第82話「最初の声」
「途方もなく長い時間」という感覚が、少し長く続いた。
重さ、というか——広さだった。時間が広がっている感じ。俺には処理しきれない規模の「長さ」が、スキルを通じて伝わってきた。
俺はそれを受け取ったまま、黙っていた。
「……お前は、何者だ」
スキルが翻訳した。精度は低いが、意味は届いた。
「俺はレン・アシダという。第七迷宮の門番だ」
「門番」
「そうだ」
「戦士ではないか」
「戦士ではない。話しに来た」
長い間があった。
「なぜ下りてきた」
「話を聞きに来た」
また間があった。今度は、先ほどより短い。
「聞きに来た」と「第23層の主」は繰り返した。
「そうだ」
「何を聞く」
「まず——お前が、ここにいる理由を聞きたい」
スキルが一度、大きく揺れた。
【翻訳精度:低下継続——概念として受信します】
概念が来た。
「ここにいる」というより「ここにいるしかない」という感覚。
「中からも押している。外からも押されている。どこにも行けない」という感覚。
「閉じ込められている、ということか」
「そういう言葉を使うなら——そうだ」
「誰が閉じ込めた」
「俺が来た頃、ここにいた者たちが封印した」
「迷宮の知性体たちが」
「そうだ。私は——外から来た。この世界の「外」から。来たとき、ここの者たちが怯えた。だから封じ込めた」
「怯えたから封じ込めた、というのは——お前が危険だったからか」
「そう判断した。俺には、止める方法がなかった。言葉が——通じなかった。形も違った。理解されなかった」
「三百年以上、封じ込められている間——お前はどうしていた」
長い間があった。
「待っていた」
「何を待っていた」
「聞く者を待っていた」
その一言が、スキルを通じて届いた。
翻訳精度が低くても、意味ははっきりわかった。
「俺に話を聞いてほしかったのか」
「違う。誰でもよかった。聞ける者なら誰でも」
「ずっと、誰かに話しかけようとしていたか」
「そうだ。ただ、来る者たちは——戦うか、逃げるかしかしなかった」
「それで、話せなかった」
「そうだ」
俺はしばらく、その言葉を受け取っていた。
「おまえ、恐くないのか」
それは——概念ではなく、少し「言葉」に近かった。スキルの翻訳精度が上がっている。
「恐い」と俺は正直に答えた。
「でも聞かないと損だ」
また間があった。
「損」
「そうだ。話の中に何かがある。聞かないとそれを逃す。だから聞く」
「損」という概念が、もう一度来た。
ただし今度は——少し違う感触で。
戸惑いのような。初めて触れるものを見たときの感触に似た何か。
「俺の言い方が変だったか」
「……いや。初めて聞いた言い方だ」
「「聞かないと損」というのは」
「そういう言い方で話しかけてきた者は——いなかった」




