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EX5 日本の隣の大陸編⑨




 長江を遡上していけるという事で、次の目的地は重慶市になった。

 三峡ダムの残骸?

 とても強敵でした。終焉魔王軍(仮称)よりも手ごわかった。

 沖縄本島を更地にした時よりも大変でした。土砂とか水がね。船が進むにはちょっと浅すぎる場所も多々あったので、解体魔法の応用でちょっとした浚渫作業もやらされまして。

 途中から見物の屋台船とか群がって大変でした。イルカとスナメリの大群も押しかけてきたし、やたらと人懐っこい。彼らにせがまれて、水中の瓦礫もそうだけど川底の汚泥とかもついでに処分する事になった。

 おかげで解体魔法の経験値が貯まる貯まる。

 まだ上限じゃなかったのかよと内心驚くくらいに、限界を超えていく。

 終わったら終わったで、地元の人たちに野菜とか果物とかお菓子とか山ほど押し付けられた。屋台飯も沢山。長江流域で水運とか農業やってる人たちで、何故か自分をウの王様とか拝み出す人もいる。ウサギの王様なら英国にいると思うので人違いだ。


「下手すると百年単位の大事業を、わずか数日で」

「それな」

「肉屋さんやっちまいましたねえ」


 アーアー聞こえない。

 咸臨丸は遡上する。いちおうマスケット銃のビームで瓦礫を吹き飛ばすというサブプランもあったけれど、其方は却下された。核ドラゴン出現以降、絶滅したはずのカワイルカが復活したり淡水生スナメリが増えたとか。こいつら絶滅危惧種とは思えない規模で集まってるのにねーとか驚いたら、地元民もこれほどの大群は初めて見たそうな。

 ダム瓦礫撤去が遅々として進まなかったのも、環境汚染でそれらの水棲動物が被害を受けるのを避けたかったからなんだとか。え、あなた達本当に中国人?という言葉が出かかったが、その心意気には賛同できる。

 ともかく少なくとも向こう五十年分の事業を咸臨丸が片付けた訳で、そりゃ少しは感謝もされるか。


「肉屋さんの影響で、解体スキル持ちをスカウトする産廃業者と建設業界が後を絶たないんですよね」

「社員教育の一環でダンジョン潜らせてスキル獲得させる例も聞いてます」

「自衛隊でも実は」


 アーアーアー聞こえない。

 とにかく重慶である。

 重慶に到着した。

 でっかい街らしい。

 全盛期には東京の二倍以上の人が暮らしていたというのだから、日本人の自分としては驚くしかない。少なく見積もって三千万だよ、三千万。

 しかも重慶市の面積、北海道とほぼ同じなんだって。

 沖縄より三十倍以上広いんだって、重慶市。

 ということは、重慶市に沖縄と上海でダンジョンに取り込まれた推定五千万強の中国人を全員解き放っても耐えられないかな? 今度こそいいよね?


「落ち着いてください肉屋さん」


 此方の内心を読んだのか、役人さんが慌てて自分を羽交い絞めにする。割と必死。負の信頼が凄い。自分そんな顔してましたか。手鏡ありがとうございます。いつにもましてひでえ顔が映っていますね、二人分。


「難民解放は重慶と北京のダンジョンも解放してからですっ。No-Bさん、重慶ダンジョンの特徴を教えていただけますか」

『一年中程よい気温で湿度もそこそこ。市街地に比べて天国のような環境なので、元より住民のダンジョン移住が相当進んでいたぞ。ダンジョンから核ドラゴンが出現した後も、重慶の民は街の外ではなくダンジョンに逃げ込んで難を逃れたのだ。幸いにもダンジョン内に放射能の残留は無かったので民の行動は正しかった』


 咸臨丸の甲板にビーチパラソルとサマーベッドを並べ、うつ伏せになって日光浴を堪能していたNo-Bからの情報は意外なものだった。


『No-Bの知る限り、過酷な環境からの逃避先としてここまでダンジョンを活用する民は希有であった。ある意味で日本以上、ダンジョンと最も共存できている人類とも言える。現在でも大半の真っ当な市民はダンジョンの中に居を構えている』

