第69話「維持モードの限界」
第十七層に着いたのは昼過ぎだった。
バインが出迎えた。表情は平静だったが、目の下に疲れが出ている。三日以上、ここで張り付いていたのだろう。
「アシダさん、よく来てくれました」
「状況を報告してくれ」
「はい。核の出力変動は、昨夜からさらに拡大しています。現在の変動幅は±六パーセント。一時間前の観測では一瞬、九十九・四まで上がりました」
俺はスキルを展開した。
【迷宮管理Lv.7:第七迷宮第十七層/核状態——不安定(変動幅±6.1%)(最大値99.4%観測済み)】
「崩落の兆候は」
「直接的な兆候はありません。ただ——変動のパターンが規則的になってきています」
「規則的、というのは」
「九十秒に一度、山が来ます。正確に。それ以外の変動は不規則です」
バインが手帳を出した。観測の記録が、細かい数字で並んでいた。
「九十秒ごとに、一回だけ大きく変動する。その間隔が、昨夜から一定になりました」
俺は記録を見た。
「これは信号だ」とカイルが言った。
俺はカイルを見た。
「信号?」
「規則的に変動する、ということは——何かを送っている、ということだろ」
「……なるほど」
バインが「そういう解釈もできます」と言った。「私は「呼吸が規則化した」という感覚で観測していましたが、確かに」
「送っているとすれば、何を送っている」
「わからない。ただ、九十秒間隔で発信している何かがある」
俺は核の前に近づいた。
六角形の石柱。ドランの刻んだ記録が刻まれた面。
白い光がない。光は、ドランと一緒に消えた。
代わりに、石柱の表面が微妙に振動していた。
「ドラン?」
返事はなかった。
当然だ。
でも——別の反応があった。
スキルが動いた。
【迷宮管理Lv.7:迷宮核——残存パターン検出。残存データ量:不明。読み取り可能:現在不可】
「残存パターン」と俺は声に出した。
「何ですか」とバインが聞いた。
「ドランが消えた後、迷宮核に何かが残っている。スキルが検出しているが、読み取れていない」
「何が残っているんだ」とカイルが聞いた。
「わからない。でも、それが九十秒ごとに変動を起こしているとすれば——」
「呼びかけている、ということか」
俺は「そうかもしれない」と思った。
「カイルの言い方を借りると、信号を送っている」
「どこへ向けて」
「おそらく、外へ」
「アシダさん」とバインが静かに言った。「一点、お伝えしなければならないことがあります」
「何ですか」
「残留の十八体の適応状況です。予定では今週中に全員が第一段階を完了するはずでしたが——核の不安定が続いているせいか、三体が体調不良になっています。迷宮環境の変化が影響していると思われます」
「深刻ですか」
「今のところ、軽度です。ただし——核の変動が±十パーセントを超えると、影響が出る可能性があります」
「±十パーセントになるまで、どのぐらいの時間がありますか」
バインが手帳を見た。
「現在の変動幅の拡大速度を計算すると——あと七日、保てないかもしれません」
七日。
「七日で、全員を外に出せるか」
「……難しいです」
俺は「わかった」と言った。
「ゴブ」
「何だ」
「残りの十八体を、どう動かすか。バインと相談して、今夜中に案を出してくれ」
「わかった」
「カイル」
「何だ」
「北口の周辺、使えそうな閉鎖空間を探してくれ。見つけたら、バインと一緒に適応環境を作れるか確認してくれ」
「俺が?」
「お前が行って、判断してくれ」
カイルが少し間を置いて、頷いた。
「……わかった。やってみる」
「俺は核の「残存パターン」と何とか話を試みる」
「ドランがいないのに、話せるのか」とカイルが聞いた。
「わからない」と俺は答えた。「でも、聞かないよりはいい」




