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EXシ ニライ・カナイ⑥

この物語はフィクションです。実在する人物団体などとは一切関係ありません。

還暦すぎてなおビキニアーマーの似合う美少女なんて存在しないんだ、存在しないんだよ読者そして作者……



 えー、自分です。

 口は災いの門と言いますか、自分の目の前を災厄とか破壊の化身が行進しているというか。


「しか」

「しかかかかか!」

「しか?」

「かーっかかかかかか!」


 パワーアップして角が枝分かれしたエゾオオツノシカの群れが四方八方にエゾシカコレダーを発射している。攻撃範囲が拡大しつつ貫通性能も向上したらしく、建物諸共モンスター達が蒸発している。鉄筋コンクリートが一瞬で蒸発していくって、どんなエネルギー量なんだとか考えたくない。

 時折拡散コレダーをかいくぐって襲い掛かってくるモンスター、二足歩行する羊っぽい怪物がいるが、これらを迎撃するのはやはりパワーアップしたわんこ達だ。


「わんんんんんっ」

「ばう! ばわうわわうわわんわん!」


 回転してる。

 物凄く回転してる。回転しすぎて超電磁してたり炎噴きあげたりブリザードしてたり属性様々だけど、並の三半規管では耐えられそうにない回転を得た八匹のわんこ達は二足歩行の羊たちを次々と蹴散らしていく。


「……かー」


 新入りの巨大カラスは唖然としつつも警戒を怠らない。

 沖縄本島は東京二十三区ふたつ分の面積があるらしい。意外と広い。でも米軍基地と自衛隊基地周辺は手出し無用なので、少しは楽だ。もっとも自分らが何かするまでもなく違法建築群は炎に包まれていて、エゾオオツノシカたちの破壊活動は有害物質発生を抑え込むのに役立っている。

 煙は有害だ。

 非合法薬物を大量に含むそれらを解毒魔法と解体魔法で除去しているだけで、気付けば辺りは更地になっている。しかし厄介さの点では中近東ダンジョンを上回るものがあり、自衛隊と米軍の人には咸臨丸で待機してもらうしかない。


「かあ」

「しか」


 怪しいものをカラスが見つけ、エゾオオツノシカたちが容赦なくコレダーを放つ。ダンジョンモンスター程度では驚きもしなくなっていたカラスが反応するのだから余程のものだと身構えると、煤まみれになりながら性別不祥の麗人が煙をかき分け現れる。方向から見て幾度もコレダーの直撃を受けたであろうに煤以外の汚れはない麗人は、古代中国風の衣装を身にまとい優雅な笑みを浮かべようとした。


『ごきげんよう東夷の同胞。蓬莱の仙人よ、この出会いを感謝し』

「しか」


 コレダーが麗人を直撃、吹き飛んだ。

 十数秒後。煙をかき分け再び現れる麗人。


『妾は人界にて林甫(リンプー)真人と呼ばれる者、こうして逢ったのも何かの縁』

「わん」


 アラスカわんわんタックルが麗人を直撃、またもや吹き飛んだ。

 三十秒後。瓦礫の中から三度現れる麗人。


『話を、話をしよう! 妾達に沖縄侵攻の意思はないし琉球人民共和国の後ろ盾になった覚えもない! ここに来たのも、暴走した沖縄ダンジョンを鎮めるため!』

「かー」


 カラスくんステイ。

 不満そうなカラスにトラフグカエル肉の干物を渡して我慢してもらい、ひとまず解体魔法を最大範囲で放つ……この前より範囲が五割増しになってるけど、見渡す限りのスラム街は消えた。麗人さんは呪符やマジックアイテムを大量に隠し持っているのは分かっているけど、自称仙人やってる崑崙探索者なんだから日本の自分ら以上にスキルや魔術に長けていると見るべきだ。


