第73話「ドランの前で」
北崖窪地に向かった。
バインが「第一観測地点から見えます」と言っていた場所まで行くと、確かに光があった。
青白い。脈動している。ドランがいた頃の光に——似ている。
「これは」とゴブが隣で言った。
「わからない」
「ドランか?」
「ドランは崩落した」
「でも——」
「似ている、とは思う」
俺はスキルを展開した。
【迷宮管理Lv.7:北崖窪地——光源検出。種別:知性体活動反応。識別名:不明——ドランの記憶と同型のパターン】
「同型、か」
俺は光の方向に歩いた。
洞穴の入口だった。岩の裂け目が、人一人通れるぐらいの幅で開いている。その奥から光が滲んでいた。
「待て」とゴブが俺の袖を引いた。「俺が先に行く」
「なぜだ」
「さっきまで、ここの適応作業を俺がしてた。ここの知性体はたぶん俺の気配を知ってる。知らない人間が入るより、先に俺が行ったほうがいい」
「……そうだな」
ゴブが裂け目に入った。
俺は少し待った。
「アシダ、来てくれ」とゴブの声が中から届いた。
俺は裂け目に入った。
中は、想像より広かった。天井が高く、奥まで光が届いている。
光の中心に、ゴブが立っていた。
ゴブの前に——何かがいた。
人型ではない。光の塊、とでも言うべき存在が、洞穴の奥に漂っていた。大きさは人間の子供ぐらい。形は定まっていない。
「これは」
「名前を聞いた」とゴブが言った。「返事がなかった。でも、アシダを呼べ、という感じが来た」
「感じが来た?」
「こうやって言葉にするのは難しいんだけど——「お前の調停者を連れてこい」という感覚が」
俺はスキルを展開した。
【迷宮管理Lv.7:北崖窪地内部——知性体識別完了。呼称:ドランの残滓。核崩落後、一部が外部に流出して再構成された可能性あり。接触可能状態】
「ドランの残滓」
俺は光の前に近づいた。
「ドランか?」
形が揺れた。
答えは来なかった。
でも——少し、近づいてきた。
「ドランが言っていたことを、俺は聞いた。「三百年で初めて話せた」と言った。それを聞いた」
光が揺れた。強く。
「お前が、ドランの一部なら——俺は話を聞く」
また揺れた。
それから、俺のスキルを通じて、概念が来た。
「——もう、保たない」
俺は少し止まった。
「ドランが崩落したとき、お前は外に出たのか。もう保たないとは」
「ここも——外の空気では——限界がある」
「この場所にはいられない、ということか」
「どこへ、行けばいい」
光がかすかに収縮した。
俺はゴブを見た。ゴブも俺を見た。
「一つ、頼みがある」
ゴブが「なんだ」と言った。
「第十七層に連れて帰れるか。核の中に、「ドランの記憶」がある。もしかしたら——」
「連れ帰ったら、どうなる」
「わからない。でも、一人でいるより——一緒の方が、長く保てる気がする」
「お前の感覚か」
「スキルと感覚と、両方だ」
ゴブがしばらく光を見た。
「ドラン」とゴブは静かに言った。「俺のことを覚えてるか?」
光が揺れた。
ゆっくり、ゴブの方に動いた。
「覚えてる、んだろ」
また揺れた。
「じゃあ一緒に行こう。アシダのところに」




