EXシ ニライ・カナイ⑤
このぉ物語はぁフィクションなのでぇ
実在の人物組織団体国家とはぁ
一切ぃ
か·ん·け·い
ありません☆
長袍姿の男は崑崙真人国でも最上位にあたる侠客である。
気功と体術を修め、林甫真人の高弟としてダンジョンを攻略し様々なモンスターを討伐した。祖国が崩壊した今、かの大陸より核ドラゴンを駆逐し平和を取り戻すのは彼のみならず崑崙真人国の悲願であった――討伐そのものは予期せぬ形で叶った訳だが。
可能ならばかつての祖国ような独裁体制で再興することなく、真の意味で共和と呼ぶに相応しい国家を築き上げたい。無論そこには多くの困難が待っていることも自覚している。
核兵器の多くを確保したまま勢力を保つ各地の軍閥、そこと結びついた地方政府。独立心の強い部族社会。英国に再び奪われた香港。数百年前の揉め事を掘り返して虐殺の根拠にしようとする連中も少なくない。秩序を求めるものがいる以上に混乱と利己に走るものは多く、海外で暮らす同胞を支援する目的で始まった筈のアジアンマフィアはダンジョン時代において世界有数の犯罪組織と成り果て数多の敵を作る始末。
それゆえ長袍姿の男と道服の女は師父の命を受けて崑崙の名をこれ以上貶めないよう各地を奔走し、その中で沖縄での企みを察知した。してしまった。琉球人民共和国など無視して自滅するのを待つべきだったと後悔しながら長袍姿の男は迫りくる轟雷を必死に逸らし続けた。
「しか」
轟雷である。
増築を重ねたスラムの建物を火災ごと吹き飛ばすプラズマの暴威。木材もコンクリートも鉄骨もまとめて塵となり、その崩壊は連鎖的に拡がっていく。蟠桃の枝より削りし長柄杓は邪気を祓い仙気を増幅するが、巨大な鹿の八つに分岐した角より放たれる雷は渦を巻いて大蛇と化し長袍姿の男へと襲いかかる。ただの雷であれば五行木気として蟠桃長柄杓で支配できるはずが、轟雷は男の予想に反し長柄杓に従わず暴れ狂う。琉球人民共和国のアジトでもあった県庁舎は既に土台が露出するほど削り砕かれ、その余波で最寄りのスラム街は炎をかき消され地面が露出するまで微塵となっている。五行の理など知ったことかと言わんばかりである。
『聞きしに勝る出鱈目ッぷりだな貴殿は!』
「しか」
だが男とて単独で竜種を調伏せしめた侠客である。
木行を司り陽の気の極みにある蟠桃の枝より削り出した長柄杓は、見た目の滑稽さにも関わらず崑崙でも屈指の法具。柄杓すなわち北斗の七星を象ったそれは陽と陰の極まった力を宿し、男の卓越した武技と組み合わさることで比肩するものなき強さを誇っていた。
今日この時までは。
目の前にいる鹿はただの動物ではない。
事前に聞いていたよりもふた回り程縮み、角は左右で八つに分岐している。雷気宿すそれは霊樹そのものであり、蟠桃よりも格上に見えるのは気のせいではないだろう。牽制にと五行の術符を投じても分岐のひとつが輝けば符は只の紙片として力を失い塵にと化す。それを考えれば幾度打ち合っても無事な長柄杓が非凡なのだとわかるが、男にとっては何の慰めにもならなかった。
『崑崙の技術でこの地のダンジョンが暴走したことは詫びる。下手人は既にダンジョンに呑まれ、島を汚した者達も裁きを受けている。それでもなお貴殿は島に破壊の雷を降らせて全てを灰燼に帰すか、そこまでの怒りを抱えているというのか貴殿は! 霊獣よ、貴殿は森羅万象の支配者にでもなったつもりか! 戦火を逃れこの地で懸命に生きようとしてきた者を貴殿は悪と断じるか!』
「しか?」
『ああ、そうとも。我らが同胞はこの地に押し掛け、乗っ取った。迎え入れられたのは事実だが、どのような経緯であれやったのは侵略であり新しい支配の既成事実化だ。そんなものは歴史の中で幾度も繰り返されてきた。何故今なのだ、何故今だけ貴殿は!森羅万象の体現者たる貴殿は此処で罰を与えるというのだ!』
叫び、長柄杓を振るう男。
ダンジョンであれば亜竜の頭を吹き飛ばす一打も、エゾオオツノシカの角を欠けさせることすら出来ずに弾き返される。それどころか体勢を崩し隙を晒した男の脇や背をオオツノシカは軽く踏むだけで逃がしている。最初から勝負になっていないし、相手にもされていない。
