第96話「通路設計」
スキルをもう一度展開した。
【迷宮管理Lv.7:通路設計——機能詳細】
詳細が出てきた。
「通路設計」は、迷宮と外界を繋ぐ「安定した経路」を設計する機能だった。
安定した、というのは——溢出が起きない、知性体の意図しない外出が起きない、という意味らしい。管理された経路を作ることで、混乱なく往来できるようにする。
ただし、条件がある。
全当事者の「合意」——スキルが「署名」と表現していた——が揃わないと起動しない。
「全員の同意がないと作れないのか」とゴブが言った。
「そうだ」
「なぜだ」
「一方的に作った道は、一方的に閉じられる可能性がある。全員が同意した道なら——全員が守る動機がある」
「なるほど」
「王国の署名が一番難しい。それ以外はどうか」
「俺は同意する」とゴブが言った。
「俺が「迷宮側の知性体の代表者」として署名していいかどうか、確認が必要だ。移送で外に出た他の者たちへの相談が必要かもしれない」
「そうだ。今回は、ゴブ一人で決めることじゃない」
「わかった。バインに通信を入れる。バインが移送組全体に確認できるかどうか聞いてみる」
バインへの通信で、状況を説明した。
「了解しました」とバインはいつも通りに言った。「確認はできます」
「どのぐらいかかりますか」
「三日あれば、代表者会議を開けます。全員ではないですが、各種族の代表者が揃えば、合意の形式は取れます」
「三日で十分です」
「ただし」
「ただし?」
「代表者たちは、「迷宮に戻ることができるか」という問いを気にしている者が多い、と思います。今回の「通路設計」の話は——「入れる」という意味では「戻れる」に繋がりますか」
「繋がります。「行き来できる道」なので、迷宮から外への道も、外から迷宮への道も、両方含まれます」
「それは——伝えると、話が早くなるかもしれません」
「伝えてください」
夜、ヴォルトに接続した。
「通路設計の機能が使えることがわかった。全当事者の合意が揃えば、起動できる」
「——そうか。合意が揃うまで、どのぐらいかかる」
「王国側が一番難しい。でも、交渉を進めている」
「——王国とは、どういうものだ」
「人間が作った集まりだ。決定を下すのに、多くの人間の同意が必要だ」
「——そういう仕組みになっているのか」
「そうだ。全員が同意しないと動けない部分がある。だから時間がかかる」
「——それは——私の世界と違う」
「あなたの世界では」
「——全員が一緒だった。分かれていなかった。だから合意、という概念が必要なかった」
「それがなくなった」
「——なくなった。ここに来て、一人になった。一人の私には——合意、という概念が初めてだ」
「今は、合意が必要な世界にいる」
「——そうだ。ただ——」
「ただし」
「——それは、悪くない気がしてきた。合意を取るということは、話し合うということだ。話し合うということは——話を聞くということだ」
「そうだ」
「——お前が言った「聞かないと損」は——そういう意味か」
「そうかもしれない」
「——なるほど。合意を取ることが——損をしないためのものだとすれば——」
スキルが大きく変化した。
【迷宮管理Lv.7:通路設計——ヴォルト合意確認済み。残り:王国署名、迷宮知性体代表署名】
「王国の署名が、一番難しい」と俺はもう一度呟いた。