『むしろ今の市街地に散らばって悪さしているのは終焉魔王軍(笑)の残党やね。アイツらもともと基本的にダンジョンからとってきたモノの上前はねて暮らしてる連中や』


 甲斐甲斐しくNo-Bの背中にサンオイルを塗るHDY-Cが補足説明してくれた。

 この強烈な気温と湿度から逃れられる快適環境なら、確かにダンジョンに住んでもおかしくはない。日本でも重度の花粉症のためダンジョンに潜りっぱなしの凄腕がいたし。


「残党が直接ダンジョンに潜らない理由は?」


 羽交い絞めを解いた役人さんの問いかけは、もっともなものだ。


「それほど素晴らしい場所ならば攻め込まれたりは」

『このNo-Bが入場許可を出しておらぬ』

「あ」


 簡潔にしてぐうの音も出ない回答だった。


『民草を想い戦意と野心を捨てたものは入場できる。そのようにした。それでも地上に留まる者は、つまりそういう事であるな』

『ウチらがダンジョンの外からできる数少ない権能や』


 えへんぷいとHDY-Cは胸を張る。揺れる。

 周囲の男性陣が視線を泳がせる。揺れる。


『うへへえ』


 にんまりと嗤うHDY-C。

 林甫真人ら崑崙三人組が蚩尤派の逃れた北京に先行したため、HDY-CやNo-Bに積極的に絡む人材はぐっと減った。見た目がほぼ人間の女性とはいえダンジョンコアの亜種みたいな存在である。生物どころかモンスターという扱いすら正しいのかどうか。


「ゲームのヒロインっつーか、全身サイボーグのエロコスプレイヤーですかね」


 という匿名希望男性自衛官の意見が、身も蓋もないけれど多くの支持を得ていた。




 重慶ダンジョンの再起動もあっさり終わった。

 特筆すべきイベントはない。

 終焉魔王軍(仮称)は主戦力を北京組に持っていかれたそうで、咸臨丸が重慶入りする前に散り散りに逃げていた。文字通りの逃散だ。下手に広いので追撃しても遭難必至と言われ、探し出すのは諦めた。

 なのでダンジョンに全力投球、と思いきや。

 モンスターの襲撃以前の問題で、入ってすぐにコアが設置されていた。なにこの親切設計。

 むしろダンジョン内では都市建設が始まっており、コア再起動に併せて区画整理を手伝ってほしいと住民から要望を寄せられたりもした。重慶市民は本気でダンジョンに住むらしい。


安全地帯(セーフエリア)なら気候も穏やかで農業もできて、食料調達も問題ない。魔法やスキルを覚えれば低階層のモンスターも対処できる』


 工業製品などは外部調達頼りだから課題は山積みだがねと答えたのは、重慶の都市長だ。重慶のダンジョン攻略部隊で中核にいた人で、周りからリーダーに推されたと言う珍しいタイプ。この国では珍しいんじゃないかな。見渡す限り重慶のダンジョンは、試練の迷宮と言うよりもジオフロントと呼ぶ方が相応しい気がする。


『ダンジョンに適応して世代を重ねていけば、我々もまたモンスターとなるのかもしれない。しかし、重慶ダンジョンは手放すには惜しい環境なのだ』


 都市長がそう言って見せてくれたのは重慶のダンジョンで育てた野菜と果物。見た目は地上で採れたものと遜色はない。日本のダンジョンだとダンジョン内に長時間滞在する動植物は魔力を吸って変異を起こしそうなものだけれど、重慶ダンジョンはそれがない。おそらくNo-Bがダンジョンを鎮めた結果、この重慶はダンジョンでありながら人類居住の場として本格的に機能しているのだろう。

 犯罪者は程度にもよるけれど自動的にダンジョンを追放されるそうで、治安は悪くないそうだ。追い出されると言っても元の重慶市に飛ばされるだけ。重慶市自体もそこそこインフラ復旧しているので生きていくこと自体は問題ないだろう、と。

 ……

 ……

 都市長さんの目が笑ってない。


『だから沖縄を占拠していた三千万の難民を仮に受け入れたとして、果たして何人が追い出されずに済むのか予想もつかない』


 ほぼ全員ダンジョン素通りして地上の重慶市送りですね。分かります。

 一応だが重慶市そのものは現在も復興中だ。しかし面積だけで北海道と同程度ある世界最大規模の都市だけに、核ドラゴン襲撃で一度壊滅した痕を完璧な形で元に戻すのは難しい。まして中国の再統一を目指す上で重慶は外せない要所であり、終焉魔王軍(仮称)結成後の現在も都市の幾つかの場所ではチンピラやアジアンマフィアの残党などが不穏な動きを見せているらしい。既に小規模な衝突も始まっているという話すらある。


『ダンジョンに揉め事を持ち込まぬ限りにおいて野心は大いに結構である。北京程ではないが重慶にも野生のモンスターが大勢暴れているからな』

『No-B様、本音は?』

『是非に及ばず』


 原因の一端であるはずのNo-BもHDY-Cも他人事のように重慶市街地の小競り合いを切って捨てた。

 都市長さんが肯いていたことについては周囲はスルーを決めることにした。



 

◇◇◇




 最後に残った北京であるが、こちらは崑崙真人国が対処した。

 対処というか、殴り込みというか。総力戦?