『ひえっ』


 ……

 ……

 なんか想定外の驚き方をされてるようで。




◇◇◇




 炎上した違法建築スラム街をあらかた解体する頃、崑崙真人国出身者と思しき男女を引きずったビキニ姐さんと合流した。解毒魔法も併用していたので不快な匂いに有毒な煙も消えており、歩いていても不快さはない。

 便利だな解体魔法。

 知らなかったぞ解体魔法。


「ねえ肉屋、ここ片付けるのに何回くらい解体魔法ぶっぱなしたの?」


 あまりに綺麗に瓦礫が消滅していたからか、ビキニ姐さんはあきれ顔だ。

 コンクリートもアスファルトもまとめて消えた。その上にあるモノは基本的に残らず消えた。元々の沖縄県民が暮らしているエリアは無事だけど、上下水道は早いうちに対処が必要だろうね。外に出て暴れていたモンスターは幕末ゴブリン族やエゾオオツノシカ君たちが残らず駆逐しており、複数のダンジョンはこれ以上のモンスターを吐き出していない。


『ダンジョンを暴走させる仕掛けは妾達が解除した。これは詫びであり、友好の証であり、敵対しないから勘弁してくださいという泣き言でもある』


 解体魔法を使った瓦礫撤去の一部始終を見た麗人さんが声を震わせている。視線を合わせようともしない。


『――こんなのが中堅探索者とか、東夷コワイ』

「肉屋を日本の探索者基準にしてほしくないかなっ」


 ビキニ姐さんにそんなことを言われる日が来るとは思いませんでしたよ自分。

 姐さんが引きずってきた道士っぽい男女は麗人さんを見ると「師父御無事で!」「いやどうみても精神的にオーバーキルっぽいけど生きてりゃ丸儲けです師父!」と叫びながら復活し、即座に姐さんの拳で撃沈した。


 姐さんに同行してきたエゾオオツノシカ君や土方ホブ三様が警戒を解いているので、自分も必要以上に身構えるのをやめる。綺麗サッパリ片付いたのを見たのか咸臨丸から連絡が届いたので状況を説明したら、基地のある方からヘリが飛び各種車両が咸臨丸のある港へと急行するようだ。

 沖縄の複数のダンジョンが呑み込んだ難民の数は合計で三千万に達した。その土地に敬意を払い真っ当に暮らしていた移民は呑み込まれなかった。決して多いとは言えないその移民達は二足歩行の羊たちに襲われ、現在治療を受けている。

 うん。

 樹木という樹木が切り倒され、まともな緑も残っていない。食糧をダンジョンに依存してるというのが冗談じゃないとわかるくらい、砂浜も農地も全部潰されていた。崖のエリアはテント村。ゴミだらけ。全部燃えて解体したけど。


「見渡す限り、岩と砂と土しか残ってないわ。徹底的にやったねえ肉屋」


 風評被害です。

 スラム街は確かに解体しましたが、それ以外はダンジョンの仕業ですよ。不本意とはいえスタンピードを起こして本島のほぼ全域を影響下に置いてしまったためか、複数あったダンジョンも統合して別物に変わったようです。

 そんなダンジョンの意向は、ですね。


【どれだけ廃棄物を処理して食料提供しても島をゴミの山にして何ら恥じるところのない人類って存在する価値ありますかねえ肉屋さん】


 です。


「いや説得してよ」

『やめて!』『数少ない人類に友好的なダンジョンが!』『赤道一帯の食糧事情が!』


 VR画面みたいに文字表示されたダンジョンの意思。ビキニ姐さんと崑崙三人組が悲鳴を上げる。


【みんなダンジョンモンスターにしてしまえばハッピーになると思いませんか肉屋さん】


 再び表示されるダンジョンの意思。

 今度は携帯端末からも悲鳴が聞こえてくる。咸臨丸待機組にも沖縄ダンジョンは意思表示したようだ。


【そうだ! 肉屋さんを頂点にしてダンジョンのモンスター達が平和に暮らす王国を作りましょう! ニライカナイ王国の誕生です、祝え!】

「しか」

【は? 肉屋さんは北海道でわくわく動物園王国を開設するから無理ですと? 冗談ではありません、ほぼ全領域を支配してるのに生命の可能性なんて益体もない御題目のために人類を野放しにしてる北海道ダンジョン連合など私の敵ではありませんが?】

