第93話「ゴブの外交デビュー」
王都に数日滞在することになった。
委員会の設置に関する実務的な確認と、反対派との接触——カーラが対応を進める間、俺は動けない状況だった。
ゴブは、倉庫の一室にいた。
その倉庫に、午後から子供が来た。
カーラの使っている管理局の施設は、王都の中心部ではなく少し外れにある。その近くに住んでいる子供が、好奇心で倉庫の扉を開けた、ということらしい。
ゴブから俺への通信が来たのは夕方だった。
『アシダ、来てくれ』
「何だ」
『子供が来た。返し方がわからない』
倉庫に行くと、扉の前に七歳か八歳ぐらいの子供が立っていた。ゴブは扉を半分開けた状態で、子供と向かい合っていた。
子供がゴブを見ていた。
ゴブが子供を見ていた。
「何があった」と俺は聞いた。
「この子が「お前ちっちゃいな」と言った」
「言いました」と子供が答えた。
「それで?」
「傷ついた」とゴブが言った。
「傷ついたのか」
「そうだ。俺はゴブリンだ。ゴブリンは小さい。それは知っている。でも、面と向かって言われると——」
「ショックだったのか」
「ショックだ」
子供が俺を見た。
「この小さいのは、怖くないのですか」
「怖くないか聞いてみてください」
子供がゴブを見た。「怖いですか」
「怖くない」とゴブが答えた。
「なぜ怖くないのですか」
「それはこちらのセリフだ」とゴブが言った。「なぜお前は俺を怖れないのか」
「ちっちゃいから」と子供が言った。
ゴブが「うぐ」という顔をした。
その後、子供と三人で少し話した。
子供の名前はリコといった。八歳。管理局に勤める人間の子供だった。
「ゴブリンは初めて見た」とリコは言った。
「俺も八歳の人間と話すのは初めてだ」とゴブは言った。
「八歳か。いくつですか」
「……わからない。百は超えていると思う」
「百!」
「そんなに大きな声で言うな」
「ゴブリンは百歳でも小さいのですか」
「小さい」
「へえ」
リコが考えるような顔をした。
「小さいのに百歳なの、すごいね」
ゴブがわずかに表情を変えた。
「すごい、か」
「だって、俺の父ちゃんは四十歳でもっと大きいけど、背中が痛いって言ってる。ゴブは百歳でどこか痛いですか」
「膝が少し」
「やっぱり同じだ」とリコが言った。
ゴブが俺を見た。
俺は何も言わなかった。
夜、ゴブがつぶやいた。
「俺たちは、ここに住めるか」
問いは唐突だった。でも、俺には聞き覚えがあった。
プロットに書いてあった問いだ。予想通りの時間に来た。
「今はまだ、難しいかもしれない」と俺は言った。
「でも——」
「でも」と言ったところで、誰かが扉を叩いた。
開けると、廊下にヴォルトの気配があった。
スキルが反応していた。
【迷宮管理Lv.7:ヴォルト——接触中。発信あり】
「ヴォルト?」
「——レン。一つ伝えることがある」
「聞く」
「——私たちは、外には出られない。だが——あなたたちが来ることはできる」
ゴブが後ろで「え」と言った。




