話す決意
「…………っ」
あまりにも直球で聞かれて、言葉に詰まり固まってしまう。『私が誰か』を答えてしまったらどうなるんだろう。違う世界から来たと言ったら信じてもらえるのか、頭がおかしくなったと思われるのか、それを秘密にしてもらえるのか。
「『何冗談言ってるの』くらいは言われるかと思ったんだけどな。そんな反応されると俺の気の所為ではないと思わざるを得ないよ」
「レオ…」
「問い詰めたりはしたくないんだ。結果そうなってるけどね。何でそんな事になってるのか話せない?」
(レオには……話してもいい?)
ニーナと入れ替わった事を信じてくれるかは分からない。話してもレオは黙っていてくれそうな気がするのは私の願望だろうか。
言って楽になってしまいたい。
(でも、駄目……)
私の勝手な判断でフローレス家が危うい立場になってしまったら……そう考えると頭を横に振るしか出来ない。
「呪いか何かの類いでニーナの体を乗っ取ったのかとも一瞬考えたけど、一緒に過ごしてきたニーナは人を貶めたり悪事を働く様な事はしない優しい子だと思っている。だから何か他の理由があるんじゃない?」
そんな風に言ってもらえて、こんな状況なのに胸がじんと温かくなる。
(信用してくれてるんだ)
「ニーナは大切な友達だけど、最初に出会ったニーナも大切な友達なんだ。無事かどうかだけでも教えてほしい」
レオに懇願されて答えてしまいそうになる。けど喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。ニーナは無事だと答えたら私がニーナじゃないと認めてしまう事になる。
もう私1人で考えても、どうしたらいいかなんて答えは出ない。
(お母様に相談しなきゃ…)
レオは誤魔化せない。納得のいく返事をするまで引いてもくれないだろう。
「それも答えられない、か」
「……っ今は………」
「……今は?」
「話せない………ごめん…」
絞り出した声は緊張していたからか掠れていて、それだけ返事をするのが精一杯だった。
「分かった。近いうちに話してもらえると思っておく」
「……うん」
ふぅ、と息を吐いたレオも緊張していたのかもしれない。「ごめんね」と言われたけど、それは私が言わなきゃならない。レオはニーナを心配してくれて真実を知りたいだけなのだから。
(今日ヴィンスがいなくてよかった)
あの事件以来通学を共にしてきたヴィンスは、測定日が私と異なっていたのと今日は用事があるそうで来ていないのだ。代わりに護衛を付けられたけど、付き添えない事をヴィンスは残念がっていた。もし来ていたら……この話を聞かれていたら、私は本当に倒れていたかもしれない。
レオに別れを告げ、帰路に着いた私は盛大な溜息を吐いたのだった。
―――――
「まぁ…………」
家に帰って今日の出来事を報告したところ、お母様は口に手を当てて固まってしまった。
「ごめんなさい……」
「ああニーナ、謝らないでいいのよ。そういう事があるかもと考えておくべきだったわ」
「私はどうしたらいいのか…」
「そうね…」と落ち着かせる様に私の頭を撫でてお母様は続けた。
「レオナルド様は、頭が良くて頼りになる方なのよね?変に誤魔化すよりも全て話するのが良さそうね」
「そう、ですよね」
「全て話して黙認してもらえないかを伺ってみましょう。その話をする時は私も同席させてもらうわ」
「分かりました」
(黙認…してもらえるかな)
もし、国の機関に報告される事になったら、危険視されるニーナはいないけれど逃した罪を問われる?もしくは異世界から来た私が危険視される?
