EX3 仏国ダンジョンおしまい
誤字報告、感想ありがとうございます。
結論から言おう。
仏国政府に全部押し付けた。
何を?
言及は避ける。税務署とも何度も相談した。日本政府も合衆国政府も沈黙中。仏国政府の経済畑の人が胃痛と睡眠不足で死にそうだったので高品質回復ポーションを提供した。B資金とか物騒な言葉は存在しない。誰だって世界恐慌も世界大戦も経験したくない。つまり、そういうことだ。
「ブルゴーニュのダンジョンでは今後も討伐数に応じて希少種が出現するし、一万体討伐ボーナスも確認できた」
ダンジョン初期化で空港周辺の通常種も消滅し暇になったチーム【平常運転】がきっちり検証してくれた。トータル一万体の討伐とか普通に考えて罰ゲームなんだけど、そこは凄腕の探索者達である。範囲攻撃魔法を駆使し七日七晩かけてダンジョンで巨大カタツムリを狩りまくってくれたそうだ、虚無顔で。
「普通の方法では、絶っっっ対に割に合わん。崑崙崩れが仕掛けた気持ちも分かる」
そう。
半死半生で拘束された道服の男たちとアジアンマフィアの連中は仏国および合衆国の軍がきっちり回収し、背景調査を進めている。中央アジアで勢力拡大している崑崙真人国が黒幕だった場合には戦争不可避であるが、そこをドロップアウトした道士が盗み出した師匠の道具を使ってダンジョンに意図的なスタンピードを起こした――というのが今回の顛末である。そういうことになった。
そもそもブルゴーニュダンジョンの仕様でなければそもそもこんな事は仕出かさないだろうし、崑崙政府も欧州に隔意は無いと表明しつつ見舞いの品として蟠桃を一籠贈りつけてきた。
欧州知識人の間では金塊そっちのけで壮絶な争奪戦が始まったというが、庶民である自分には関係のない話だ。
軍による核自爆は当然ながら嘘だった模様。
買収されてた軍上層部の一部が核自爆を偽装して崑崙かアジアンマフィアに横流しする計画はあったようだが、実行前に軍内部の自浄作用が働いた模様。これは数少ない美談として仏国で大々的に報道され、映画化も既に決まったという。前向きになれる情報に飢えているのを肌で感じる。
斯くして仏国政府関係者や軍関係者の少なくない数が逮捕拘束され、公職を追われた。まるで市民革命後のようだ、とはどこかの誰かの呟き。それくらい凄まじい事になっており、日々新しい役人や軍人が逮捕されたとメディアがウンザリ顔で報じている。今の仏国は比較的まともな政府関係者と軍人が、数千トンの金を元手に食料を買い付けたり農業を復興させるために奔走している。ダンジョン初期化して巨大カタツムリが消えても、それらが食い荒らしたものは元通りにはならなかった――詫びとして金塊が提供されたと見るべきだろう。
ちなみに僅かでも横領の気配を見せた者はその場で姿が巨大カタツムリ希少種に変身するらしく、現在欧州で最もホットな処刑方法として一気に有名になっている。
そうそう。
初期化したブルゴーニュダンジョンには大勢の人が押しかけている。
人海戦術で巨大カタツムリの通常種を狩りまくり、5000体ごとに出現する希少種ハントが一種のギャンブルとして認知されたそうだ。そこで不正を働いた者も希少種に変身してしまうため二度三度おいしいと現地のギャンブル中毒者共は笑ってインタビューに答えていた。これにはチーム【平常運転】の面々も唖然としており、付き合いきれんとばかりにさっさと帰国してしまった。
自分は地元の生物学者や農業関係者と共にブルゴーニュや仏国の幾つかの地域を廻り、巨大カタツムリの繁殖の痕跡を調査している。モンスターの生態は種によって随分と違うし、国内の別のダンジョン領域に入り込んだ個体が変異を起こしている可能性だって否定できない。特に注意すべきはダンジョンモンスターではなく人間由来の巨大カタツムリ。数の暴力とはいえ凡そ国土全域の植物を喰い尽くしかけた恐怖は現地民の心に深い傷を残している。