 もともと蚩尤は崑崙でも反共を掲げテロ行為も辞さない過激派である。終焉魔王軍(仮称)の分裂時に主戦力の大半を自分の手勢とした蚩尤は、魔王軍が中国全土からかき集めた武器弾薬を奪って北京へと攻め上がった。

 目的は、共産党残党および彼らが確保し無力化を免れた核兵器群。

 核ドラゴンの誕生により核兵器にはコントロールできないリスクが認識された。ダンジョンそのものの報復もある。しかし人類を滅ぼし得る炎と毒こそがモンスターに対抗できる最後の手段と考えるものが少なからずいた。しかもそこに蚩尤派と、その暴走を危惧する林甫真人らが加わった訳である。


『危うく人類存亡の危機でした』


 と精魂尽き果てた林甫真人ら崑崙上層部が咸臨丸の甲板で突っ伏すのも致し方ない状況だったらしい。


『北京にも英国の工作機関が入り込んでいました。彼らの目的も核兵器の無力化だったので共闘しましたが、協力の対価として英国王室の助命への協力を求められてしまいました』


 人類存亡がかかってるなら仕方ないんじゃないかな。

 役人さんは渋い顔しながら速報として日本に報告している。核関連の話は放置できるものではないし、ロシアを含め複数の国で核ドラゴン出現時の混乱期に所在不明となったものが複数あるのは分かっている。

 中近東のダンジョンですら、報復として凄まじい数の犠牲者が出た。

 これで中国のダンジョンの何処かで核が使用されようものなら、少しでも中国人の血が流れている者が残らず処罰対象になっても不思議ではない。どこまで適用が拡大されるのか不明だが、解釈次第では朝鮮半島どころか東南アジアや日本も含まれる。南アジアも一部怪しい。移民系も該当するなら欧米だって無事では済まないだろう。

 ……

 ……

 消化試合のつもりだったけど、実は一番ピンチだったね。やべえ。

 それじゃあ北京ダンジョンを再起動するついでに、やっちまいますか。


『……それで、ですね。肉屋殿』


 はい、なんでしょう林甫真人。

 咸臨丸は北京に向かって進行中ですよ。


『なんで咸臨丸が地上を進んでいるんですか?』


 ……

 ……

 そこに気付いてしまいましたか。

 みんな気付かないふりをしていたんですけどね。


『はっはっはー、ウチも役立たずのタダ飯喰らいやないところ見せないとと思ってぎょーさん頑張ったんやで?』

『どうして頑張っちゃったのかなあ!』


 乳の下で腕を組み立派なものを強調しながら自慢げに胸を張るHDY-C。

 突っ伏してから腕立て伏せの要領で上体をそらし見上げるように叫ぶ林甫真人。

 道服の女と長袍の男は黙ってスポーツドリンクを飲んでいる。なおNo-Bの視線が長袍の男にロックオンされているようだが、それを指摘する者はいない。彼らの視線は、甲板に転がされているとある人物――蚩尤とされる崑崙過激派に集中していた。


「蚩尤、蚩尤ですか」

「伝承では様々な姿が伝えられているけれど、牛の角が生えてる事が多い。ゲーム好きはミノタウロスを連想する者もいる」

「なるほど一部が牛。牛、ですな」


 ホルスタイン柄のビキニにホットパンツとか、流行を七周半くらいして最先端かもしれません。HDY-Cも相当だと思ったけど、上には上がいるんだなあと。クーパー靱帯が宇宙合金製かよってくらい重力に逆らってません? 仰向けになってるのに一切垂れないとか、中身シリコンでももう少し自重しますよ? そのカチューシャみたいに生えてる可愛らしい牛の角が異形の証とか言いませんよね?


『くっ……殺せっ!』

『蚩尤、貴様が輝くのは戦場ではない。有明まんが祭りのコスプレ会場だ』


 押し倒した長袍の男に跨りながら満足そうにNo-Bは微笑み、


「武倫」


 教育に悪い絵面という事で、彼等はまとめて船底に転がり落とされ三時間ほど封鎖されることになった。


 



+登場人物紹介+

●三峡ダム群

核ドラゴンによって綺麗サッパリ破壊された。核ドラゴン二体が重慶と上海から現れた結果でもある。瓦礫と泥と莫大な量の水が長江流域を襲った。瓦礫と泥の大半は今回肉屋が解体魔法の餌食にした。大勢の見物人の前で。


