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ザマァ後のこの国をどうしてくれる―亡き王女の悔恨―  作者: 灯月 更夜
第十二章 <帝暦732年春―後半Ⅱ>
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12-10 外訪者(2)

side マクシミリアン

「ヴィオレット、これまで散々雲隠れしておいて、今更どういう(りょう)(けん)だ?」

「それはっ……その。私はもう、貴方の足手まといにしかならないと……でも今は違います! アル、お願いします、聞いてください! 中で何が起きているのか、はっきりとは知りませんが、ですが心当たりがあるんですっ」

「心当たりだと?」

「今までだって私の“予知”が当たったことはあったはずです! 私なら最悪の事態を止められます。ですからどうかっ」

「今ここで何が起きるのか、その情報だけ寄越してくれればいいじゃないか」

「ッ、違いますっ。そういう問題じゃなくてっ……」


 小さな小窓に必死に(すが)りつきながら声を荒げているけれど、すでにマクシミリアンの興味は周りにどんどんと増えている松明の灯りの方に向いており、さらにすぐ傍の東棟の方も騎士が出たり入ったりと妙に慌ただしくなっている様子の方が気にかかる。

 随分と騒がしいが何事だろうか。


「猊下、この辺りは他に通用路などありませんでしたっけ?」

「入搬出用の鉄門ならありますぞ。北の方に。あっちにも聖騎士を付けておきますかな?」

「ええ、そうしていただきたいです。塀からは十分に離して、外との会話が出来る距離には人を近づけないように」

「人数的には心もとないですが、等間隔に配置しておきましょう。ただ一晩中というのはさすがに億劫ですな」


 暗に、外の連中を追っ払ってもらいたいという意味だろう。本来は皇帝候補に出しゃばらせるべきではないが、いっそアルトゥールを使ってでもオランジェル侯は追い払うべきだろうか。

 そう思って視線を寄越すと、アルトゥールも東棟の方の騒ぎに気が付いたのか、こちらを振り返っていた。


「ミリム、何の騒ぎだ?」

「分からないけど、こっちにこれ以上、騎士は裂いておきたくないんだよね」

「あぁ……とにかくオランジェル侯、これ以上の禁事棟への干渉は私の立場を悪くするだけだ。解散を要求する」

「殿下……しかしこれは……」

「言い訳は聞かない。いや……むしろ後でどうしてくれるか、覚悟しながら粛々と待つことだ」

「待ってください、アルッ。お願いをしたのは私なのですっ!」


 あぁ……はは、可哀想に。

 今更頭を抱えたって遅い。アレを取り込んだのはアルトゥールなんだから。


「あぁ、くそ……おい、ミリム」

「こういう時だけ頼るの、やめてくれない?」

「まだ皇宮で実権を得ていない皇帝候補がしゃしゃり出すぎるわけにはいかないだろう。いっそ他の三人も呼んでくるか?」

「といっても……すでに相当動き回られているユリウス陛下にご足労いただくのは申し訳ないな」


 言葉は濁したが、そもそも先程の毒煙事件で随分と辛そうにしていたリヴァイアン殿下を引きずり出すわけにはいかない。それにすでに夜も深まって薄暗い上、足場の悪いこの場所に不自由を抱える王にお出ましを願うのも申し訳ない。


