第74話「ドランの頼み」
光を第十七層まで連れていくことになった。
「連れていく」と言っても、物理的に運べるものではない。
俺がスキルを展開したまま「来い」と念じると、光はゆっくりと動いた。俺の後をついてくる、というよりも、俺のスキルに引き寄せられている感じだ。
ゴブが「ふしぎだ」と言った。
「何が」
「ドランが光になった。でも——ドランっぽい」
「ドランっぽいとは」
「なんか、動き方が」
「ドランの動き方を知っているのか」
「知らない。でも感じる」
俺は「そうか」と言った。
第十七層への道は、いつもより静かだった。
残留の知性体たちは北口に向けて移動中で、この層にいる者はほとんどいない。光は俺の少し後ろをついてきた。石の床に触れると、一瞬だけ青く光った。
核の前に着いた。
スキルを展開した。
【迷宮管理Lv.7:第七迷宮第十七層——ドランの記憶(核内残存)検出中——外部流出残滓との接触試行】
俺は黙って待った。
核が振動した。九十秒ではなく、不規則に。
光が核に近づいた。
触れた。
一瞬だけ、光が強くなった。
それから——静かになった。
静かになった、という表現が正確かどうかわからない。でも、今まで感じていた「外を探している」という感覚が、少し薄れた。
スキルが動いた。
【迷宮管理Lv.7:第七迷宮第十七層——ドランの記憶(統合)。核安定度:向上。変動幅±1.2%】
「統合、か」
ゴブが「よかった」と言った。
「よかったかどうか、まだわからない」
「でも数値が下がった」
「そうだな」
その夜、核から概念が届いた。
「アシダ」
「聞こえる」
「一つだけ頼みがある」
俺は「聞く」と言った。
「ゴブを、頼む」
俺は少し止まった。
「それは、前にも言った」
「また言う。あの子は——一人になるのが怖い。三百年、俺がいた。俺がいなくなれば、一人になる」
「わかった」
「お前に頼めるか」
「ゴブを頼む、というのは——ゴブのそばにいる、ということか」
「それだけでいい」
「それだけでいいなら——俺だけじゃなく、カイルもいる。カーラもいる。バインもいる」
長い間があった。
「……知らなかった。そんなに、いたのか」
「最近増えた」
「……」
「ドラン」と俺は言った。「お前は、もう一人じゃない。ゴブも、もう一人じゃない」
核から、光が一度だけ広がった。
それから——静かに、消えた。
ゴブが「何が起きた」と聞いた。
「ドランが、もういなくなった」
「さっきと違うのか」
「さっきは「残滓」だった。今は——本当にいなくなった」
ゴブが少し黙った。
「……「頼む」って言ってたか」
「聞こえていたのか」
「感じた。俺を頼む、って」
「そうだ」
ゴブが俺を見た。
「アシダ」
「何だ」
「ドランは——苦しかったか」
俺は少し考えた。
「最後に、「知らなかった。そんなにいたのか」と言っていた」
「それは——」
「苦しくなかったと思う。知れた、という感じがした」
ゴブが「そうか」と言った。
それから、かすかに顔をゆがめた。
俺は何も言わなかった。
少し経って、カイルからの通信が入った。