「ニホンのトラフグカエル騒動の時のように過剰に増えたカタツムリが自然の病害に倒れるかもと願っていたのですが」
そんな事をふと呟いた仏国農学者の一言に、そういえばと気になって解体魔法で得た巨大カタツムリの身体や粘液素材を鑑定してみた。
【巨大カタツムリの粘液。ウイルスや細菌、寄生虫などの病原体の細胞壁や毒素に触れると即座に硬化して病原体を封殺。また通常生物の傷口に塗布すると表面殺菌した上で組織再生を促進する。錬金術の素材として使用すると一部臓器の再生可能な回復薬となる】
……
……
金塊よりヤバいものを発見してしまったかもしれない。
◇◇◇
金塊の仏国返還イベントが功を奏したようで、帰国する頃には親戚の数は元通りとなっていた。
税務署との話し合いは実に快適。なにしろ金塊は本来の持ち主である仏国の手にある。金塊は、自分が「発見者」であることを強く主張。万事解決。
「欲がないんですか肉屋さんは」
なんて嫌味も聞こえてくるけど、小市民の自分がそんなものを得てもなあ。ドラゴンに守護らせる? 幕末ゴブリン族とエゾオオツノシカを配備して、元ゴルフ場をダンジョンに改修でもしますか──とか冗談で返したら税務署が静まり返った。
「あははは~、肉屋さんも冗談が上手いんだから」
と返せた窓口職員さん、凄い胆力。
顔真っ青で滝のように汗かいてたし、自分が帰った後に血を吐いて緊急入院した。探索者組合が回復魔法の使い手を派遣したし、自分も土下座した。同業者には「肉屋本人はともかく周囲が真に受ける」と怒られた。幕末ゴブリン族は衣装と武具が豪華になってるし、わんこ達はふた回りくらい大きくなった。エゾオオツノシカ君に至っては黄金に輝く王冠を装備しているんだけど、もしかして裏ボスに立候補……ですか?
「しか」
貫禄は十分すぎるというか。アラスカのドラゴンパピーでは貫目が足りてないというか。
そうそう。
箱館にアジアンマフィアの関係者が来るようになった。最初は数が多いとは言えない親類を狙ったようだけど箱館以外の土地に入った瞬間にダンジョン送りになっているようで、警察から「アジアからの観光客が空港の税関でいきなり姿が消えた怪事件を調査したいので協力してくれ」と言われて発覚した。
やがて海から直接箱館に乗り込めばダンジョンに呑まれないと気付いたのか、箱館市内で無差別に周囲の住民を襲って間接的に報復するつもりだったようだけど……周囲の人間って探索者かその関係者やモンスターだからね。
幕末ゴブリン族の追っかけやってるハイソな方々、そういうのを見逃さない。
うん。
敵に廻してしまった訳だ、彼等は。
逆襲されダンジョンの逆鱗に触れ壊滅しかけた彼らは伝手を頼って崑崙真人国に泣きつき、てめえドラゴンスレイヤー仰山おるとこに勝手に喧嘩売ってるんじゃねえバカバカUNKOとばかりに詰められて滅びた。なんならビキニ姐さんを拉致ってポルノビデオ撮影しようとしたところで叩き潰されたとも。
「ところで肉屋、例のゴルフ場に追加で色々と埋まってるんだけど説明してくれないか」
待ってくださいお巡りさん。
自分それ初耳なんですけど。
アジアンマフィア? アジアンマフィアの連中っすか埋まってるの? 誰だ埋めたのは。元居たところに返しなさいって口酸っぱく言ってたのに横着してっ。
「……肉屋、今年の冬は諦めた方がいいぞ? なんなら物件探すの付き合おうか?」
そっすね。ははは。
はぁ。
+登場人物紹介+
●税務署
金塊の経緯は見逃してくれた。心底同情している。そもそもダンジョンドロップ品の課税はデリケートな問題なので、少量の金塊なら黙認してやってと政府に指示されていた。馬鹿正直に仏国に寄付とか、肉屋さんはよぉ……と生暖かい目で見られている。残業増えなくて助かった。
