第70話「戻る決断」
核の前に、一人で座った。
バインとゴブは十八体のいる第十二層に戻った。カイルは北口方面に向かった。
静かだった。
九十秒に一度、石柱が振動する。遠くで地震がある、という感触に似ている。足の裏から来る。
俺はスキルを展開したまま、ただ待った。
【迷宮管理Lv.7:迷宮核——残存パターン検出。読み取り試行中……】
試行中、という表示は珍しい。スキルが能動的に何かをしている感覚だ。
「聞こえるか」
俺は声に出して言った。
返事はなかった。
「ドランではないのはわかってる。でも、何かがいる」
また九十秒が経った。振動が来た。
「その振動が信号なら、別の方法で返してほしい」
俺はスキルのデータを見続けた。
変化はなかった。
十分、二十分と過ぎた。
俺は「まあ」と思った。「すぐ答えが出ないこともある」
一時間後、スキルが動いた。
【迷宮管理Lv.7:迷宮核——残存パターン読み取り開始。言語変換:非対応——概念として受信します】
「概念として、か」
感覚が来た。言葉ではない。映像でも音でもない。
何かが——眠っている、という感覚。
眠っているが、目覚めようとしている。
そして——外を探している。
「外を探している、というのは」
また感覚が来た。
「窓」。
「窓がなくなった」。
「窓が——」
俺はドランのことを思い出した。
ドランは「門は外への唯一の窓口」と言っていた。「外が見えなくなると、迷宮の中で恐慌が起きた」とも。
「窓を探している。つまり、外を見たい」
スキルが少し変化した。
【迷宮管理Lv.7:迷宮核——概念読み取り継続。応答可能範囲:限定的】
限定的でも、応答できる、ということだ。
「わかった。俺が窓になる。ただし、今の核の不安定は、何とかしてほしい」
感覚が来た。
「できない。外が見えないと、落ち着けない」
「逆だ。落ち着けば、外を見られる」
しばらく何もなかった。
それから——振動が、一度だけ、大きく来た。
スキルが変化した。
【迷宮管理Lv.7:第七迷宮第十七層/核出力——変動幅±3.1%に収束中】
数値が落ちた。六パーセントから三パーセントへ。
「通じた、か」
俺は立ち上がった。
その夜、カイルが戻ってきた。
「北口から東に二キロのところに洞穴群があった。規模は小さいが、閉鎖環境は作れる。バインも「使えます」と言っていた」
「十八体、全員入れるか」
「少し窮屈だが、入る。移動時間は半日以内だ」
「それは助かった」
カイルが俺の様子を見た。
「核の方はどうだった」
「少し通じた」
「話せたのか」
「話す、というより——概念でやり取りした。「窓がほしい」と言ってきた。「窓になる」と言ったら、少し落ち着いた」
「窓」
「外が見える場所、という意味だ。俺が定期的に来れば、安定するかもしれない」
「じゃあお前はここを離れられないのか」
「……難しくなった」
カイルが「そうか」と言った。
俺は「第四迷宮の話は、ひとまず保留だ」と言おうとした。
その前に、スキルが動いた。
【迷宮管理Lv.7:第四迷宮——緊急アラート受信。管轄外情報として通知——「調停者死亡。代替を求む」】
俺はカイルを見た。
カイルも俺を見た。
「……何の通知だ、それは」とカイルが言った。
「第四迷宮の調停者が死亡した。代わりに来てくれと言っている」
しばらく、二人とも黙っていた。
「俺が——行くか」とカイルが言った。
「一人でか」
「お前がここを離れられないなら、他に誰がいる」




