ニーナの切望
元々のニーナには傍点を付けています。
分かりづらかったらすみません。
ニーナはヴィンセントには敬語、レオにはタメ口で話しています。
ニーナなのにニーナじゃなくて、目の当たりにして声が出ない。
「ニーナなのか?」
同じくしばらく無言だったレオが声を掛けた。
「レオも久しぶりね。ちょうど1年ぶりくらいかしら?」
「どう…なってるんだ?さっきまでのニーナは…」
(そうだ。ニーナはどうなったんだ)
「ニーナは何処にいる?」
ニーナが無事かどうか不安になり、思わず口調がきつくなる。
「……ヴィンセント様の仰るニーナは元の世界へ戻っています。元々別の世界で暮らしていたところを、私のお願いで入れ替わってもらっていたのです」
「元の世界って……」
「聞くよりも見てもらった方が早いかと。お見せします」
「!」
そう言って俺とレオに手を翳す。フワッと頭の中に入って来たのは黒髪黒目の人物や建物に見た事もない乗り物が動いていて、人々の服装や周りの景色はこことはかけ離れたものだった。
「これは……?」
「ニーナの元いた世界です。こことは文化も歴史も異なっていて、魔法のない世界なのです。そしてこちらがニーナの本当の姿です」
パッと情景が消えて女の子のイメージが浮き上がる。黒髪黒目のニーナによく似た女の子――
「これが、ニーナ……」
「ニーナとは、体はそのままでお互いの意識だけを入れ替えたのです。何故入れ替わってもらったのかも含めて……説明します」
別の世界の存在とか意識だけを入れ替えるだとか非現実な事を受け入れられないが、今見せられたものが答えなのだろう。
ニーナから説明されたのは、己の魔力が高くこのままだと危険視され幽閉の恐れがあるという事、魔法の存在しない世界にいるニーナと入れ替わってそれを回避しようとした事、ニーナとは夢の中でお互いの意識を共有していた事を説明された。
(二百年前にもいたという強大な力を持つ者…まさかニーナもそうだったとは)
「ニーナは自分の世界での生活があったのに入れ替わる事を承諾したのか?」
「ニーナがこの世界に来たいと思った時に入れ替わる魔法が発動するようにしたの。その時に私の置かれている状況を説明したら、ニーナは即答で入れ替わる事を承諾してくれたわ。」
「何というか…本当なんだろうけど、色々驚きだな。ニーナの魔力が高いのも規格外な魔法を使うのも。で、ニーナはこれからどうするんだ?」
「私は…本当はもうここに戻ってくるつもりは無かった。けどもしニーナが私に会いたいと思う事があるなら、やっぱり自分の世界に帰りたいと思ったのなら、また入れ替われるように魔法石に魔法を込めておいたの」
「!ニーナは自分の世界に帰りたかったのか……?」
ニーナは今、元の世界にいると言っていた。もしこのままこっちに帰ってこなかったら…
ドクンと心臓が鼓動する中、ニーナは微笑んだ。
「ニーナに戻って来てほしいですか?」
「え?」
それはもちろん戻って来てほしい。けど、それを言ってしまったら今ここにいるニーナは必要ないと言っているみたいではないだろうか。
「私の事は気にせず本音を仰ってください」
「…ニーナに戻って来てほしい。………ごめん」
「謝らないでください。私はニーナが大切に思われていて嬉しいですから。それに、ニーナもここへ戻りたいと思っています」
「じゃあ!」
「但しニーナを戻すにあたり、約束していただきたい事があります。入れ替わりを知っているのは私の母と、お二人だけです。この事は他言無用でお願いしたいのです」
「それはもちろん……」
答えは肯定しかない。だけど、言いかけてパッとレオの方を向いた。
「俺は………」
レオの眼には迷いの色がある。レオは神官だ。魔法に於いて危険視される人物を監視し、報告する義務がある。強大な魔力を持つニーナがいなくなっても、ニーナ達が入れ替わったという事実を報告しニーナに監視を付けなければいけないかもしれない。
懇願するようにレオを見ていると、少しの沈黙の後迷いを断ち切ったのか口を開いた。
「俺は力を持つ者を幽閉していた過去に疑問がある。力を悪用しようとしている者にならともかく、ニーナにそれを行使するのは間違ってる」
「レオ……」
「ニーナ達が入れ替わった後はそれを証明する手段はないし、そんな不確かな事を俺は口外しない。だから安心して」
「……うん、っうん!」
安心からかニーナの瞳は涙で潤む。その姿に駆け寄ってしまいそうになるが、ここにいるのは俺の想うニーナではないからグッと堪えた。
「ニーナはそれでよかったのか?」
「私は自分の力を知って、それからはニーナと入れ替わる事ばかりを願って生きてきたの。一年前にお母様と別れの言葉もなく入れ替わった時は少し…後悔したけれど、先程またお母様と話す事も出来たからもう思い残す事は無いわ」
「そうか」
「こうしている時間が長引くほど、私の決心が揺らいでしまいそうだから、もう行きます。この魔法石だけど……」
そう言ってニーナは胸元から黒く光る魔法石を取り出した。
「入れ替わる魔法は使い切って空っぽになっているの。だから、もう私とこの世界を繋ぐ事はなくなるわ。………ニーナをよろしくお願いします」
「ああ」
「ニーナ、元気で」
ニーナは見惚れるような笑顔を見せた後、両手を祈るように重ね魔法を放った。




