第61話「採決の後で」
補償案が可決された翌日、王都の管理局でカーラとの打ち合わせがあった。
テーブルの上に書類が積み上げられている。補償の具体的な配分方法、手続きの順序、現地への通達のタイミング——俺には直接関係のない話が多かったが、聞いた。
「北部三村合計で、三年分の遡及補償が出ます」とカーラが言った。「農地の再建、仮設住宅の材料費、死者への弔慰金。金額で言えば年間千二百ゴールド×三年です」
「ゴブの条件、三つ目の対話の件は」
「来月十五日、ルーナ村の南側にある廃教会跡地を使います。そこが最も中立に近い」
「ルーナ村、というのは」
「第七迷宮の最寄り集落です。馬で一時間」
俺は「それは知っています」と言った。「ただ、ルーナ村の住民との関係は良好ではない可能性がある」
「なぜですか」
「溢出の影響を一番受けているのは、最寄り集落です。迷宮から近い分、被害も早かった」
カーラが少し眉を寄せた。
「確認します。ルーナ村が北部三村に含まれているかどうか」
「含まれていますか」
「……入っていませんでした。北部村落の区分では、もう少し王都寄りの三つが対象です」
「では別の問題です。ルーナ村を経由地にすることについて、ルーナ村との調整は」
「していません」
「した方がいいと思います」
カーラが俺を見た。
「……なるほど」
「ゴブが移動する経路に、関係のない第三者が入ると、想定外の摩擦が起きます」
「わかりました。今日中に確認します」
打ち合わせが終わって廊下に出ると、カーラが言った。
「あなたのおかげです」
俺は「ゴブのおかげです」と答えた。
「ゴブの話が議場の空気を変えた、ということは分かります。でも、ゴブをここまで連れてきたのはあなたです」
「ゴブが来ることを決めたのは、ゴブです」
カーラが少し笑った。
「そうやって、あなたはいつも自分の功績を横に置きますね」
「横に置いているわけではない。事実を言っています」
「それが」とカーラは言った。「横に置いているように見えるのです」
俺はそれについて少し考えた。
「俺が功績を主張するとして、それで何か変わりますか」
「変わりません」
「では変わらないことを言っても仕方ない」
カーラが黙った。
「まあ、そういう考え方もありますね」と彼女は言った。
廊下の向こうから、ウォリック議員が来た。
俺が気づいたのと、カーラが気づいたのがほぼ同時だった。
ウォリック議員が近づいてきた。止まった。
俺を見た。
俺は「昨日は、ありがとうございました」と言った。
ウォリック議員が少し眉を上げた。
「礼を言われる理由がわからない」
「反対意見を丁寧に述べてくださった。感情論で話していたわけではない、ということは伝わりました」
ウォリック議員が少し黙った。
「……お前は、変わった人間だな」
「よく言われます」
「私を批判しないのか」
「批判する理由がありません。議員の仕事は安全保障を考えることです。それをやっていた」
ウォリック議員が少しの間、俺を見た。
それから、俺の横を通り過ぎた。
立ち去り際に、背後で声がした。
「来月の対話の件、聞こえた。私も同席する」
俺はカーラを見た。
カーラが同じ方向を見ていた。
退場するウォリック議員の背中を見て、カーラが小声で言った。
「……これは、想定外でした」




