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EXシ ニライ・カナイ④

この物語はフィクションです。

現実の沖縄は三千万もの難民が押し寄せることはないしわずか数年で畑も自然も全部潰してスラム街にされるような事態にはなっておりません。

フィクションだからね。

人物組織団体国家とは何の関係もありません。ない。ないなななななn




 沖縄本島が燃えている。

 ダンジョンがスタンピードを起こしたのだから、どこかで火災くらいは発生するだろう。

 咸臨丸からの謎ビームが当たった訳ではあるまい。

 多分違う。

 地球は丸い。

 そもそも自分は撃ってないし。

 沿岸部に座礁して中国共産党幹部の屋敷になってる空母、上半分が削れたように消滅しているけど多分気のせい。あ、木っ端微塵に爆発した。


「不幸な事故ゴブ」

「スタンピード許せないゴブ」


 そういうことになった。

 ただでさえ隙間がないほど違法建築で埋め尽くされていた沖縄本島なのだから、一か所で火の手が上がれば延焼は避けられない。傘寿過ぎた人のバースデーケーキだってもう少し遠慮するよってくらいに燃えている。

 悲鳴は聞こえない。

 人の気配が無いのだ。


「米軍基地と自衛隊基地から連絡。沖縄本島に巨大な魔法陣が発生した途端、スラム群の住民が消失。高確率でダンジョンに呑み込まれたと」


 元から住んでる県民は無事らしいが、県知事やその幹部との連絡がつかず収拾がつかない。見る間に火災は本島ほぼ全域に拡大し、消火活動を試みていた人達も今は無事だった住民の救出に動いている。地元の沖縄ダンジョンで活動している探索者が救助の中心で、島内に溢れ出たモンスターの討伐も兼ねている。


 スタンピード初期に出てきたのは割と温厚で少々間抜けな黒豚系の魔獣。

 今は二本足で走る羊だ。かなり凶暴らしい。

 煙で空は濁っている。

 では海はと言えば、ヘドロと汚水で透明度を問う以前の状態。沿岸からまだ距離があるというのに、わんこたちが鼻を押さえているくらいには酷い腐臭。かつての沖縄の姿など写真や映像でしか知らないが、高度経済成長期の東京近辺のドブ川だってもう少し綺麗ではないかと思う程の汚物やゴミであふれている。


「これが地上の楽園」


 役人さんがマスクを着用しながら吐き捨てる。本島の港が見えたあたりだというのに、無害とは言い難い煙が咸臨丸にも漂ってきている。呼吸器の弱い人だと喘息の発作を起こしかねないだろう。解毒魔法を展開するが、この分では本島全域がこれより酷い環境なのは想像に難くない。

 うん。

 なあ、みんな。


「しか」「御」「わふん」「かー」


 自分、あの島を更地にしたいと思う。しなきゃいけないと思うんだ。

 だから力、貸してください。

 ……

 ……

 あの、皆なんでぺかーって光ってるのかな。なんか謎の紋様浮かんでるし、同じマークが自分の手の甲にも浮かんできたんだけど。ただの意思表示だよ、ただの決意表明だよ。ちっぽけな正義感とかそういうのをさ、少しばかり自覚したというか。


「しかかかかかか!」「武分!」「わおおおおおん!」「か!」


 ぬわーっ。

 進化キャンセル、キャンセルボタンはどこですか!




◇◇◇ 




 仏国を壊滅寸前まで追い込んだダンジョン事件は、ただでさえ冷ややかな目で見られていた崑崙真人国の評判をどん底にまで叩き落した。

 秘宝である不老不死の蟠桃を大盤振る舞いすることで最低限の体面こそ保っているが、それはあくまでも欧州での話。事態解決にあたった合衆国と日本からは完全に敵視された。どちらの国も反政府勢力に以前から資金や物資を援助していた事もあり、特に日本ではほんの数年間だが革新政党に政権を握らせるまでに至った。その勢いを借りて崑崙真人国に忠誠を誓う人物を沖縄県知事に送り込むことにも成功したのだが、琉球人民共和国の宣言は彼らにとっても想定外の展開だった。


