第92話「同じ目で見られる」
「なぜ平気か」と俺は繰り返した。
「そうです。王国内での立場が悪くなる可能性について、あなたは気にしないのですか」
「気にすることが、何かを変えますか」
「……気にすることで、対策を立てることができます」
「対策は立てます。立てるけど、気にはしない」
「違いは」
「気にする、というのは——「そうなったら嫌だ」という部分だ。嫌でもなる時はなる。なったときに対処すればいい」
カーラが少し黙った。
「……あなたは、感情を持たないのですか」
「持ちます。ただ、感情で結論を出すと、聞けなくなる。「嫌だ」という感情があると、「嫌なことを言う人間」の話を聞けなくなる」
「感情を切り離しているのですか」
「切り離していない。置いておく、という感じです。後で取り出す」
「舐められてるほうが聞いてもらいやすい。ずっとそうだった」
俺はそう言ってから、少し考えた。
「ランク外の門番が来ました、と言われたとき、議員たちは俺を舐めた。でも、舐めていると——「どうせ何も言えないだろう」という油断が生まれる。その油断が、聞く余裕になる。ちゃんとした身分の人間が来るより、舐められた方が、言葉が届く場合がある」
「それは——意図してやっていることですか」
「最初はそうじゃなかった。ただそうなっていた。でも、今は使えることだと思っています」
カーラが「……そうですか」と言った。
「カーラさんは」と俺は続けた。「「魔物に肩入れしている」と思われることを、気にしていますか」
「気にしています」
「どういう部分で」
「私は軍人です。軍人は信頼で動く。信頼が崩れると——動けなくなる」
「なるほど」と俺は思った。
「それは、本当の問題です」
「そうです。だから——」
「だから俺が前に出て、あなたの信頼が傷つかないようにする、という形もありますが」
「……それは」
「嫌なら言ってください。別の方法を考えます」
カーラが少しの間、沈黙した。
「……今は、まだわかりません。ただ、あなたがそういう考え方を持っていることは——わかりました」
「わかってくれれば十分です」
翌朝、カイルが「俺は第四迷宮に戻る」と言った。
「ナハトが待っている」
「そうか。護衛は」
「要らない。剣士だ」
「そうだな」
「ヴォルトとの話は——次は俺も聞きたい」
「繋げてみます。スキルがどこまで拡張できるか、わからないが」
「わからないけどやってみる、がお前の基本か」
「そうだ」
「……そうか。じゃあ、俺もそうする」
カイルが出発した。
ゴブが「あいつ、変わったな」と言った。
「そうだな」
「俺が最初に会ったとき、目が違った。「俺の方が強い」という目をしていた」
「今は」
「今は——「何かを探してる」目をしてる。まだ見つかってないが、探してる」
「それは」と俺は言った。「いい変化だ」