「私が中に入りたいのは、そのリュシアン兄様のためなんです!」


 だが話が聞こえていたのかいなかったのか、ヴィオレットがそんなことを口にしたものだから、隣でオランジェル侯が「なんですって?!」と声をあげた。

 はは……なるほど。さすがに侯も、アルトゥールの妃の要求が対立派閥の王のためだなどとは夢にも思っていなかったらしい。少しいい気味だ。


「はぁ……ヴィオレット。もう少し言い方をどうにかできないのか? よりにもよって」

「あ、いえっ。その。陛下のためでもあり、それに殿下のためでもあります。私がっ……私が必ず、止めて見せますっ。だから!」


 このままでは(らち)が明かない。入れるのか入れないのかだけでもさっさと決めてしまおう。


「時間の無駄だね。トゥーリ、それから猊下、簡単に決を採りましょう」

「いきなり雑にまとめて来たな。それで、お前は?」

「却下だね」

「私も同じくです。事情は分かりませんが、今時分、かつて聖女殿下をお(わずら)わせになった方を招き入れるのは承知しかねます」

「だろうな。聞いた通りだ、ヴィオレット。頼むから大人しく……」


「殿下ッ! 公子殿下ッ。あっ、猊下、それに皇太子殿下ッ」


 折角決着がつきそうであったところを、先程から飛び交っていた騎士の中の一人が聖騎士に何かを聞いたのか、はっとこちらに気が付いて、声をあげながら飛んできた。やはり何かが起きていたらしい。

 ヴィオレットやオランジェル侯の耳に入っても困るので、「トゥーリはそっちをどうにかしておいて」と、自ら騎士の方に近づいた。


「今度は何?」

「お探ししましたっ……あの、まずはスヴェールト小侯爵様より、公女殿下のご無事が確認できた旨のご連絡が」

「ふぅぅ……」


 あぁ、よかった。はぁぁ、よかった。

 周りも散々そうは言っていたが、それでも心配だった。だがこの様子だと本当に無事だったようであるし、スヴェールト小侯爵、つまりパトリック卿がそう言うという事は、彼女のよくできた副官がすでにその安全を保障しているはずだ。だとしたら安心できる。


「リディはどこに?」

「申し訳ありません、そこまでは……」


 ちっ、使えない。


「そのっ、それよりもっ」

「“それよりも”?」

「ヒッっ……し、失礼しました。そちらも大事なのですが、その……もう一点っ。移動可能な騎士を寄宿舎の方に移動をさせた際に身辺検査をおこなったところ、問題となっている毒草を複数所持している者が見つかりっ……」

「なんだって?」


 あぁ、また、もうっ。次から次へと!


「トゥーリっ、緊急事態!」

「あぁ、分かった。そういうわけだから。くれぐれもこれ以上騒いでくれるな」

「アルっ!」


 ヴィオレット妃はまだ何か叫んでいるようだったが、さっさと背中を向けたアルトゥールがもう終わったとばかりにこちらにやってくる。その様子に肩をすくめた猊下が気を利かせて窓の方に近づいたが、話を聞くためというよりは、中途半端にこちらを窺える小窓を閉じるためだったらしい。

 容赦なくピシャリと締められた小窓が実に容赦ない。さすがは、次期教皇候補……。


「漏れ聞こえたが、また薬が見つかっただと?」

「幸い、焚かれている状況のものではなくて、所持している騎士がいたらしい。安全確保のため、皇帝候補は北棟に戻っておいてくれる? クロイツェン派の騎士でいいから、一緒に他の三人諸共、警備を厚くしておいて欲しいんだけど」

「それは構わないが、お前は?」

「対処してくるよ」

「……どうしたんだ? さっきまで嫌々ながらッて感じだっただろ、お前」

「さぁ、何の事?」


 そう飄々と歩き出そうとしたところで、先程の騎士がコソコソとアルトゥールに、「あの、公女殿下がお見つかりになったと報告が」などと囁いているのが聞こえた。

 まったく、もう。アレもクロイツェン派か。一体どれほどこの禁事棟内にクロイツェンの息のかかった連中が潜り込んでいるのやら。

 とりあえずアルトゥールを北棟に帰したら、一度騎士の整理をしたい。確かリディアーヌはエリジオ・フィンツ卿は信頼がおけると言っていた。そういえばこの騒動が起きてからずっと見かけていないが、今は何処に配属されているのだろうか?


