第80話「第23層と話せる」
「接触可能」の表示は、消えなかった。
俺は一時間ほど、その文字を見ていた。
ゴブが「何が書いてあるんだ」と聞いた。
「第23層のアレと、接触できる状態になった」
ゴブが少し間を置いた。
「話せる、ということか」
「そうだ」
「……やばい」
「やばいかどうかは、まだわからない」
「でも」
「でも」
ゴブが「アシダ」と言った。
「何だ」
「アレと話した者は、戻らなかった。前の調停者もそうだ。カーラさんが言ってたじゃないか」
「戻らなかったのは、深部に引き込まれたからだ。話したから戻らなかったとは書いていなかった」
「でも同じことだろ」
「違う。入る場所が間違っていた可能性がある」
「どういうことだ」
「深部に降りて話そうとした。だから引き込まれた。俺は——入口で話す」
「入口で話せるのか」
「スキルが「接触可能」と言っている。物理的に深部に降りなくても、スキル越しに接触できるかもしれない」
俺はカーラに通信を入れた。
「第23層と接触可能状態になりました」
『……わかりました。どうするつもりですか』
「話してみます」
『危険ではないですか』
「わかりません。でも、話さないよりは話した方がいい」
『理由を聞かせてください』
「アレが封印しているものが動き始めている。七つの迷宮に影響が出ている。このまま封印が続けば、アレも限界が来る。そうなる前に、状況を知りたい」
『アレが話すかどうか、わかりませんよ』
「わかりません。でも、ナハトが「アレは話したがっていた」と言った。話したがっている相手に、話しかけに行く」
カーラが少し間を置いた。
『……行ってください。ただし——』
「ただし」
『カイルに連絡してください。もし戻らなかった場合の連絡先として』
「カイルが戻らなかった場合の連絡先になっても、あまり役に立たないと思いますが」
『それはそうですが——誰かに伝えておくことが、大事なときがあります』
「わかりました」
カイルに通信を入れた。
「第23層と話す。入口から試みる。もし通信が三時間以上途絶えたら、カーラに報告してくれ」
『……わかった。俺に何かできることはあるか』
「今は、ナハトのそばにいてくれ。それが一番だ」
『お前はどうする』
「まあ、聞いてから判断しよう」
『その口癖はやめろ。こういう場面で言うと余計に怖い』
「そうか。じゃあ——聞いてくる」
『戻ってこい』
「来る」
ゴブが「俺はどうする」と聞いた。
「ここにいてくれ」
「一緒に行かなくていいのか」
「俺が話している間、外で待っていてくれ。三時間で戻らなかったら、カーラに連絡しながら、何があったか確認しに来てくれ」
「確認しに来ても、何もできないかもしれないが」
「それでいい。いてくれれば十分だ」
「……そうか」
「ゴブ」
「何だ」
「俺は戻ってくる。まあ、聞いてから判断しよう」
ゴブが「その言葉は信用する」と言った。
俺はスキルを展開したまま、第二十三層への経路を確認した。
「接触可能状態」の表示が、まだ続いていた。
【迷宮管理Lv.7:第23層——接触可能状態——距離:不要(スキル直接接続が可能)】
距離不要。
俺は目を閉じた。