『確かに我々は沖縄県を実効支配しそれを足掛かりに赤道近辺のコネクションを再編するよう要請した。だが日本政府に喧嘩を売るような真似はくれぐれも慎むべきと再三に渡って伝えたのも事実だ。ましてや琉球人民共和国の独立を指図したこともなければ後ろ楯になった覚えもない!』


 沖縄県知事改め琉球人民共和国初代書記長の執務室。

 出入口の床に足拭きマット代わりに日本の国旗を敷き、皇室全員の写真も踏みつけるように配置した悪趣味さを隠そうともしない自称人民共和国幹部達を睨み、道服の女は抗議の声を上げた。

 沖縄ダンジョンの食糧は崑崙真人国にとっても重要で、彼女はダンジョンの人為的氾濫に反対の立場だった。ミクロネシアへの食糧支援という名目でアジアンマフィアの勢力を送り込む絶好の機会であり、ミクロネシアのダンジョン産物を他国に知られる前に確保する必要があるのだ。

 ただでさえ仏国での失態で崑崙は追い詰められている。

 真理追究に余念の無い指導者はともかく、ダンジョンにてモンスターを狩り仙骨を育てている最中の彼女は少し強めの探索者でしかない。仙術によりダンジョンの裁きより逃れているものの、それはダンジョン側の温情あってのもの。彼女より少しばかり年若の道士が目の前で巨大なカタツムリになって果てたのを目の当たりにした時、崑崙が崖っぷちに立たされていることを自覚した。が、目の前にいる老人達はそう考えなかったようだ。


「何を恐れることがあるのです娘々(ニャンニャン)。人為的にダンジョンを暴走させる技術は、言わば綺麗な核兵器と呼んで差し支えの無い切り札です。どの国も持たないこの力を崑崙真人国が生み出し、我が琉球人民共和国がその恩恵に与って日米の軍隊を叩き出す。そうして初めて我が琉球人民共和国は真に平和な楽園として世界の尊敬を集めるのですよ」

『……呆れた。本気で言ってるのね』


 執務室の窓より見えるのは、安全基準など一切考えずに増築を繰り返し本島の半分近くを占めるほどにまで拡がったスラム街が燃えている様子だ。汚物の燃える臭いに混じって違法薬物の成分が煙に溶け込み、まともに吸えば即座に意識を失い、数分で廃人に至る毒性を帯びている。

 なるほどこの状況では遠からず自衛隊も米軍も沖縄から姿を消すだろう。空も大地も海原も重篤に汚染され致死性の毒煙に覆われた地ならば、軍隊も争い事もなくなるのは確かだ。誰もいなくなるのだから。


「なにも心配ありませんよ。崑崙の技術でダンジョンの裁きより逃れられた我々は、軍隊が消えて島に蔓延した毒が薄れるまで最寄りのダンジョンにでも潜ってしまえばいいのです。事実、大陸からの同志たちもダンジョンにいるのでしょう?」


 知事は心底愉快そうに嗤う。

 彼に味方しないのは警察と自衛隊そして在日米軍関係者くらいだ。それ以外の反対住民は他の島に追放した。各基地周辺に往生際悪く留まっている連中はスタンピードの最優先目標としてモンスター達に襲うよう指示してあるし、自衛隊も在日米軍も襲撃対象だ。たとえ撃退されたとしても、銃火器や兵器を使用したという事実だけで非難はできる。非公式ながら英国から支援の打診も受けている。ロシアは消滅し、仏国は機能停止。中国の後継である崑崙と英国が後ろ楯になれば、国連の安保理事会で米国を敵に回しても勝算があると知事は胸を張る。女道士は唖然とするしかない。


