第65話「断る理由、受け入れる理由」
「カイル・ベルグです」とカーラは言った。
俺は少し間を置いた。
「……カイルが」
「あなたの同期と聞いています。ジョブ「剣士」Aランク相当。ただし、あなたと関わって以降、行動の傾向が変わったという報告があります」
「どういう変化ですか」
「戦う前に一度立ち止まる。状況を確認する。その間、チームメンバーに考えを聞く——そういう癖が出てきた、と上長が書いています」
俺はカイルの顔を思い出した。
「生きてはいけるんじゃないか」と言った男だ。悪意はなかった。ただ世界の仕組みを疑わなかった。
ゴブ経由で助けを求めてきて、そのときに少し変わった。
「カイル自身は、どう言っていますか」
「「俺に門番を学べというのか」と言っていたそうです」
「……嫌がってますね」
「そうです。ただ、断ってもいません」
俺は「それがカイルらしい」と思った。
「俺に何をしてほしいですか」
「カイルと話してもらいたい。受け入れるかどうか、カイル自身に決めさせた上で」
「それはカーラさんがやることでは」
「カイルが「俺に決める権限はない。上が決めることだ」と言うなら、上から命令します。でも、カイルが「どういう話か聞かせてくれ」と言うなら——その「聞く」を引き出せるのは、あなただと思います」
俺は少し考えた。
「まあ、聞いてから判断しよう」と俺は言った。「カイルに会います」
その日の夕方、カイルが管理局に来た。
扉を開けて入ってきた瞬間、俺を見た。見た後に、少し表情が変わった。
「レン」
「久しぶりだ」
「久しぶり、という状況じゃないだろ」
「まあ、そうだな」
カイルは俺とゴブを交互に見た。ゴブは部屋の隅で干し果物を食べていた。
「ゴブ、久しぶりだ」とカイルが言った。
「久しぶりだ」とゴブが答えた。
二人が顔見知りだったことを、俺は少し忘れていた。カイルを間接救出したとき、ゴブが関わっていた。
「何の話だ」とカイルが俺に聞いた。
「聞いてから決めてくれ」
「その言い方は、お前だな」
「そうだな」
カイルが椅子に座った。
「話せ」
俺は第二迷宮と第四迷宮の話をした。異常が報告されていること。知性体が外と接触しようとしていること。封じ込めが機能していないこと。
カイルは聞きながら、時々「それで」と言った。遮らなかった。
話が終わったとき、カイルは少し黙ってから言った。
「俺に、そこへ行けということか」
「条件が整えば、そうなります」
「条件とは」
「俺と一緒にしばらく第七迷宮に来て、どういうことをするか見ること。それで、自分でやれると思えば行く。やれないと思えば断っていい」
「断れるのか」
「断れます。俺が言えることは以上です」
カイルが長い沈黙をした。
「一つだけ聞かせてくれ」
「どうぞ」
「なぜお前は、俺に頼む」
俺は少し考えた。
「俺が聞いてから判断した結果、カイルが適性があると思ったからです」
「どこでそう判断した」
「ゴブの件で助けを求めてきたとき、カイルは自分が負けたことを認めました。認めた上で、他の手を探した。それができる人間は、聞く可能性がある」
カイルが黙った。
「……俺に門番を学べというのか」
「門番のジョブは手に入りません。聞く態度だけです」
「……」
カイルはゴブを見た。
「ゴブ、お前はどう思う」
「俺は行ってほしいと思う。でも、嫌なら行かなくていい」
「お前でもそういうことを言うのか」
「アシダに似てきた」
カイルが少しだけ、口の端を上げた。
「……しばらく考えさせてくれ」
「どうぞ」と俺は言った。




