第68話「レンの答え」
馬を走らせながら、カイルが隣に来た。
「一つだけ聞かせてくれ」
「走りながらでいいか」
「いい。お前は——なぜ「聞かないと損」と思うようになったんだ」
俺は少し考えた。手綱を持ちながら答えた。
「わからない」
「それは答えじゃない」
「本当にわからない。気づいたらそう思っていた」
「前は違ったか」
「覚えていない」
カイルが少し黙った。
「俺は、強くなれば話を聞かなくていいと思っていた」
「そうだったのか」
「強い方が正しい。だから俺が強くなれば、俺の言うことを聞かせられる。そういう考え方だった」
「今は」
「……変わったかどうか、わからない。でも、ゴブのやつが議場で話してるのを見て——なんか、違うと思った」
「何が違った」
「俺だったら、あそこで話せなかった。あれだけの人数に、一人で、あいつは話した。俺が持ってる力なんか、あの場には何の意味もなかった」
俺は「そうだな」と言った。
「じゃあ何が機能したかというと——ゴブの言葉だ。「生きたかっただけです」っていう言葉。あれは俺には言えない」
「なぜ言えないと思う」
「俺が「生きたかっただけです」と言っても、誰も動かない。ゴブが言ったから動いた」
「それは、ゴブがゴブだからだ」
「そうだ。だから——俺が何かをしようとするなら、俺が俺にしか言えないことを言うしかない」
「それが、聞くことと、どう繋がるんだ」
カイルが少し間を置いた。
「わからない」と言った。「でも、何かつながってる気がする」
「そうかもしれない」と俺は答えた。
二日目の夜明け前に、第七迷宮の北口が見えてきた。
ゴブが出迎えに来ていた。
「早かった」とゴブが言った。
「リレーで来た」
「そうか。カイルも来たのか」
「来た」とカイルが答えた。「驚くな」
「驚いてない。来ると思ってた」
「なぜだ」
「アシダが連れてくる、と思ったから」
カイルが俺を見た。
「お前のせいか」
「大体そうだ」
「……そうか」
ゴブが「第十二層の様子を報告する」と言って歩き始めた。
「バインは今朝から様子を見ている。核の不安定は「小刻みな出力変動」という感じで、今のところ崩落の兆候はないが——バインが「何かが変わろうとしている」と言った」
「バインがそういう言い方をしたのか」
「珍しいだろ。俺もびっくりした」
「「何かが変わろうとしている」というのは、どういう意味で言ったんだ」
「聞いたら「言葉にできないが、核が外に何かを出そうとしている感じがする」と言ってた」
俺はスキルを展開した。
【迷宮管理Lv.7:第七迷宮第十七層/核状態——不安定(変動幅±3.2%)】
「出そうとしている、か」
「どういう意味だ」とカイルが聞いた。
「わからない。でも聞いてみる価値はある」
「何に聞くんだ」
「核に」
カイルが一瞬止まった。
「核に聞く?」
「そうだ」
「……お前、ドランは崩落したんだろ」
「ドランではない。ドランが去った後の核だ。何かが残っているかもしれない」
カイルが「まじか」と呟いた。
「行ってみないとわからない」
「それがお前の口癖か」
「行ってから判断する、ということだ」