『え、いまの本気? 崑崙は常任理事国どころか加盟国承認されてないし、仏国の件で国家転覆を企むテロリスト集団扱いされてるのを現在進行形で訂正しようと必死なんだけど。あと仏国は機能停止から復帰してるし全国民をあげて親米親日モードを今後四半世紀は続けそうよ?』

「ははは、娘々はジョークがお好きなようだ。仮にそうだとしても、自衛隊の秘密兵器である魔石メーサー砲は魔石エンジンと共にメンテナンス中。残された国の戦力でダンジョンのスタンピードを対処できないのはほぼ確定でしょうな」


 伝統布地を人民服風に仕立てて着ている幹部連中は、道服の女を嘲笑うように大げさな身振りで否定した。彼らは道徳的に正しいことをやっており、非難される謂れは一切ないと信じている。悪いのは日本政府であり合衆国だ。間違っているのは彼らの正義を認めようとしなかった日本人達だ。

 彼らは正しい。

 間違った連中に非難されてもそれは己の正しさを裏付けするだけに過ぎない。

 彼らにとっては道服の女も便利な駒であり、力は多少あっても正義と知性の足りない若造だった。


「琉球人民共和国はやがて新世界の中心となるでしょう。娘々は御国に帰って我らの決意をお伝えなさい」

『――いいえ。アンタ達の破滅は確定した。崑崙もこのままだと滅びる。師父への義理立てでここまで来たが、私はもう手を引こう。救いようがない』

「は。やはり若いお嬢さんは大局を見る目がない」


 煽るように、しかし額に青筋を浮かべて県知事が対談の終了を告げる。

 直後。

 道服の女は反射的に床へと伏せた。ほぼ同じタイミングで建物の外から青い光の刃が二度三度透過するように走り抜けていく。ぶわりと女の顔に汗の球が浮かび、総毛立つ。どさどさと崩れ落ちる音に伏せていた顔を上げれば床から伸びた無数の手に掴まれて崩れ落ちる県知事たちの姿があった。


「迷宮の手が!」「何故だ、僕たちは護符があるから無事のはずでは」「そんな、何十枚もある護符が全部細切れにっ」「い、いやだぁ! 引き込まないでくれ!」「助けて娘々っ!」


 迷宮からの干渉を封じる崑崙の護符。

 それが県知事たちの強気の理由でもあった。道士級の崑崙民に支給されるそれをわざわざ沖縄県知事とその周辺にばらまいていたのだが、彼等は末端の同志には配らず自分達の身を護るために独占していたようだ。


「た、探索者を呼べ!」「いますぐ迷宮のスタンピードを鎮静化させて!」「いやだあ、いやだァ!」「護符を、予備の護符を!」「あんたの持ってる護符を寄越せ!」


 身体の半分を呑み込まれている県知事たちが必死の形相で道士服の女に掴みかかろうとするが、肝心の女は顔面を鷲掴みにされて宙吊りになっていた。階下より床を突き破って現れた人影は必殺の握力をもって道士服の女から抵抗の意思を奪い、県知事らに絶望を与えた。


「その真っ赤なビキニメイル!」「その破廉恥なツインテール!」「その不適切に高い露出とけしからん尻!」「馬鹿な。何故日本の最高戦力がここにいる!」


 彼等の叫びには答えず、ビキニ姐さんは背負っていた大剣を真横に一閃する。ただそれだけで建物十階相当分が微塵となって吹き飛び、県知事らは声にならない悲鳴を上げた。

 ただの一刀で地下鉄六本木駅周辺の地上と地下を両断した少女(外見のみ)は手の中で痙攣を始めた道士服の女を面倒臭そうに投げ捨て、火災の煙を突き破って現れた、中華風の竹笠で顔を隠した長袍(チャンパオ)姿の男に大剣を向ける。


『東夷にて竜を討ち不老長寿に至った武仙女がいると聞くが、いやはや凄まじきものよ。そこな道士は未熟者なれど我と同じく林甫真人が門弟の一人、無礼は深く詫びるゆえ彼女をこれ以上傷つけず退いてはくれまいか?』