色々予測してどうなるか不安で溜息を吐いてしまう。
「ニーナ、貴女がどうにかなるような事にはならない様にするわ。大丈夫よ」
「お母様……」
お母様も不安だろうに、大丈夫と言って抱きしめてくれるお母様が頼もしく思えた。
私は娘に幸せになって欲しかったお母様に、フローレス家に罪が問われる事のない様祈る事しかできなかった。
そして全てを話す事を決意するものの、レオと会う機会もなく休暇を終える。早く話したい様な話したくない様なそんな毎日を過ごして迎えた始業式。
朝迎えに来てくれたヴィンスと共に、クラス発表を見て目を見開いた。
(レオとクラスが離れた……)
どう接したらいいのかと迷っていたけど、クラスが違うなら剣術でしか顔を合わせる事もないだろうとほっとする。友達と離れて安心するだなんて、と自分に苦笑してしまう。
ヴィンスはレオと同じクラスで、私は有難いことにリリーとはまた同じクラスだ。
「ニーナ、また違うクラスだったね」
「そうだね、残念。あっでも同じクラスじゃない方がいいんだよね?」
「同じクラスがいいけど、ニーナが他の奴と話してるところは見たくないな」
「………そっか」
先にレオが同じクラスかどうか確認したなんて知られたらまたヤキモチ妬いちゃうかな、なんて私も自惚れが過ぎるかもしれない。
「ヴィンセント、ブレないね。ニーナも受け入れてないで突っ込まなきゃ」
「リリー!」
「ニーナ!またよろしくね」
「うんっまた一緒のクラスになれて嬉しいよ」
「おはよ」
リリーと喜んでいたところに後ろから声がした。レオだ。
「おはよレオ。クラス替え見た?」
「見た見た。ヴィンセント一緒だな、よろしく」
「ああ、よろしく」
レオはいつも通りだ。私がニーナではないと気付いたのは去年の夏頃?もっと前?とにかく大分前だと思う。なのによく得体の知れない私に以前と変わらず接してくれていた事に感心してしまう。
私もいつも通り、いつも通りに……
「おはようレオ」
「おはよ、クラス離れたな」
「だね」
「リリーと一緒でよかったな。また魔法の練習したい時は言って。付き合うよ」
「ありがとう」
本当にいつも通りで拍子抜けしてしまう。私に気を遣わせる事なく接してくれるレオだからこそ、私も誠意を持って伝えなければいけない。
「教室行こっ」と先に歩き出したリリーとヴィンスの後ろで、レオに小声で話しかけた。
「レオ、週末うちに来れる?その時に全て…話すよ」
私の言葉にレオは一瞬目を見張って、了解と小さく答えた。
―――――
全てを話すと決意したものの、心はまだ追いつかないまま週末になる。
(大丈夫。きっといい方向に進む。………けど……)
そうならなかったら、と。
嫌な妄想を払う様にふるふると頭を横に振った。
「はぁ…………」
ここまで来たら早く話をしてしまいたい。
そんなことを思っていると、コンコンとドアをノックする音が部屋に響いた。
(来た…!)
「サラ?今行くわ」
「お嬢様。それが…」
サラにはクラスメイトのレオが来ると伝えている。何故か困っている様子のサラに疑問を投げる。
「どうしたの?」
「レオナルド様だけでなくヴィンセント様もいらっしゃってて…」
「えっ!?」
「おふたりで少し揉めてる様に見受けられて…とりあえず応接室にお通ししております」
「……分かったわ」
(なんでヴィンスも……!?レオはヴィンスに話したの?)
急いで応接室へと向かう。
(どうしよう)
(どうしよう…どうしよう……)
(ヴィンスも私がニーナではないと知ってるの?)
応接室の前に着く。ヴィンスも話を聞きに来たというのだろうか。想定外の事に頭が上手く働かない。
「―――は――――ない?」
「―――――だろう」
応接室からは話し声が聞こえるが何を話しているかまでは分からない。ノックしてドアを開けるとヴィンスもレオもぱっとこちらに振り向いた。
「ヴィンス…」
「ニーナ?顔色が……」
顔色?それよりヴィンスはなんでここにいるのだろう。
「大丈夫?とりあえず座って」
「ヴィンスは、どうしてここに?」
「……ああ、同席させてもらおうと思って」
「っ!」
(どうしよう)
(やっぱり知っているんだ。どう思ってる?私はどうしたらいい?ニーナ………!)
「!」
その瞬間、真っ白な眩い光と共に魔法に包まれる感覚がして――私は懐かしいその感覚に意識を手放した。




