第94話「住む、ということ」
「来ることはできる、というのは」と俺は聞いた。
「——迷宮の中に、人間が来られる道を作れる」
「迷宮の中に——人間が入れる道を」
「——私は、ここにいる。外には出られない。でも、「外の者が来る」ことは——できる」
ゴブが前に出てきた。
「俺たちは、迷宮に戻ることはできるか」
「——できる。迷宮は空になったが、空き家にはまだ壁がある」
「空き家」
「——空き家に住み直すことはできる。外に出た者が、また戻ることも」
ゴブが俺を見た。
俺はゴブを見た。
「まだ、決めなくていい」と俺は言った。
「わかってる」とゴブは言った。「でも——聞いておきたかった。選択肢として」
「ヴォルト」と俺は続けた。
「——なんだ」
「「住む」というのは、どういう意味だと思う」
長い間があった。
「——私には、住む場所がない。外からここに来て、封じ込められた。「住んでいる」とは言えない。ただ、「いる」だけだ」
「そうか」
「——でも、ゴブはどう思っているのか。「住む」とはどういうことか」
ゴブが少し考えた。
「仲間がいる場所、かな」
「仲間?」
「一人じゃない場所。俺が困ったとき、声をかけられる相手がいる場所。そこが——住んでいる場所だと思う」
「——迷宮には今、仲間がいないか」
「今はいない。でも——アシダがいる。バインがいる。カーラさんがいる。カイルも——どうかわからないが」
「どうかわからないとは」
「カイルが、いつかここに来るかもしれない。来るかもしれないから、住むかもしれない」
「——そういう考え方をするのか、お前たちは」
「そういうものだ」
ヴォルトが少し間を置いた。
「——私は、一人だった。長い時間。「仲間」という概念を持っていなかった」
「今は」
「——今は……あなたたちが「来る」と言っている。それは——仲間に近いか」
ゴブが「近いと思う」と言った。
「——そうか」
その夜、ゴブが俺に言った。
「迷宮に戻ることを、考えている」
「そうか」
「外は——悪くなかった。でも、俺の場所じゃない気がする」
「わかった」
「ドランがいなくなった迷宮は——空き家だ。でも、空き家に俺が戻れば、俺の場所になるかもしれない」
「そうかもしれない」
「バインは、どうだ」
「バインに聞く」
「アシダは?」
「俺は——」
俺は少し考えた。
「門番だから、門にいる」
「門番がいると、迷宮が安心する。ドランが言ってたな」
「そうだな」
「じゃあ、また門の前に立ってくれ」
「そうする」
ゴブが「よかった」と言った。
「よかった、とは」
「一人じゃないから」