●金相場
無事だとお思いか?はともかく、ダンジョンドロップで金貨や金製品は時々見つかっていたので致命傷で済んだ。投機筋の混乱たるや。
●仏国政府
汚職政治家や役人や軍人を大量処分したが金塊のおかげで辛うじて滅亡を回避した。周辺国に賠償金を金塊で払おうとして拒否られた。食糧事情はどうにもならないので頭を抱えている。多様性とか言ってる場合じゃない。合衆国が食糧援助とかしてくれるが「君これで肉屋の顔に泥塗ったら分かるよね?」とガチ目に脅されている。
●合衆国
明日は我が身なので国内の不穏分子あぶり出しを開始した。アジアンマフィア? そんなの許す訳がないだろうがッ!とばかりに在日米軍をおとなげなく動かした。
●日本政府
在仏邦人の救出も無事完了。ダンジョン初期化で日本の評判も高くなり、国庫も増えた(意味深)。ところで日本国内にも金を産出するダンジョンがあることを思い出し、アジアンマフィアおよび崑崙真人国を警戒することになる。
●崑崙真人国
チベット周辺にある自称ダンジョン国家。トモダチは英国だけ。上級探索者は仙人の後継者と自称している。ダンジョンの仕組みをある程度理解しており人工スタンピードのカラクリを元道士に盗み出されて国際問題を起こした。秘蔵の蟠桃を贈ると共に、噂に過ぎないと思っていた肉屋の実力を知った。あの馬鹿どもなんて相手に喧嘩を売りやがった、と。今回の件でかなりの国を敵に廻している。
●蟠桃
不老長命、若返りに回春効果があるとされる伝説の果物。海外で普通に栽培されているのと同じように平べったい桃。崑崙ダンジョンの特産物。食べると1個につき10歳若返る。食べ過ぎても子供にはならない。一籠24個の蟠桃が仏国に詫びの品として贈られた。
●アジアンマフィア
武闘派。東南アジアで恐怖の象徴。間違っても喧嘩を売ってはいけないと言われている。東南アジアではダンジョン産の麻薬を取り扱っており現地政府も迂闊に取り締まれない。面子を重んじ報復に上限はない。今回仏国での経済活動を邪魔した肉屋に報復すると決めた途端、東南アジアのダンジョンは麻薬を生み出さなくなり、日本に踏み込めば取り込まれて餓鬼となり、箱館であばれようとしたら攘夷に天誅された挙句、埋められて壊滅した。
●おまわりさん
折角調査終えたのにアジアンマフィアが埋まり始めて発狂しかけている。
●元ゴルフ場
警察も政府も頑張った。アジアンマフィアがよくなかった。
●チーム【平常運転】
初期化したブルゴーニュダンジョンで七日七晩討伐して金塊のドロップ率などを確認してから日本に戻った。金塊は帰国前にフランスのワインと交換したらしい。後日、買ったワインの相場がえらいことになっているのを知って噴いた。
●肉屋
もはや大仏を建立すべきではとか錯乱している。収納空間の容量が金塊をぶちこまれた際に勝手に拡張された。石油タンカーくらいある。
●B資金
世界中の探索者の間で囁かれることになる埋蔵金伝説。原子力空母を艦載機付きで買えるとか、超大国の国家予算に匹敵するとか放出したら世界恐慌からの大惨事世界大戦勃発だの根も葉もない噂であり、とある探索者がダンジョンで発見した莫大な黄金がその正体というのが最も信憑性が高い噂である。発見者は寄付したつもりだが書類上は無利子無担保の貸し付けであり、発見者が必要な時は如何なる状況下でも返却しなければならない――と。ダンジョン攻略者には荒唐無稽なエピソードがつきものであり、このB資金もその一つである。そういう事になった。貸し付けた本人は譲渡契約書のつもりでサインしたが仏語なんて読めないのである。




