EXシ ニライ・カナイ③
この!
物語に!
とう!
じょう!
する!
人物組織団体国家思想はフィクションだから真に受けないようにしてください。
海原を一隻の艦が進む。
現代では考えられない木造50メートル級の軍艦だ。
……
……
【鑑定結果:沈没した咸臨丸をダンジョンがサルベージ。オークマザーの木材をベースに修復しダンジョンで再現した試製魔石エンジンを搭載。小人サイズの植物属性オーク達が船員として活動中】
……
……
歴史マニアっぽい自衛官が涙を流しながら写真を撮りまくっている。船員としてちょこまか動いている小人オークは幕末ゴブリン族に似た衣装で、こちらに時々海軍式敬礼などしてくる。畜生ちょっと可愛い。
軍艦としてはともかくエゾオオツノシカ君たちも乗るくらいには大きいし、見た目以上にパワーもある。
「いやいやいや」
「まてまてまて」
「なんで幕末期の木造軍艦が50ノット巡航できるんですかあ!」
主に自衛官らが絶叫している。
魔石エンジン特性というよりもダンジョン素材で作られた船体が水の抵抗を減らしているのか、それとも魔法的なナニカが働いているのか。外洋に出てるし波も高いはずなのに艦はほとんど揺れていない。
怖いので艦首部分を確かめた者はいない。
土方ホブ三様の軍服がどこかロマンあふれるデザインに変わってるのとか突っ込みどころは沢山ある。もはや沖縄県知事の暴走とか明後日に投げ出したくなるこの艦は、箱館港に突如として出現した幕末ゴブリン族の軍艦だった。
自分のではない。
疑わしげな目を向けられても無駄だ。
「輸送船は魔石エンジンのオーバーホール中でしたし、アレでも自国に自衛隊の艦を派遣することは手続き上かなり面倒だったので文字通り渡りに船ではあったんですが」
自衛隊の技術士官が悔しそうに唸る。
「これ本当に幕末ゴブリン族の所有物なんですか? 肉屋さんの意思に従ったりしないんですか?」
土方ホブ三様は艦長っぽく振舞ってるだけで、実際の操船は植物属性オーク達ですからねえ。
たぶんエゾオオツノシカ君がオーナー扱いじゃないかな。
「しか?」
「なるほど実質肉屋さんの所有物だと」
やめてください固定資産税でしんでしまいます。
◇◇◇
琉球人民共和国は独立宣言と同時に海軍を設立した。
沖縄に押し寄せる際に使った各種船舶の武装化で、それらは元々エンジン強化して武装化した漁船が多く使われ東南アジア一帯で猛威を振るっていた。迷惑かけ放題だったとも言う。沖縄に押し寄せた船舶の中には空母もあったのだがそれらは燃料を確保できず、半ば座礁同然に強引に接岸して、軍関係者や共産党幹部の新しい住居として改造されているらしい。
つまりアジアンマフィア連中が武装漁船でやって来た訳である。
「おそらく30ノット級の速度で迫る中小船舶から携行型ロケット弾だの改造ドローンによる爆弾投下が主な攻撃手段と思われます。重機関銃も設置されてるでしょうね」
本来なら亡命時にそれらの武装は解除されているはずだが、人道支援の名のもとに沖縄県知事が無審査無条件受け入れを表明し海上保安庁どころか入管の関与すら排除したため、武装船舶はそのまま沖縄に居着いてしまい自衛隊や在日米軍も迂闊に動けば市民を巻き添えにしかねない状況を生み出してしまった。
世界中がダンジョン関係で混乱していなければ速攻で叩き潰されていたか水際で食い止められていたであろう大惨事であり、そのツケが今こうして鹿児島を超えて沖縄県に接近中の咸臨丸(ダンジョン改装仕様)に迫っている訳だ。
「武」
幕末ゴブリン族がやる気だ。
すっっっっごい、やる気だ。
幕末コスプレした人間達もやる気だ。おい待てそこの役人と米兵と自衛官。ほぼ全員じゃないか。
「これは艦長命令だから仕方ないゴブ」
「ダンジョンシップの強制力に支配されてしまったゴブ」
「一発だけなら誤射だゴブ」
「どうせ射程距離が足りないから威嚇射撃ですゴブ」