●ウの王様

中国伝承では黄河の治水を頑張った伝説の人。夏王朝の最初の偉い人。ウサギの王様ではない。


●重慶市(地上部)

高温多湿という言葉が殺意と共に襲ってくる酷暑の都市。そのためすべてのインフラの中でも冷房関連技術が比較的早く復興した。暑すぎて内戦にならない。茹であがったチンピラが小競り合いしている。ダンジョン都市に工業製品を卸すことで生計を立てる者も少なくない。現在は下町工場とヤクザが主産業。


●重慶ダンジョン

快適な住環境を住民に提供する稀有なダンジョン。ここを核攻撃するとか正気の沙汰ではないが、住民に反政府思想が垣間見れたため当時の幹部がゴーサインを出してしまった。

アラスカや中近東ダンジョンと異なり、爆発のエネルギーと放射線をダンジョン側が一気に吸収した。その住民への想いと住民側の感謝が合体して強力な核ドラゴンを生み出したのは皮肉である。人類の綺麗な部分と汚い部分を知っている。とりあえずNo-Bと共謀し、略奪と支配を目論む連中を排除した。


●重慶ダンジョン都市長

中国では珍しく、周囲に推されてトップに就いた。都市機能に目途がついたら即座に後進に譲る意思を表明しているが、きっと生涯その地位にあるだろう。世が世なら禅譲されて大陸統一できる器。重慶ダンジョンで能力を獲得しているが、その穏やかな環境は狩場というよりも安全な移住先と判断して多くの市民を移住させた。結果的に核ドラゴン騒ぎで崩壊した中国政府に代わって重慶のかじ取りを任されるようになる。


●英国情報機関

北京ダンジョンに持ち込まれそうになった核兵器の無力化に動いている。人類愛というよりも英国王室助命の材料とするため。結果的に彼らは賭けに勝つことになる。


●核兵器

持ち運びできる小型核ばかりだが、数えるのも嫌になるほど北京に持ち込まれた。いざとなったら核ドラゴンを再び出現させて状況リセットを企んでいたが、中近東ダンジョンの報復を知って自らの自殺行為を理解したため使用されることなく死蔵されていた。


●HDY-C

強化パーツ。ダンジョンシップ咸臨丸に接続することで咸臨丸の地形適応が『海→陸/海』に変更された。移動力も増えている。船の部品みたいなパーツでコスプレしようとして周囲に止められた。解釈違いが発生した模様。


●No-B

ダンジョンの入場権限など地味に怖い機能が判明。露出の多い衣装を見せつけているのに日米関係者の身持ちの固さに困惑。百八の軍団の多くは色香にあっさり堕ちてた模様。消去法的に童貞臭い長袍の男にロックオンした。いいケツしておるではないか。オラッ。


●長袍の男

船底に連れ込まれNo-BとHDY-Cと三人きりになって三時間ほど閉じ込められた。ひぎぃ。もう敦盛踊れないッピ。


●肉屋

重慶ダンジョンの在り方に素直に感心した。上海のことは今も悪夢に見る。咸臨丸が平原を進む結果、資産価値と固定資産税の額が大変な事になると震えている。三峡ダムの片づけというか長江の流れを整える作業を一昼夜でやらされた結果、地元民から撮影されて動画が拡散した。黄河じゃないので許されると思っていたと本人は弁明している。


●蚩尤

崑崙真人国の過激派かつ異形をまとめる頭目の一人。昔は牛頭の巨人だったが、No-B配下となって強化された際に「攻撃力を一時的に上昇する代わりにオスらしさを少しずつ喪失していく」という代償つきブースト能力を得た。その能力を使いまくって戦い続けた結果、ホルスタイン柄ビキニにホットパンツ姿と牛角カチューシャ装備という美少女が爆誕した。

人類が嫌いで、異形達の安住の地を得るため共産主義者共をこの地上から排除したいと考えていた。全身が敏感肌となり発情期が強制発動した結果、相撲程度では発散できなくなっている。そうだね敦盛だね。


●船底での三時間

主に「敦盛」踊ったり「瓜あそび」をして過ごした。KENZENである。長袍の男はなぜかエナジードレインされ、蚩尤はヌタウナギまみれになって発見されることになる。

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― 新着の感想 ―
何で肉屋の周りにはTSした奴が集まるんでしょねぇw
>代償つきブースト能力 フリー素材仲間を増やしたかったのかな? ①の>夏のまんが祭りの時期に合わせて も納得の内容 それは兎も角、魔改造咸臨丸 車輪やキャタピラが付いているイメージが全くできず もし…
もう難民()は地上に解き放って適者生存してもらおうよ。 ただし、核に手を出したら塩で。
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