第81話「第23層に降りる」
目を閉じると、スキルの感覚が変わった。
普段は「見る」感覚に近い。数値が視野の端に浮かぶ。
今は違った。
「繋がる」感覚だった。
第七迷宮の第23層——そこに向かって、スキルが伸びていく感じがした。糸のような、川の流れのような。俺は動いていない。でも、何かが動いていた。
数値が変わり始めた。
【迷宮管理Lv.7:第23層接続中——深度増加中。異常値検出開始】
数値が並んだ。
温度換算値:極低。圧力換算値:高。生命反応:大規模——識別不能多数。
「大規模」
俺は内心で驚いた。
第23層に、何かが大量にいる。
それが何なのか——スキルが「識別不能」と言っている。
今まで「識別不能」を出したことはなかった。
【迷宮管理Lv.7:第23層接続完了——交渉モード起動中——対象:特定中——】
スキルが「特定中」で止まった。
普通なら一秒もかからない処理が、止まっている。
俺は待った。
一分。
三分。
五分。
スキルが再び動いたのは、目を閉じてから十五分後だった。
【迷宮管理Lv.7:対象識別完了——「第23層の主」。接触準備完了】
「第23層の主」
名前ではない。呼称だ。でも、スキルが「主」と判断した何かがいる。
俺はスキルを通じて「聞こえるか」と念じた。
何もなかった。
もう一度念じた。
今度は——「何か」があった。
音ではない。概念でもない。
存在の重さ、とでも言うべき何かが——あった。
「俺が聞こえているなら、信号を送ってくれ」
間があった。
スキルの数値が一度だけ、大きく跳ねた。
聞こえている。
【迷宮管理Lv.7:第23層——残余エネルギー推定値:通常の八百倍。知性体種別:前例なし——翻訳精度:低下中】
「翻訳精度が低下」
俺は少し考えた。
これまでの知性体——ゴブ、ドランの記憶、ドランの残滓——はスキルが翻訳してくれていた。でも、「第23層の主」は翻訳精度が下がっている。
それだけ、俺の認識の外にある存在、ということかもしれない。
それでも——繋がった。
「……声が、聞こえる」
概念として、届いた。
スキルが判定した。
【翻訳精度三十パーセント——以下は推定変換です】
「聞こえる。俺の声が届いているか」
また間があった。
「……久しぶり、だ」
「久しぶり? 俺たちは初めてだ」
「お前たちの言う「調停者」が来たのは——長い時間前だ」
「三百年以上前か」
「もっと前だ」
俺は少し止まった。
「もっと前、とはどのぐらい前か」
スキルが一度、大きく揺れた。
翻訳精度がさらに下がった。
届いてきたのは、数字ではなく感覚だった。
「途方もなく長い」という感覚。




