第64話「複数の迷宮」
「七つあります」とカーラは言った。
「七つ」
「王国が管轄する迷宮の数です。第一から第七まで。そのうち、今確認されている異常は三つ——第二、第四、そして第七です」
俺は計算した。
「第七は、今は移送が完了して維持モードに移行しています。実質的に危機状態は脱している」
「そうです。だから問題は、残りの二つです」
「他の四つは」
「第一迷宮は王都直轄、探索者が最も多く入っている。現時点で異常なし。第三、第五、第六は中規模の迷宮で、定期巡察をしていますが、今のところ報告はない」
「今のところ、ということは」
「可能性は否定できない」
俺は「そうですね」と言った。
「七つのうち三つで異常が出ている。残り四つにも伝播する可能性がある、ということですか」
「あなたはどう思いますか」
俺はスキルを展開した。第七迷宮のデータしか入ってこない。
「第七迷宮の場合、第23層の影は「封印が弱まったことで上に来た」という事情でした。つまり、第23層に何かが起きている。それが一つの迷宮の話ではないなら——」
「同じ何かが、複数の迷宮に影響している、ということになります」
「そうです」
カーラが書類の一枚を取り出した。
「管理局の一部が「地下連絡路仮説」を立てています。王国の七つの迷宮が、地下で繋がっている可能性があるという」
「根拠は」
「第七迷宮での事象が、物理的に離れた第二・第四迷宮で類似したタイミングで起きていること。それだけです」
「仮説段階、ということですね」
「はい」
俺は少し考えた。
「他の迷宮に行ってほしい、というのが本題ですか」
カーラが俺を見た。
「……そうです」
「断ります」
「理由を聞かせてください」
「第七迷宮のゴブたちがいます。ドランが崩落した後、ゴブが残留組の世話をしている。十八体の適応がまだ終わっていない。俺が離れると、問題が起きたときに対処できない」
「……それは、理解できます」
「他の方法がありますか」
カーラがテーブルの上で指を組んだ。
「あなたが行けないなら——あなたの代わりを育てるしかない、と思っています」
「代わり?」
「交渉術を学んだ人間を、他の迷宮に派遣する。あなたの前例を再現できる人間を作る」
俺は「なるほど」と思った。
「そういう人間を、俺が育てる、ということですか」
「それが——今のところ、私に思いつく唯一の方法です」
俺はしばらく考えた。
「条件が一つあります」
「何ですか」
「俺が教えることは、交渉術ではありません」
「では何を」
「聞く態度です。交渉のテクニックではなく、まず聞くということを、習慣として身につけること。それしか教えられない」
「それで、十分ですか」
「十分かどうかはわからない。でも、テクニックだけ覚えて聞かない人間を育てても意味がない」
カーラが「わかりました」と言った。
「候補は」
「実は——すでに一人、思い当たる人間がいます」
カーラが少し間を置いた。
「あなたも、知っている人間です」




