第63話「カーラの本音」
翌朝、カーラが管理局の小部屋に俺を呼んだ。
ゴブは倉庫の一室で休んでいる。昨夜の酒が回ったのか、「もう少し寝る」と言ったので、そのままにしてきた。
小部屋には、カーラと俺だけだった。
「昨夜言いかけた話です」とカーラは言った。書類をテーブルに広げた。「第二迷宮と第四迷宮でも、同じ異常が報告されています」
俺は「同じ異常、とは」と聞いた。
「第23層類似の出力変動。知性体の行動変化。そして——外への接触を試みる動きが報告されています」
俺はその書類を見た。
「いつからですか」
「第二迷宮は四ヶ月前から。第四迷宮は二ヶ月前から。どちらも、第七迷宮での溢出との関連性が疑われています」
「関連性」
「原因が同じかもしれない、という意味です。第七迷宮で起きた第23層の事象が、他の迷宮でも再現されている——という仮説を、管理局の一部が立てています」
俺はスキルを展開した。
【迷宮管理Lv.7:観測対象——第七迷宮のみ】
第二、第四迷宮のデータは俺のスキルには入ってこない。あくまでも、俺が管轄しているのは第七迷宮だ。
「それを俺に話すのは」
「あなたに、対処する方法を知っているかどうか聞きたかったからです」
「どういう意味ですか」
「第七迷宮では、知性体と交渉が成立しました。他の迷宮でも同じことができるなら——その前例を作ったのはあなたです」
俺は少し考えた。
「他の迷宮に調停者はいますか」
「いません」
「交渉に応じた実績は」
「ありません。むしろ、接触を試みた探索者が攻撃されて負傷した事例が三件あります」
「攻撃の状況は」
「いきなり近づいたケースです」
「それは、攻撃ではなく防御反応です」
カーラが少し目を細めた。
「……そういう読み方をするのですね」
「「近づいてきた理由を聞かなかった」という話です」
俺はテーブルに置かれた書類をもう一度見た。
「二つの迷宮の話は、今どういう状態ですか」
「第二迷宮は王都から馬で四日。第四迷宮は六日かかります。いずれも担当者が配置されていますが——交渉の経験はなく、対処は「封じ込め」が基本になっています」
「封じ込めは機能しているのですか」
「第二迷宮は、今月に入ってから二件の小規模溢出が出ました」
「機能していない」
「はい」
俺は「まあ」と言った。「一度に二つの問題を解こうとしても、解けない」
「わかっています。ただ、情報だけでも持っておいてほしかった」
「持ちました」と俺は言った。
カーラが書類をまとめながら、静かに言った。
「全部に、調停者がいるわけじゃない」
「そうですね」
「あなただけが、知性体と話せた実績がある」
俺は「そうかもしれない」と答えた。
「でも、それは俺が特別だからではない、と思っています」
「ではなぜですか」
「聞いたからです。他の人間も、聞けばできるかもしれない」
カーラが俺を見た。
「その「かもしれない」が、今は保証されていない」
「そうです」
「それが、問題です」
俺は「そうですね」と言った。
第二迷宮、第四迷宮。
知性体が「接触を試みている」。
つまり、話しかけようとしている。
ただ、受け取る側が——まだ聞く準備ができていない。




