EXシ ニライ・カナイ①
本作はフィクションなので実在の地名人名組織団体とは関係ありません。
ないから。
ねえよ。
信じてください何でもしませんから。
時々誤解されてしまうけれど、自分は兼業探索者で書類上の本業は害獣駆除である。
里山や畑を荒らす鹿や猪そのほか様々な中小の動物を主に罠を用いて捕獲して処分するのが主な仕事で、蜂の巣やシロアリなどもやっている。同業他社と違うところがあるとすればダンジョン探索で身につけたスキルや魔法を駆使することで、通常よりも効率よく作業できるのが強みだ。魔法を使えば薬品の使用量も抑えられるし環境にも優しいと評判をいただいている。
さて。
箱館でもよく狩られている殺人アライグマと違い、カラスの駆除を探索者は敬遠する傾向にある。モンスター化した個体は知性が高く交渉が可能であることと、特に優秀な個体はテイマーが契約対象に選ぶことが多い。そして従魔となれば野生よりも良い暮らしが出来ることをカラス側も理解しており、そういう個体は人間を挑発しても敵対を選ぶことはまず無い。ギリギリ共存共栄を目指す余地がある。
もちろん例外もある。
今回自分が受けた依頼もその例外で、郊外の牧草地を半ば占拠する巨大な群れを率いているのは極めて高い知性とスキルを有した個体だった。脚三本でも驚かないってレベルで凄い。過去に幾人ものテイマーが勧誘を挑み、尽く失敗に終わったという。お蔭で取り巻きカラスどもが増長し、手がつけられなくなってるのだとか。
空気銃や散弾銃での狩猟も試したハンター達は逆襲され、糞まみれになりながら退散している。尖ったガラス片を大量に降らされジャケットはズタズタに裂けているが肌は糞にまみれただけと言う精密な爆撃ッぷりに、察したハンター達は白旗を上げた。
正直、依頼するならもっと早くしてほしかった。
その気になれば牧場を血の海に出来る連中だが、牛を襲わず、たまに穀物飼料を喰ったり野積された堆肥を掘り返してカブトムシの幼虫を捕まえているようだ。非常にやりづらい。
親玉のカラスはアライグマあたりを倒して主食にしている。アライグマの骨や毛皮の残骸が一ヶ所に積まれてて頭骨がクロカンブッシュみたいなオブジェとなってるし、それを見たヒグマが逃げ出す有り様だ。
「ざまあみろ、倭人は北海道から出ていけ」
「北海道を先住民に返還しろー」
さて。
どこから話を聞き付けたのか、アイヌ文様のハチマキ等を身につけた集団がシュプレヒコールと共に牧場の敷地内に居座っていた。掲げる横断幕やのぼり旗には「北海道はアイヌの土地」「倭人は侵略者の子孫」「合衆国は侵略行為をヤメロ」「日本のダンジョン資産を侵略戦争の償いとして周辺国にすべて差し出せ」「天皇制解体」などとゲバ文字で書かれてる。簡体字やハングルで書かれた旗も少なくない。
念のため地権者である牧場主や地元役所の人に視線を向けるが、此方も困惑した様子。鑑定魔法を発動してもアイヌの血筋と確定できる人は居らず、それどころか国籍がアレでイリーガル残留数十年とか表示されている御老人が多々見受けられるのは何故だろう。北海道ではこの時期珍しい、日に焼けて健康そうな肌を惜しげもなく晒していらっしゃるし。既に仮設トイレにテントも建っており、プレハブ住居も建ちそうな勢いだ。
「彼らはテイマーたちの勧誘も邪魔していました。曰くカラスは神の遣いなので人間が使役するなどケシカランと」
居座られた牧場主、自治体に泣きついたそうだけど反応は芳しくないらしい。ダンジョンモンスターのスタンピードで国を失った人々の一部を人道目的で受け入れたのが数年前、そうした人達を吸収して組織の若返りをはかったところ逆に乗っ取られた感のある平和活動団体の皆さんは内政的にも外交的にもアンタッチャブル案件だそうな。カラスの群れはこの第三勢力に対して警戒の姿勢を崩さず、そしてその様子を「我々はカムイに認められた」と判断した活動家達の勢いが物凄いらしい。この様子だとカラスを追い払えても不法占拠した連中を排除することは難しく、牧場主さんは離農すら考え始めているようだ。
……
……
それで害獣駆除の依頼ですけど、どちらを対処して欲しいので?
訂正。
害獣に失礼でした。
あー、あー、あー。
牧場を不法占拠している集団に告ぐ。
まずはカラス共。君らの方がマナーが良い事態に頭が痛いが、テイマーとの交渉が不調に終わった以上は「カァ、カアカア!」はあ、本命待ちだったと。じゃあ本命との交渉間に合わなかったというこ「カアカアカア!」たまに勘違いされているけど自分はテイマー職ではな「カア!」嘘じゃない。敵対意思が無いのなら一時預かりくらいには応じるので今は退去してくれると有難い。
……
……
全羽、慌てて出て行ったし。
捕獲罠とか無駄に終わってしまったか。
で。
もう一方の不法占拠してる集団にも告ぐ。
「かーえーれ! かーえーれ!」
「やまとんちゅは北海道から出ていけ!」
「倭人は先住民族に謝って!」
「合衆国の犬!」
「豚の蹄!」
「リトルジャップ!」
「おまえの顔を覚えたぞ! 職場を突き止めて家族も調べてやるぞ! いいんだな!」
……
……
先刻の鑑定魔法で判明してたんですけどね。
皆さん、沖縄で随分とエンジョイされていたようで。老後の時間で年金貰いながら自衛隊と米軍の基地相手に好き放題ですか。崑崙真人国と手を組んで、沖縄のダンジョンに暴走する仕掛けをして北に逃げてきたと。仏国で巨大カタツムリが国どころか西欧一帯を滅ぼしかけたのを知って怖くなったんですね、わかります。同情はしませんがね。
おや。
何か物騒な道具を取り出して、どうしました?
