EXシ ニライ・カナイ②
この作品はフィクションです。
実在の人物組織団体国家宗教とは関係ありません。
あってたまるかーっ!という描き方をしています。
ユーラシア大陸東側の超大国が核ドラゴンによって滅びた際、周辺国の多くは難民受け入れを拒否した。
なにせ公称十数億人である。
その一割ですら大抵の国家が抱える人口を超えてしまう。
だから、まず台湾が拒んだ。これは歴史的経緯からも当然の対応だった。
領海問題で揉めているフィリピンも拒んだ。これを機に国内のスパイを叩き出しさえした。
国土面積の点でシンガポールは論外。
タイ、ラオス、ミャンマー、ベトナムは自国のダンジョン対応中に陸路で国境を突破されて相当数が侵入。アジアンマフィアの原型のひとつとなった。
そういった阿鼻叫喚の中、諸手を挙げて難民受け入れを表明したのが沖縄県知事である。
当然、国の意向など全く無視している。
自衛隊と在日米軍への嫌がらせに在任期間の大半を費やしてきたと言っても過言ではない革新派の知事は、当時の沖縄県人口の二十倍相当の難民を沖縄本島に受け入れた。独断で。日本政府の要請をガン無視して。政府で沖縄県知事の決定を支持したのは外務省の一部と与野党の一部議員。それから革新的な知識層にマスコミは沖縄県知事の決定を熱烈に支持した。
OKINAWAを地上の楽園にしよう。
ダンジョンが出現した翌年くらいの話だ。
『いやぁ、話には聞いてたけど凄いよ沖縄』
探索者組合の沖縄支部からの通信で、真っ赤なビキニメイル姿の見た目だけは美少女の超ベテランが獰猛な笑みを見せる。
『農地すら潰して本島まるごと九龍城砦にした感じ。自衛隊基地と米軍基地周辺くらいしか面影残ってないの。日本語通じるのもその辺だけだし』
まっとうな沖縄県民は周辺の島に逃げたとか聞いたけど、そんな状態だったんですか。微塵も興味なかったので知りませんでしたが、姐さんどうしてそんな場所に行こうと――って、お孫さんの結婚相手が沖縄の人でしたっけ。
『そーそー、横浜で仕事してたけど結婚と出産の報告兼ねて実家に行きませんかって誘われてさあ。いやあ十年ぶりの沖縄って聞いてイヤな予感してたけど斜め下だったわ』
妙に肌をツヤツヤさせて姐さんが笑う。
沖縄グルメを満喫されてるらしい。こっちの同業者が「何も知らない修学旅行生を半ダースいっぺんに喰った時と同じ顔をしてやがる」とか物騒なことを呟いてるが聞き流す。聞き流すしかない。
『食料をほぼダンジョンに依存してるくせに暴走させたのよ。崑崙の阿呆どもが何を考えてるのか知ったこっちゃないけどサ、売られた喧嘩は新鮮な内に買うのが礼儀だと思うわけ』
……あの。
実は心当たりがありまして。
『あるの?』
仏国で悪縁結んだじゃないですか。崑崙真人国。アジアンマフィアと手を組んで金相場と金融市場を滅茶苦茶にしたくせに、ダンジョンに金塊全部没収されたでしょう。彼等いろんな国を敵に廻してて、干上がりかけてるんです。崑崙としては味方増やすのに形振り構っていられないんじゃないかと。崑崙包囲網を主導してるのが英国ってのが謎ですが。
『クズね』
ちなみに琉球人民共和国を真っ先に承認した国が英国だそうです。いま自衛隊の人が教えてくれました。
『とことんクズね』
駐日英大使は知らなかったみたいで、釈明会見するそうですよ。ブチ切れているみたいで、このまま日本に帰化申請するんじゃないかって役人さんが言ってます。
『本部にも確認したけど、沖縄のダンジョンって探索者組合を締め出して独立派の有志で管理してたんだって。食料生産ダンジョンだから危険性は低いだろうって特例で。初期化してアダルトグッズしか生み出さないオトナのテーマパークに改装させていいかな』
やめてください姐さん。
沖縄ダンジョンの食料は赤道周辺国にとっては文字通りの貴重な食糧供給源なんです。ミクロネシアの生命線になってなけりゃ本部直々にダンジョン消滅させてる案件なんですって。
『仕方ないわね。じゃあ妥協案でいいわ。こっちが独立派をぶちのめす、肉屋がダンジョンのスタンピードを鎮静化させる。それが最善で最速よね』
