった。
でも、否定できない。
「どうしよう……。」
私は、途方に暮れた。
ひよりは、スマホを取り出した。
「ね、ねえ、お祓いとか……した方がいいんじゃない?」
「お祓い……」
「うん! 調べてみるよ!」
ひよりは、必死にスマホで検索している。
その姿を見て、私は少し落ち着いた。
怖がっているのは、私だけじゃない。
ひよりも一緒にいてくれる。
「あった! 近くに、夜でもやってるお寺があるって!」
「夜でも?」
「うん! 緊急のお祓いも受け付けてるみたい!」
「行ってみる?」
「行こう! このままじゃ、怖くて眠れない!」
私たちは、急いで準備をした。
部屋を出る前に、もう一度リビングを見た。
何もいない。
でも、確かに何かがいる気がする。
冷たい空気。
視線。
私たちは、部屋を飛び出した。
夜の街を、二人で走った。
スマホの地図を頼りに、お寺に向かう。
息が切れても、走り続けた。
15分ほどで、お寺に着いた。
本堂には、まだ明かりがついている。
私たちは、門をくぐった。
住職らしい老人が、出てきた。
「どうされました?」
「あの……お祓いを……」
ひよりが、必死に説明した。
住職は、静かに頷いた。
「分かりました。少しお待ちください」
住職は、お経を唱えて、私にお札を渡してくれた。
「これを、家に貼ってください。玄関と、寝室に」
「ありがとうございます」
「大丈夫ですよ。もう、何もついていません」
住職の言葉に、私たちは少しだけ安心した。
お寺を出て、家に戻った。
玄関に入る前に、深呼吸をした。
「行くわよ」
「う、うん」
ドアを開けた。
部屋の中は、静かだった。
さっきまでの冷たい空気は、なくなっていた。
私たちは、お札を玄関と寝室に貼った。
「これで……大丈夫かな」
「うん、大丈夫」
ひよりは、まだ少し怖そうだったが、笑顔を作った。
「今日は……泊まっていい?」
「もちろん」
その夜、私たちは一緒に寝た。
電気は、つけたまま。
でも、二人でいると、少しだけ安心できた。
怖いものを見た夜。
でも、一人じゃなかった。
それが、何よりも心強かった。
第12話、いかがでしたでしょうか。
怖かったけど、最後は少しホッとしましたか?
二人で支え合う姿、素敵だったと思います。
怖い時こそ、誰かと一緒にいることの大切さ。
それを感じていただけたら嬉しいです。
でも、まだ終わりではありません。
白いワンピースの女性は、何者なのか。
本当に成仏できたのか。
次回、第13話は土曜日の朝。ひよりを見送った後、澪の前に再び彼女が現れます。でも、今度は怖くない。彼女の想いを知った時、澪は...。感動の第13話です。
第13話もお楽しみに。
最後まで読んでくださって、
ありがとうございました。




