帰還する
「ニーナ!」
何かの魔法がニーナを包み込んだかと思った瞬間、ニーナが倒れ込む。咄嗟に風魔法でニーナに衝撃がこないようカバーし、起きた状況に頭が理解できないまま駆け寄った。
抱き抱えるとニーナはぐったりと身体の力が抜けていて、深い眠りについているように見える。レオも近くに駆け寄ってきて覗き込んだ。
「ニーナ大丈夫か!?」
「何か魔法を使ったみたいで………ニーナの意識がない」
レオはニーナを見て呆然とした。
「…………何だこの魔法、見た事がない………それに……」
レオが魔力を読む事が出来るのは本人から聞いていた。レオが見た事のないという魔法をニーナが使ったとは考えられないけど、レオの表情を見るにそうなのだろう。
「『それに……』何?」
途切れた言葉の続きをレオに促す。倒れたニーナがどういう状態なのか知りたい。怪我であるなら俺の治癒魔法で治してあげられるけど、今は魔法で眠った状態?になっているから何もしようがない。
俺が今日フローレス家に来たのは、ここ最近のニーナが思い悩んだ表情やうわの空になっている事があったから。悩みでもあるのかと少しでも時間のある時は会いに来ようと思ったからだ。
なのに玄関先でレオと鉢合わせをして驚愕した。なんでここにいるのかと。レオの方も『まじか』と溢していたけどそれは俺の台詞だ。大事な話をしに来たから俺は席を外してくれないかと問われたが、同席しても構わないだろうと突っぱねた。
(大体『大事な話』って何なんだ)
俺がいたら出来ないような話なのか。最近のニーナの様子に関係があるのか。聞こうと思ったところにニーナが来たのだ。
はぁ…と溜息を吐いてレオが口を開く。
「ニーナはヴィンセントにも言ってないみたいだから、俺が言っていいのか躊躇うな」
「何を?」
「……この魔法は以前のニーナが使ったんだと思う。もしくは以前のニーナの魔法が込められている魔法石を今のニーナが使ったのかもしれないな」
「…………は?それはどういう…」
そこまで聞いた時にまたノックと共にドアが開く。パッとドアの方を向くと伯爵夫人――ニーナのお母さんが立っていた。
「……ニーナ?」
夫人はぐったりとして抱き抱えられているニーナを見て青ざめた。
「ニーナはどうしたのですか!?」
「何かの魔法を使ってその後倒れたんです。今は眠ってるだけのように見えるのですが、俺たちも何が起きたのか分からなくて」
「ニーナが魔法を使って……?」
傍まできた夫人は考え込むように少し沈黙してニーナの頬に触れる。先程は心配する母親であったのに対して今は安心させるように子供を宥める母親に見える。
「取り乱してごめんなさいね。ニーナは恐らく大丈夫だと思います。ニーナをベッドまで運んでいただけるかしら?」
「もちろんです」
「レオナルド様も、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。ニーナの母のダリア・フローレスと申します。ニーナから話は聞いています。よければニーナの部屋へ一緒に来ていただけますか?そこで少しお話しさせてください」
「はい、お願いします」
(ニーナは恐らく大丈夫?何を根拠に?レオに話って?)
それらの疑問を飲み込んでニーナの部屋へと移動した。その間もニーナはピクリとも動かない。
そういえば学園へ入学した当初も、倒れて熱が何日か続き魔力が乏しくなった筈だ。レオが言っていた以前のニーナというのは魔力が多かった時のニーナの事なのだろうか。
俺がニーナをベッドへと寝かせると、夫人は人払いをして俺たちに向き直った。
「お待たせしてしまいましたね。ニーナに代わってレオナルド様の疑問にお答えいたしますわ」
「待ってください。ヴィンセントもいるのにいいんですか?」
「…ええ、構いません。ニーナはヴィンセント様に秘密にしているのが心苦しかったでしょうから、ヴィンセント様にもお伝えしてもいいと思っています」
話が見えない。ニーナが何かを隠しているのは知っていたけど……
「何の話、ですか?」
「俺が魔力を読めるのは知っているよな?」
「ああ」
「ニーナの魔力は以前倒れた時を境に全く違うものに変わったんだ。俺は、倒れる前のニーナと倒れた後のニーナは別人だと思っている。但し外見はそのままで中身だけが違う」
「中身だけ別人………?」
それが本当なら事件性のある話だ。じゃあ前のニーナは何処に行ったのかとか、今のニーナは誰なんだとか聞きたい事が沢山ある。
「それをニーナに問い掛けたら、今日説明すると言ってくれたんだ」
「そう…なのか」
倒れたニーナに代わって夫人が答えるということは、夫人もニーナが別人なのを知っているからなのだろう。
「おっしゃる通りです。ニーナは、倒れた時から今のニーナになったのですわ」
「それは何故?」
「それは……」
「それは、私が説明いたします」
「!」
突然の声に皆がハッと声のする方向に振り返る。
「「「ニーナ!」」」
先程までぐったりと横になっていたニーナが、目を開け起き上がっていた。
「起きて大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫です。ご心配おかけいたしました」
「………」
俺に対していつもと違う口調のニーナに言葉を失う。レオも夫人も言葉を発さずニーナを見つめていた。
「その前に少しだけ母と2人きりにしていただけますか?」
「あ、ああ」
「すみません、後でお呼びしますので」
言われるがままにレオと廊下に出る。色々衝撃で頭が上手く回らない。
(さっきのニーナは………)
「大丈夫か?」
レオに心配されて我に返る。
「レオは、いつから知ってたんだ?」
「ニーナと魔法の練習をした時からだな。俺は前のニーナの魔法も見た事があるんだ。今のニーナと全然性質が違っていて、気がついた」
「他に知っている人は?」
「いないだろうな。俺は誰にも言ってないし。中身だけ別人になるなんて有り得るのかと思ったけど…今そこにいるニーナは……」
「……………」
沈黙が続いてドアが開く。中からは夫人が出てきて、少し潤んだ瞳を隠すように目を伏せながら「どうぞ中へ」と促され、夫人と入れ替わるように部屋へと入った。
「お待たせしてごめんなさい」
同じく瞳を潤ませていたニーナと向き合う。
「お久しぶりですね、ヴィンセント様。レオ、私を気にかけてくれてありがとう」