 長袍(チャンパオ)姿の男は長柄杓をクルクルと回し、ビキニ姐さんが突き出した大剣の切っ先へと重ね当てる。込められた気と気が弾けて放電し、その余波が円周状に放たれて建物を砕く。


『恐るべき闘気だ。我が勁を以てして吸えず逸らせず、弾くしか出来ぬ。貴女の牙を収めることは能わぬのか』

「いいわよ」素っ気なくビキニ姐さんは大剣を戻し背負い直す「馬鹿共はダンジョンに呑まれた。護符を裂いてもこの女は呑み込まれなかった。ギリギリだけどダンジョンはアンタ達に悪意はなかったと判断した、ならこれ以上争う意味はない」


 でもね、と呟きながらビキニ姐さんは嘆息する。

 そして指さす先より迫る轟雷に引きつった笑みを返した。


「アンタ達はいちばん敵にしちゃいけない相手に喧嘩を売ったの。その仲裁は出来そうにないから自力でなんとかすることね」







+登場人物紹介+


●難民

当時の沖縄県知事が独断で無制限受け入れを宣言した結果、違法ブローカー(後のアジアンマフィアの原型)達が三千万にもおよぶ難民を本当に押し込んだ。当時の沖縄総人口の二十倍に相当する難民により本島市街地は占拠され、違法建築物が島の半分以上を覆う有様となった。彼らはここで祖国の文化と言語と通貨と法律を復活させた。まっとうな神経を持った難民は正式な手続きを経て全国に散った。アジアンマフィアの隠れ拠点と化していた。


●海

ゴミ、たれ流しの糞尿、生活排水、死体が浮いている。海岸線から沖合1キロくらいまでゴミと係留された武装漁船などで海面がほぼ見えない。活動家たちは楽園の海と称賛している。


●市街地

基地周辺は辛うじて無事。県庁もギリギリ無事。それ以外は違法建築のし過ぎで一個の巨大な繭みたいになっている。車道すら埋まっており、電動キックボードやスクーターなどで移動する者が多い。富裕層はそもそも本島を脱出している。まっとうな難民は基地周辺で頑張っている。


●モンスター達

みなぎっている。


●道服の女

崑崙真人国の使者。娘々と呼ばれているが愛称ですらない。崑崙有力者の一人に師事し、ダンジョンでもある程度の活動ができる実力者。後輩が仏国ダンジョンの裁きに遭ったのを見て自分達の正しさを疑い始めている。床下からダイナミックエントリーしたビキニ姐さんに瞬殺された。


●長袍の男

娘々の兄弟子にあたる。長柄杓を武器のように振り回すカンフー映画に出てきそうな青年。竹笠で顔を半分隠している。ビキニ姐さん相手に短時間だが良い勝負できた程度には強い。


●県知事

琉球人民共和国初代書記長。学生時代は平和活動に従事し地元新聞社に就職、革新系TV局のコメンテーター、TV番組の司会者を経て国会議員を二期、地元に戻って県知事を三期。学生時代から英国と接点があった模様。琉球人民共和国構想は英国からもたらされた。


●知事の同志達

日本政府がきっちり沖縄に目を向けたら破滅間違いなしなので知事に全額ベットした。なお結末。


●肉屋

なんで人生ってキャンセルボタンが見つからないんだろう。



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― 新着の感想 ―
ゴブ、シカ、ワンコ、カラスが四天王に…w
キングオブミィトォォォォ! 肉屋のこの手が光って唸るぅ! もしくは、護武ディオンハンマァァァァァ!! 違法建築物よ!光になれぇぇぇぇぇ! なんか幻視しちゃいました。 はー、こっちの世界も沖縄県の屑共…
やったぜ!(無期限)契約の時間だぁ!! それはそうとネットが寸断されたから好き勝手できるぜレベルの救いようのないやつが多すぎるというか外界と隔離されたらこれし始めるやつが沢山居そうなの怖すぎる……。
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