第78話「全迷宮の異常」
「五つ」と俺は繰り返した。
「七つのうち五つ。残り二つは第一と第三迷宮です。第一は王都直轄で常時監視中、今のところ異常なし。第三は先週の巡察では正常でした。ただし——」
「来週には変わっているかもしれない」
「そう思っています」
俺は少し考えた。
「五つで同時に動いている、というのは——アレが移動しているのか、増えているのか」
「それが、わかりません。もともと複数いたのか——管理局内でも意見が割れています」
「カーラさんはどう思いますか」
少し間があった。
「地下連絡路仮説の話を以前しました。七つの迷宮が地下で繋がっているとすれば——一つの何かが、地下を移動しながら各迷宮に「触れている」という可能性があります」
「触れている」
「影響を与えている、という意味です。移動している何かが通過するたびに、その迷宮の第23層が活性化する」
「一つが動いている、ということですか」
「可能性の一つです」
俺はスキルを展開した。
【迷宮管理Lv.7:第七迷宮観測範囲——他迷宮のデータは管轄外】
やはり第七迷宮のデータしか入ってこない。
「スキルを拡張できるかどうか、わからないですが——一つ確認していいですか」
「どうぞ」
「第七迷宮の第23層は、今どういう状態ですか」
「移送前のレポートでは「封印状態は維持」となっていましたが、移送後の確認はまだ取れていません」
「確認できますか」
「今日中に担当者を送ります」
「ありがとうございます」
翌日、第七迷宮の第23層から報告が来た。
カーラが転送してくれた内容を読んだ。
「封印状態変化あり。かつての「完全封印」から「部分透過」に移行。ただし迷宮内への侵入は確認されず」
「部分透過、とは」とゴブが俺の手元のメモを見ながら言った。
「封印が完全ではなくなった、ということだ。ただし、完全に破れてもいない」
「アレが、外を見られる状態になった、ということか」
「そうかもしれない」
「見られる、ということは——来られるかもしれない」
「そうだ」
ゴブが「やばいな」と言った。
「そうだな」と俺も言った。
その夜、カイルからまた通信が来た。
『ナハトが言ってた。「アレは増えている」と』
「増えているのか、移動しているのか」
『ナハトも「わからない。でも、多い」と言ってた』
「多い、か」
『複数体の確認がされた、ということか?』
「可能性がある。ただし、移動する一体が複数の迷宮に影響を与えている可能性もある」
『どっちにせよ、一つじゃないかもしれない』
「そうだ」
『アシダ、俺——一つだけ確認したいことがある』
「何だ」
『ナハトに、「アレと話せるか」と聞いた。そしたら「話せる者がいれば」と言った。「話せる者」とは——』
「スキルを持っている者、という意味か」
『いや。「聞ける者、という意味だ。アレは三百年、誰も聞きに来なかった」と言った』
俺は少し止まった。
「アレが、聞いてほしかった」
『ナハトはそう言っていた。正確には——「アレは話したがっていた。でも誰も来なかった」と』
その言葉が、頭の中で少し時間をかけて広がった。
ドランが三百年、誰も聞かなかったと言っていた。
アレも——同じだったのかもしれない。
俺は「わかった」と言った。
「それを聞けたのは、カイルが聞いたからだ」
『俺が聞いたから?』
「ナハトに聞いた。だからナハトが話した。それでわかったことがある。聞くことで、見えなかったものが見えることがある」
カイルがしばらく黙った。
『……なんか、わかった気がする』
「そうか」
『スキルのことを確認しておく。アシダ、俺の迷宮管理スキルの、今の数値を見てくれ』
俺はスキルを展開した。
表示が変わっていた。




