先輩と白い探偵
旅館をチェックアウトした後にタクシーを呼び、近くの水族館へ向かった。
せっかく遠出したのだから楽しみましょうと茅野先輩を説得したもののなんだか不服そう。
そんな中、タクシーのラジオから『水族館で殺人事件が起きた』と流れると急に先輩の顔がキリッとした。
「後どのくらいで水族館に着くのかな?」と聞くとタクシー運転手は「20……いや15分くらいですかね」。
先輩は力強く頷く。
他の探偵に邪魔されてきたが今度こそ一番乗りで推理を始められるはずだろう。
しかし僕はここで手を上げる。
「お、お手洗いに行きたいのですが。お時間頂けますか?」
……それはもう。緊急事態であった。
(絶対に間に合わない……終わった)
公園のトイレ。
「早くしてよ悠木クン」「ここ男性トイレなんですけどっ⁉︎」なんて掛け合いもあって急かされるが出られない、スマホで助けを呼ぼうとするが絶望的。
トイレの中で1時間くらいこもってやろうかとも考えたけど、先輩が一生会話してくれなくなる気がするからすぐに出た。
諦めよう、ここまでが順調すぎたんだ。
目的地である水族館に着くとタクシー代を払って走り出ていく。
旅行パンフレットで見たことがあったが想像以上に大きな水族館。
しかし、その入り口に数人集まっていた。
パトカー。警察。手錠をされた男性。水族館の職員たち。
そして白い学生服を着た白い少女。
『白い少女』と言うのは比喩表現とかではなく白いのだ。肌の色、髪の色が。
瞳が少し赤色をしているからアルビノなのだろう。
とてもやる気がなさそうな少女だ。
彼女が先輩と僕に気が付くとこちらにゆらりゆらりと歩み寄る。
茅野先輩は黒いセーラー服を着て80デニールの黒いストッキングを愛用している。先輩を色で例えるとしたらもちろん『黒』。
つまり黒い先輩と白い少女が対面する。
モノクロ。とても目がちかちかした。
「すみません。もう事件を解いてしまいました」
「……えっと。君は?」
「あ、そうでした。【聖女探偵】と名乗っています。別によろしくしなくていいです」
「……???」
僕に『なんだこの娘は、なんとかしてくれ!』みたいな視線を向けるがどうしろというのか。
白い少女もこちらをじっと見ている気がしたが目を合わせないようにする。
「聖女探偵は聖女ですから、身近に殺人事件が起きたことはありませんでした。にわかに信じられなかったので聖女探偵だけ自由行動でした。魚可愛いので、見ていたら。起きました、事件……そしたら貴女が来た」
「さっきからなにを言いたいのかな?しかもまるで私の事を知っているかのように……」
「死神。貴女は要注意です」
ぺこりっと軽く頭を下げて、先輩と僕の間を通っていった。
ゆらゆらと、体を揺らして歩く後ろ姿。不思議な少女。
「……妖精みたいに可愛い娘だったね」
「先輩、今の意味深なセリフにその感想ですか?」
どちらかと言えばフランス人形みたいな印象ではないだろうか。
『先輩の方が可愛いですよ』と言いそうになったが『君の『可愛い』は胡散臭い』と返されそうだからやめておいた。




