先輩と幽霊騒動
──翌日──
「うちの夫が大変お騒がせいたしました。ご存じかどうか知りませんが昨日の夜中の件は全て夫の仕業です」
「まことに申し訳ございません」
早朝に泊まっている部屋がノックされ、茅野先輩が扉を開くとこの旅館の若女将とその旦那さんである板前長が頭を下ろしていた。
神妙な面持ちで顔を上げるとふたりぎょっとしたように部屋の奥を凝視する。
視線の先には僕。正しくは縄に縛り付けられて身動き出来ない悠木 継春。
若女将は気まずそうに「あ、大丈夫ですよ。うちの夫もたまに…」と呟くとすかさず茅野先輩は否定する。
そうです違うんです。
これは決して夜中に先輩のベットに潜り込もうとしたことへの罰ではないんです。
寝相悪くてですね。起きたらいつもこうなっているんですよ。
「それで、昨日の夜中の件というのは?」
「はい……この旅館に不幸が続きましたでしょ?ですから見ての通りお客様の数もかなり減ってしまいまして」
「二度も殺人事件があったわけですし大変でしょう。お察しいたします」
「ありがとうございます……そのせいでと言うのは恥ずかしい限りなんですが夫がこの状況をなんとかしようと思ったみたいなんです。その気持ち嬉しいのですがやり方がやり方で……」
「つまり?」
「幽霊を作ったんです。今泊まって下さっているのは事件マニアみたいな変わった方達です。なら幽霊がいる旅館となればSNSなどで拡散されて心霊ホラー好きの変わり者が泊まりに来てくれる。と思ったみたいで」
随分と挑戦的な試み。
つまり昨日僕が見た幽霊は板前長のイタズラ?
「え、でも幽霊を見たすぐに確認しましたけどなにもありませんでしたよ?トリックがあるんですよね」
「考えられることはひとつでしょ悠木クン。窓の外にはなにがあるかな?」
「白い虫除け網、くらいでしょうか」
しかも結構分厚い。
「おそらく板前長は作った幽霊の映像を虫除け網に映写したんだろうね」
「その通りです。俺は高校の頃は映像研の部長だったもので……いやぁうまくいくと思ったんですが、あの探偵さんに全部暴かれてしまいました」
「……あの探偵」
茅野先輩は(あー、はいはい。またこの展開ね)みたいな複雑な笑みをこぼした。
先程まで暗い面持ちだった若女将と板前長はズボンのポケットからお守りのようなものを取り出して。
「オカルト探偵って方なんですが、言う事がもう全部当たっているんですよっ!そんな方が『このお守りを持っていれば旅館が困るほど繫盛する』って言って下さって!ですからこれからもこの旅館をどうぞよろしくお願いいたしますっ!」
「あ、はい。それは良かった」
ささっ、かちゃっ。
宗教の勧誘から逃げるように部屋の鍵を閉める茅野先輩。
結局今回も事件の後日談。