どうしようツッコミ不在。
ちっちゃいオーク船員も武器を用意している。時代劇に出てくるような骨とう品みたいなマスケット銃に見えるが、日本のダンジョンは銃火器不使用のためダンジョン側も基本的に近接武器くらいしか持っていないはず。
……
……
考えてみたら城郭公園でも幕末軍と新政府軍が小銃武装してたか。ぜんぶ空砲でヤットウによる斬り合いがメインだけど。
そんな感じで油断していたのがまずかったらしい。
「武羅唖唖唖唖唖唖唖唖唖!」
土方ホブ三様の号令と共に発射されたマスケット銃から次々と放たれる極太のビーム。
ビーム。
海上をほぼ光の速さで突き進むビーム。
海面を一部蒸発させつつも一切減衰することのないビーム。
武装漁船に炸裂するや船体を穴だらけにするどころか爆発させてしまうビーム。
あまりの威力に人間組が硬直し、土方ホブ三様も唖然としているけど植物属性オーク組が嬉々として武装漁船を爆発させていく。
数千隻ありそうな大船団が、昔のSFアニメーションで無敵な不殺ロボによる虐殺ショーみたいなノリで削られる。逃げ出そうにも機動力も射程も威力も足りない。自爆覚悟で突っ込んできても、巡航速度がそもそも倍近く違う。船体爆発して海に投げ出された連中を救助することも当然しない。
「臨」
土方ホブ三様の呟きに、咸臨丸が一瞬発光する。ついで周辺海域に巨大な魔法陣が幾つも生まれて吹き飛ばされた船体や乗組員が残らず呑み込まれていく。中国語っぽい絶叫や悲鳴が聞こえてくるけど、こちらでは手の打ちようもないというか。あれ、ダンジョンの制裁だろうね。たぶん沖縄ダンジョンの。
「肉屋さん、ちょっと国防とダンジョン攻略に関して重大かつ喫緊の話し合いをしませんか」
武装漁船団が全滅したのでマスケット銃を回収された自衛官さんが青い顔で此方を見ている。いや撃ったの貴方達ですよね。自分は何もしてませんし。
「骨董品のライフルからバスター砲みたいな破壊光線出るとか予想できなかったんですよお!」
「あばばばばば、あばばばばばばばばば」
「反動ほぼゼロで精密射撃も可能どころか照準補正もされてた……」
「肉屋さん、日米同盟に参加してみませんか」
落ち着け役人。
正当防衛、正当防衛です。自分が目撃者。そもそも向こう側はテロリストでしょ。
まずは沖縄ダンジョンのスタンピードを止めましょう。もうじき沖縄本島ですから、気合いをいれましょうね。
あ。
ちっちゃいオーク船員がえいえいおーと拳を突き上げて、咸臨丸も発光して速度が更に上がったっぽい。
「……肉屋さん。やはり個人でこの艦を所有してるんですね」
やはりとかいわんで下さい既成事実化されるんで。
+登場人物+
●咸臨丸(ダンジョン仕様)
原型はオランダで建造された木造軍艦で3本マストに蒸気機関によるスクリュー推進。明治時代に箱館に近い沖で座礁、沈没したこの艦の情報を箱館ダンジョンがスキャン。オークマザーの木材を用いて船体を再現。試製魔石エンジンを再現して搭載。身長70センチくらいの小型オーク船員80名によって運用されている。巡航速度50ノット。固定武装は不明だが冗談のような破壊力を持ったマスケット銃を多数所有。エゾオオツノシカ君の移動手段。
●謎のマスケット銃
ダンジョンが「探索者相手に使う訳じゃないから遠慮はいらんやろ」というノリで用意した外見マスケット銃。えぐい射程距離とえぐい破壊力の極太ビームを放つことしかわかっていない。肉屋に怒られて姿を消した。
●琉球人民共和国海軍
実質構成員はアジアンマフィア残党。中国本土から沖縄へ難民を輸送するビジネスで財を成した連中も多数含まれる。重機関銃やロケット砲に加えてドローン爆弾など武装も豊富だった。咸臨丸が来なかった場合、鹿児島辺りを攻める予定だった。海の藻屑になる前にダンジョンに呑まれた。
●肉屋
咸臨丸の艦首から謎の巨大破壊光線が発射されなくて心底安心している。