「君、エリジオ卿が今どこにいるのか知らない?」

「は……エリジオ卿というのは……あ、第二班長のフィンツ卿ですか?」

「多分そう」

「第二班は今の時間、中央棟の担当ですが……」


 あぁ、しまった。動かせない場所か。いや、だがあそこは所詮、大公達がヘイツブルグ大公を関与させないために取り囲んでいるだけの場所だ。使える騎士くらいこっちにもらってもいいのではなかろうか。班長と呼ばれるくらいなら多少は権限くらいあるはず。


「エリジオ卿に、何人か使えるのをこっちに寄越すよう伝えてくれない? 私とその騎士達の対処に……あぁ、それでその騒動は何処だって?」

「寄宿舎前の西庭で発覚し、逃亡する者もいて……今は庭の北側に広く分散を」


 思ったよりも大変なことになっているじゃないか。呑気にしゃべっている場合ではなかった。


「分かった、すぐに向かう。トゥーリ」

「分かっている。大人しく戻る」


 そうヒラヒラを振るアルトゥールが北棟側に歩き出したのに対し、猊下は「聖職者が役に立つ場所ではありませんから、私はコッチが大人しくなるまで牽制を続けましょう」と居残ることを申し出た。

 聖騎士を動かせる猊下を連れて行けないのは少々痛手だが、元々禁事棟内に聖騎士の数はほとんどいない。こちらにいてもらった方がいいか。


「っ、かり、っし、たっ。そ……こと……ら、すこ……します、からねっ!」


 なんだかまだ門の外でヴィオレット妃が騒いでいる気がするが……まぁいいか。門さえ閉ざしておけば問題あるまい。今はそっちよりもこっちだ。

 聖騎士達にくれぐれも猊下の身の安全をと言いおきながら、足早に薄暗い庭を突き抜ける。東棟はまだ換気中だそうで、通り抜けできないという。面倒だが、北棟を突っ切るしかない。ただ長ったらしい階段を上がって下りてというのも煩わしいので、使用人用の通用口から突っ切るか。


「相変わらず……なんで北棟の通用口まで知っているんですか」


 ここまで黙って大人しく付いて来ていたクラウスが、周りに人がいなくなったからか、ボソリと突っ込んでくる。


「さっきユリウス陛下の所の文官に教えてもらったんだよ。アンジェリカ嬢……夫人の、お兄さんなんだっけ? 王はいい文官を持っている」


 だが皇帝となれば、国許のすべての腹心を連れて皇宮に入れるわけでもない。すでに長い時間をかけてクロイツェン派に支配されている今の皇宮でリュシアン王が皇帝になるのだとしたら、それは相当な困難から始まる事だろう。

 またもリディアーヌが気を揉みそうな話だ。

 あぁ、嫌だな。これ以上リディアーヌが他の男に……それも昔の男に構うのは、ちょっと、いや、大分(いら)()つな。


「今のうちにオランジェル侯の力はもっと()いでおきたいよね。クラウス、外壁の方で猊下と一緒に、オランジェル侯と、ついでにセナンゼル侯の方も(あわ)せて引きずりおろせそうな発言とか行動とか、全部控えて整理しておいてくれないか?」

「それ、今頼まないといけないことですか?」

「あぁ、今だ。皇帝選出は、もう明日なんだからね」


 さすがに緊張感を感じたのか、コクリと息を飲んだクラウスはゆるゆると歩く速度を緩め、やがて仕方なさそうにため息を吐くと足を止めた。


「ふぅ……分かりました。ですがどうか、無茶をされませんように。貴方様に何かあれば、公女殿下もお悲しみになりますよ」

「ははっ、言ってくれるねっ。大丈夫、私はそんな無謀な()()ではないから!」

「一体どの口が……」


 何やら悪態は()かれた気はするが、一度きちんと礼を尽くして(きびす)を返したクラウスに、マクシミリアンもすぐに背を向け、再び向かうべき方向に向かって足を進めた。

 自分もこの機会に、クロイツェンの息のかかった騎士達の行動が悪すぎて被害を(こうむ)ったと訴えられるくらい、連中を()き使ってやろうか。






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