「御武」
「わふん」
「しか」
「かー」
姐さんの暴論に歓迎の意を示すモンスター共。なんかカラスがちゃっかり付いてきてる。いいのか鳥類、エゾオオツノシカ君の舎弟面してるんだが。
「かー」
あくまでクールな参謀役を目指すと。そっか。頑張れ。
それに妥協案と言いましたけど、既に独立派をぶちのめしてるの伝わってますからね姉さん。ビキニじゃない部分も赤くなってるんですよ、返り血で。
◇◇◇
沖縄ダンジョンで採れる食材がミクロネシアどころか東南アジア一帯に供給されていることから、そのダンジョンスタンピードの鎮静化は迅速に行うべきという方針が出た。
琉球人民共和国についてはガン無視である。
背後に崑崙真人国がついていようが、ビキニ姐さんを敵に廻した時点で末路は決まっているというのが関係者の総意だ。異論はない。むしろ到着前に沖縄本島が更地になってても不思議じゃない、東京23区ふたつ分の広さがあろうともビキニ姐さんが本気を出せば時間の問題だ。
「肉屋さん。今回は皆で行きましょう」
いざ出発の段階で、各組織の人が顔色悪くしながら懇願してきた。
仏国で懲りたらしい。
弁解させてもらうけど、カタツムリ錬金術を見つけて実行したのは崑崙真人国の息のかかったマフィア連中で、自分は巻き込まれただけですからね。むしろ散逸しかねなかった金塊を回収してしかるべき機関に委ねたんだから、皆さんの味方ですよ。
「分かってる、わかってるんだけど!」
「他省庁の役人が財務官僚に心底同情するレベルの事態だったんですよ肉屋さん」
「いいですか肉屋さん、ダンジョンがホイホイと物をくれても素直に受け取らないでくださいよ!」
うむ、まったく信用されていない。
自分としても中近東ダンジョンと仏国ダンジョンで色々と酷い目に遭ったので彼らの懸念も分かる。それに実質敵地と化している沖縄に一人で行くのは心細いですから皆さんと一緒に行けるのは心強い。
あ。
できれば空路はやめてください。
事前の説明なくパラシュート降下とか二度と経験したくないので。
……
……
こっち見ろよ、全員。
+登場人物紹介+
●ビキニ姐さん
沖縄の事情は薄々知ってたので護衛気分でついていった。想定より斜め下の事態に大暴れ確定。ところでそのビキニメイル姿で飛行機に乗ったって本当ですか?
●孫娘夫婦
祖母には感謝しかないが、婿実家への報告にいきなりついてくる宣言したので困惑するも到着して秒で理解した。婿実家を訪ねる前にスタンピード発生。
●元中国
英国に唆されなければ無事だった可能性が高い。香港を英国に奪われ北京は消滅、今や群雄割拠。崑崙真人国の他にも幾つもの有力国がある。難民は推定七億人。沖縄には三千万人が押し寄せた。
●英国
そろそろアジアンマフィアも用済みだなと思っていたが、琉球人民共和国の独立宣言に目を輝かせている。周りがそろそろぶち切れそうなことに気付いていない。
●駐日英国大使
亡命した。
●対策会議の皆さん
琉球人民共和国が結局どういう組織なのか気にしていない。ビキニ姐さんを怒らせ肉屋の派遣が決定した以上は事後処理しか考えようがない。
●琉球人民共和国
公用語は日本語と中国語。通貨は中国元。難民にも選挙権被選挙権を与える。自衛隊と在日米軍には装備施設を没収した上での即時退去を要請。長年の精神的苦痛に対する謝罪を日本政府に要求。具体的には皇室の解体とか。そんなのを地元の放送局で延々と流していた。ドリーム。
●↑を支持した人達
独立宣言の際に流された沖縄本島の映像にドン引きした。
●崑崙真人国
主に英国のおかげで干上がりかけている。新しい販路というか金づるが欲しいのも事実。でもこんな真似したら即座に誰かさんが送り込まれてくることくらい分かるわボケ!とか叫んでる。
●アジアンマフィア
壊滅寸前。細々と悪事をして食いつないでいた。同胞が大勢いる沖縄で新しいシノギでも探そうかねえ、と悪だくみしていたのは事実。スタンピードで火事場泥棒くらいはする。それでも規模が大きいので脅威ではある。
●肉屋
空路は断固として反対する。