「侮」

【幕府軍が勝ったら肉屋さんを旗印に江戸に再進攻する? 維新軍が勝ったら肉屋さん世代を虐げた老害共を残らず天誅する計画がある? ……ちょっとだけ興味が出てきました、詳しく話を】

「わふ」

【アラスカは肉屋さんの亡命には迅速に応じる用意がある、ですか。あのドラゴンビッチが待ち構えてる罠に肉屋さんを放り込めるわけないでしょう!】


 モンスター達とダンジョンの意思が色々と物騒なやり取りをしている件。


『おかしい、ダンジョンのスタンピードは解決したはずなのに別方向で暴走が起こっている。なんという貴重な症例、真理の探究者としての血が疼く!』『師父、ステイ』『さすがにドン引きです』


 崑崙真人国側も役に立たない。

 こうなったらもう異世界転移にワンチャン望みを託すべきかと考えていると、ビキニ姐さんが背負っていた大剣を地面にぶっ刺した。それだけで周囲数メートルの地面がすり鉢状に凹む。


「面倒くさい事言い出した連中、全員おしおき決定ね☆」

【ぴい】

「し、しかっ!?」

「不!」

「わ、わんわんおー」

『え、妾も? 妾も対象!? 待ってそのドラゴンぶった切った剣は本当に洒落にならないからやめてやめてやめてなんでもしますから』

「制☆裁」





 その日、沖縄本島を破壊の力が蹂躙した。

 核ドラゴンさえ一蹴したエゾオオツノシカを始めとする強力なモンスター達ですら無事で済まなかったその大惨事、その原因については後年多くのダンジョン研究者が様々な仮説を立て議論していくことになる。



+登場人物紹介+


●エゾオオツノシカ族

親分と同じく小型化したがその分パワーアップした。拡散エゾシカコレダーで沖縄本島を粉砕、建築物や汚染物質を分子レベルで崩壊に導いた。こいつらどさくさに紛れて眷属化しやがった。


●わんこ

外見は然程変化していないが中身がパワーアップした。気持ちが昂ると額に漢字一文字が浮かぶようになった。アラスカダンジョンとやりとりしてて肉屋亡命の機会をうかがっている。


●カラス

巨大化した。とはいえ人間一人か掴んで飛べる程度。現状は索敵役に甘んじているが食事が美味しいのですべて許している。


●林甫真人

男。外見は清楚系サキュバスが中華風ドレスを着ているけど男。たぶん切除済み。声もすごくえっちだけど男。その気になれば生える。崑崙真人国のトップに立つ仙人の一人。いわゆる穏健派。同胞の不始末の尻拭いに奔走している。肉屋とは前々から接触したかった。接触したのを後悔している。


●弟子二人

崑崙真人国の探索者。無事だった。ビキニ姐さんの鉄拳制裁を痛い思いをするだけで済んでるあたり上澄みの実力者である。


●沖縄ダンジョンの意思

複数ダンジョンを統合したためか他ダンジョンより自己主張が強い。


●肉屋

沖縄本島を端から端まで歩いて解体した。基地周辺を除いて文明の痕跡をほぼ残さないその解体っぷりに後年「背中から虹色の蝶々生える奴」とか「歩く黒歴史メーカー」とか言われるようになる。


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― 新着の感想 ―
月光ち 以下略!! 肉屋さんは洗濯物干してるくらい平和なのを望んでるのかも知れないけど、結局こういう扱い(笑)
ビキニ姐さんのパワーは肉屋何人分なのか…
やっぱビキニ姐さんなんよ
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