第62話「三人の宴」
王都に泊まることになった。
ゴブが一晩どこにいるかが問題だったが、カーラが手配した倉庫の一室を使うことになった。外から見えない場所で、窓が少ない。ゴブは「これは牢屋か?」と聞いた。「違う」と俺が言った。「なら良かった」とゴブが言った。
夜、カーラが食べ物と酒を持って来た。
「小さな宴をしませんか」とカーラが言った。「三人だけで」
テーブルに並んだのは、丸パン、干し果物、チーズ、それから小ぶりの酒瓶が一本だった。
「これを……三人で、でいいんですか」とゴブが聞いた。
「十分です」とカーラが答えた。
俺は席に着いた。
テーブルを囲むのが、王国軍の副司令とゴブリンの小隊長と門番という組み合わせであることを、少し不思議に思った。不思議だが、不自然ではなかった。
「お疲れ様でした」とカーラが言って、コップを持ち上げた。
「お疲れ様でした」と俺が言った。
「……お疲れ様でした」とゴブが言った。コップを両手で持っていた。
ゴブが酒を飲んだのは、それが初めてだった。
一口飲んで、目が大きく開いた。
「これ、熱い」
「辛いのですか」と俺が聞いた。
「熱い」
「辛いのとは違うんですか」
「熱いのが辛い。というか、熱くて辛い。どっちもある」
カーラが「弱い酒のはずですが」と言った。
「弱い、とは」
「度数が低い、という意味です」
「度数がわからない」
「……飲み慣れていなければそうですね」とカーラが言った。
ゴブがもう一口飲んだ。
「でも、変な感じがする。悪い感じじゃない」
「それが酒です」と俺が言った。
「こういう感じで飲んでいるのか、人間は」
「そういう人間もいます」
ゴブが三口目を飲んで、コップを置いた。
「なぜこれを飲むんだ」
「緊張が取れるからとか、楽しいからとか、一緒に飲む相手がいるからとか」
「今日は全部あてはまる」
「そうですね」とカーラが静かに言った。
少し時間が経って、ゴブが聞いた。
「ドランは、酒を飲んだことがあったかな」
誰も答えなかった。
「知らないな。聞いてなかった」
またしばらく、三人でテーブルを囲んでいた。
「ドランが外に出られたら」とゴブが言った。「一緒に飲んだかもしれない」
「そうかもしれない」と俺が言った。
「ドランは、酒が好きだったかな」
「わからないな」
「聞けばよかった」
「そうだったかもしれない」
ゴブがコップを見た。
「次に会う機会がある知性体には、聞くことにする。外の食べ物や飲み物の話を」
「それはいいと思います」とカーラが言った。
「カーラさんは、何が好きですか」
「私は」
カーラが少し考えた。
「甘いものが好きです。果物の砂糖漬けが特に」
「それは美味しそうだ」
「ゴブ殿は」
「俺は虫が好きです。煎って食べます」
カーラが少し止まった。
「……そうですか」
「好みは人それぞれですね」と俺が言った。
「そうですね」とカーラが言った。
夜が深くなって、カーラが「実は——」と言いかけて止まった。
俺とゴブが見た。
「何ですか」とゴブが聞いた。
「……いいえ。明日にします」
「明日でいいのですか」
「明日の方が、適切な場所と状況があります」
俺はカーラの表情を見た。
疲れていた。でも、昨日や一昨日とは違う疲れ方だった。
悪くない疲れ方だった。
「今夜は、お疲れ様でした」と俺は言った。
「はい」とカーラが答えた。「本当に、お疲れ様でした」