島と海を汚し尽くしても、それは同胞が必死に働いて新たに作り上げた安住の地だった。其処を拠点に赤道の国々を懐柔し崑崙と結びつきを深めるという大望もあった。時間がかかろうとも他所の地でやり直せばという思いもある。だがその時またこの霊獣という名の理不尽がやって来るかもしれない。いや、男は確信さえ抱いている。この獣は来る。獣を従えた者が来る。崑崙が国の外に手を伸ばす限り、すべてを粉砕する理不尽が目の前にいる。
男は決断した。
刺し違えてでもこの霊獣を討つ。
蟠桃の長柄杓を持つ己以外にこの霊獣に立ち向かえる者はいない。ならば今が最初にして最後、最高にして最悪の機会なのだ。軽身にて宙を舞う瓦礫の破片を足場に、時折空を踏んで加減速を交え、霊獣の呼吸を読んで虚実の狭間を狙う。紙兵分身を囮に使い、炎と雷が暴れ狂う沖縄の空に男の影が数十に分裂して獣を包囲する。
『崑崙武仙道が一流派、初伝・宝華蓮門百封陣』
男の掛け声と共に百に達した残像は分身となって虚実を繰り返して霊獣の懐に潜り込み、蟠桃の長柄杓を折れんばかりの勢いで突く。勁を込めた突きは霊獣の内を波として伝わる、それが同時に百。打ち消すことなく乱れ咲く波が花弁のように霊獣の身を細切れに引き裂く――当たっていれば。
「武」
技のかかりは男にとっても隙である。
捨て身の業だからこそ、反撃は覚悟の上。ひとつ身が滅びようと、残る九十九身が本願を果たす。そういう業であった。
煌めくは東洋の刃。
放たれるは、ただ一刀の必殺。されど必殺である。
蟠桃の長柄杓は真二つに断ち切られ、九十九の分け身は霞と消えて男一人が宙に残る。刀を構え現れたのは軍服を着た鬼。強いて言えばゴブリン。肉屋が土方ホブ三様と呼ぶ幕末ゴブリン族の一体。最弱とされるモンスターでありながら、潜り抜けた戦場の重さが辺りの空気を歪めるほどの武威として身に帯びている。
その鬼の一刀。
気付けば手足の腱を断たれ顎を砕かれていた男は妹弟子がそうだったように顔を鷲掴みにされて、宙吊りとなった。
「しか」
「不」
やや不満げな霊獣に鬼は首を振り、すると周囲を蹂躙していた雷は消える。微塵に砕けたスラムの残骸が砂礫のように積もり、辛うじて人の営みがあったと認識できる。霊獣がその気になれば砂粒ひとつ痕跡すら残さなかっただろうが、鬼は霊獣を鎮めてみせた。
「ヤッホー、鹿ちゃんにホブ三様。ナイス手加減」
そんな二体のモンスターに声をかけるのはビキニメイル姿の外見美少女の剣士。米俵のように道士服の女を担ぎ、暢気に手を振っている。つい先刻までこの辺りには絶望的な破壊の力が吹き荒れていたはずだが、微塵もその影響を受けた様子はない。
「崑崙の連中がどこまで関与してるのか調べたいからさ、生かした状態で確保してくれて嬉しいわ。おねーさん感謝しちゃう」
「し、しかぁ」
「……御不臨」
土埃すら被った様子の無い彼女の姿に二体のモンスターは驚きを通り越して呆れるばかりであった。
+登場人物紹介+
●長袍姿の男
崑崙真人国の有力者。日本で言うところのビキニ姐さん級の扱い。気功と体術を極めつつも紙兵分身や幻術などを駆使して変幻自在の戦い方をする。した。ビキニ姐さん相手ならば善戦できた。真っ赤な理想は抱いていないが思春期にありがちな万能感を大人になっても抱いている。
●崑崙武仙道が一流派、初伝・宝華蓮門百封陣
長袍姿の男がハイテンションになって叫んだ。武仙道なんてないし流派もないし初伝技なんてのもない。完全創作。ノリでカッコイイ感じの言葉を並べただけ。読み方は「しょでん・ぽっかれもんひゃくふうじん」。
●エゾオオツノシカ君
進化(?)形態。ガゼル角が通常の鹿ただし八つに分岐する角になって身体が二回りほど縮んだ。それでも8メートル級。
●土方ホブ三様
進化(?)形態。イケメン度が増した。でもゴブリン。そして幕末。やはり幕末。咸臨丸から何らかの支援を得られるらしい。
●ビキニ姐さん
美少女なのでエゾオオツノシカ君のコレダーに巻き込まれても一切汚れたりしない。美少女なので。