鑑定魔法を使わなくてもそのうち捕まると思いますよ。意図的なスタンピードを発生させた場合、外患誘致罪が高確率で適用されるって新内閣が方針出しましたし。崑崙真人国の工作員を想定しての話と聞いてますが、崑崙製の対ダンジョン武器なんて日本では流通しないはずの品まで持ち出しているとか想定外と言いますか。
あー。
気付いてそうな関係者が知ってて此方に流しましたかね。どうせ結果が一緒だからって。
「おい腐れジャップのウヨク野郎! さっきから何を訳の分からんことを――」
代表らしき老人の怒声は、視界を焼く紫白色の閃光と鼓膜を破るほどの轟音そして全身を貫く電流でかき消された。崑崙真人国謹製の防護符など一瞬で燃え尽きるほどの魔力と電力の暴威でありながら、生命機能には支障がない。それでいて指一本動かせないほどの麻痺と尿路結石にも勝る激痛を与えているのだから、絶技としか言いようがない。
「しか」
隠形を解いて姿を見せた巨体、王冠を装備し植物属性オークの小人を頭に乗せたエゾオオツノシカ君が頭を下げこちらに鼻先を押し付けてくる。牧場主はギョッとするけれど牧場を占拠していた不審者たちは幕末ゴブリン族が拘束しているし、牛舎の家畜たちは驚いた様子もない。箱館の地で青天の霹靂など日常茶飯事であり、それは守護者健在の証でもあるのだから。
それはともかくとして、どうせ近くに控えているであろう顔を探せば、程なく自衛隊のものと思しき車両がやってきた。ご丁寧に頑丈そうな救急車も並走している。駆けてきた顔見知りの自衛官に沖縄ダンジョンに人工スタンピードの兆しありと伝えたら、悔しそうな顔で「一手遅れました」と返された。
「沖縄で複数のダンジョンが同時に氾濫。併せて沖縄県知事が崑崙真人国の支援を受けて独立を宣言、琉球人民共和国を名乗りました。ちなみに独立宣言したのは本島だけで、周りの島々は日本への帰属を明言しています」
あ、これめっちゃダメな展開ですね。
「テロリストを警戒して米軍基地は封鎖。自衛隊基地は氾濫から逃れた市民を収容していますがモンスターおよび便衣兵の襲撃に苦戦しています」
苦戦してるけど死傷者はゼロなんですよね、と続く。なんか見知った真っ赤なビキニメイルの美少女が「せっかく孫夫婦に誘われて来たのに何しやがりくさっとるんじゃワレぇ!」と叫びながら便衣兵とかテロリストとかテロリストとか平和活動家とか自称ジャンヌダルクを再起不能にしているようだ。
もうビキニ姐さんに任せておけばいいんじゃないかな。
え、指名依頼? 強制力はないけど現地でビキニ姐さんが不機嫌だから早いところ行って事態解決しないと後が怖い奴じゃないですかやだー。
+登場人物紹介+
●カラス
半ばモンスター化した鳥類。知能めっちゃ高い。人類にギリギリ迷惑かけないレベルで社会を構築している。北海道に何やらエゾオオツノシカを調伏させた超凄腕のテイマーが来ていると聞いてワクワクしながらスカウトを待っていた。そいつは最近物騒なゴブリン達や巨大犬の群れも従えてるそうだ、すげえ! 俺達もそのテイマーの傘下に加われば将来安泰だな!とか考えている。
●牧場主
カラスに占拠された可哀そうなおじさん。しかし牛への被害はないし、何なら害虫駆除してくれてるし糞も決まったところでしかしないし、むしろ危険な野生動物を駆除してくれてたことに終わってから気付いた。肉屋に依頼したという事でカラスたちにめっちゃ感謝されている。
●一般テイマーや探索者の人
想像以上にカラスが賢くて、討伐やテイムを諦めた。力押しで勝てない相手ではないが害獣でもない存在を駆除するのは筋が違うと考えた。
●地方自治体の人
牧場を占拠するカラス問題に頭を悩ませていた。普通の駆除業者やテイマーにも依頼して対策を頑張ったんだけど、話にならなかった。最後の手段で肉屋を紹介した。
●押しかけた人達
長らく北海道の教育現場で頑張っていたかもしれないが定年後に再雇用の道を敢えて断り南の島で十年以上正義のために頑張っていた。同志諸君が色々やらかしたので北海道に逃げて正義のために活動を再開した。アイヌとは何の関係もない。
●自衛隊の人
厄介ごとを伝えに来た。肉屋を巻き込まざるを得ない状況に胃が痛くなっている。
●ビキニ姐さん
孫の婿が沖縄の人だったので結婚の報告について行った(結婚費用に旅費を出したお礼で)。激おこである。
●エゾオオツノシカ君
北海道最強の名をほしいままにしている。契約アピールを欠かさない。
●幕末ゴブリン族
国賊の匂いを嗅ぎつけてやってきた。
●肉屋
本業で呼ばれたのにモンスターが契約を迫ってくる。北海道に住んでいるのに沖縄の揉め事がやってくる。ドウシテ……ドウシテ……




