表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
門番、魔王軍と交渉する〜ハズレジョブでも、話を聞く奴が世界を動かす〜  作者: ハル
副司令と新しい戦場

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/75

第59話「反論」

立ち上がったのは、ウォリック議員だった。


 後でカーラから聞いた名前だが、その場ではとにかく「目が笑っていない四十代の男」という認識しかなかった。


「感動的な話でした」


 声は平静だった。感情を抑えているのではなく、最初から感情を持ち込む気がない、という種類の平静だ。


「しかし、感情論と事実は別です」


 ゴブが俺の方を見た。俺は小さく頷いた。聞いていろ、という意味だ。


「今日ここに来た魔物が、流暢に話すことは確認できました。知性があることも。ただし——それが、安全保障上の脅威でないという根拠にはなりません」


 カーラが「発言をお聞きします」と応じた。


「溢出は、毎年起きています。境界を越えて人間の生活圏を侵した事例は、この十年で四十七件。死者総数は七百を超える。その事実は変わりません」


「それは」とカーラが言いかけた。


「一体が「私たちは脅威ではない」と言ったことで、それらの事実が消えるわけではない。北部村落への補償は——魔物との「共存」を認めることを前提にしますか。それが、私の懸念です」


 議場がまた少しざわめいた。


 俺は「まあ」と思った。想定範囲内の反論だ。



 



「発言していいですか」


 カーラが俺を見た。俺は議長の方に向き直った。


 議長が少し目を細めて、頷いた。


「アシダ・レンです。第七迷宮の管理担当です」


 ウォリック議員が「その肩書は正式なものですか」と言った。


「正式ではありません。ランク外の門番です」


 議場がわずかにざわめいた。


「ウォリック議員の懸念は正しい部分があります。溢出の事実は消えません。魔物が境界を越えた記録も消えません」


 俺はそこで一度止めた。


「ただ——聞いてから判断してください。俺が持っているデータがあります」


 ウォリック議員が腕を組んだ。


「データ」


「はい。スキル「迷宮管理」による第七迷宮の観測データです。過去三年分の出力変動、知性体の行動記録、溢出の原因分析が含まれます」


「魔法スキルのデータを、議会の証拠として」


「信用しないなら、ギルドの公式記録と照合できます。数字が一致します」


 ウォリック議員が少し黙った。


「第七迷宮の溢出は——過去三年、ゼロです」


 俺は議場を見回した。


「カーラ副司令が北部村落の管理を改善した年と、俺が第七迷宮に配属された年が重なります。溢出ゼロの理由は交渉です。魔物と戦ったのではなく、なぜ境界に近づくのかを聞いた。なぜ溢出が起きるかを聞いた。その原因を、交渉で除去しました」


 ウォリック議員が言った。


「その根拠は何か」


 俺はスキルのデータを展開した。


 【迷宮管理Lv.7:第七迷宮三ヶ年データ——溢出件数0/知性体境界接触件数0/交渉成立件数47】


「これが根拠です」



 



 ウォリック議員は、しばらく俺を見ていた。


「……一つ、聞いてもいいか」


「どうぞ」


「お前は、なぜそれができた」


 俺は少し考えた。


「聞いたからです」


「聞いた?」


「魔物に話を聞きに行きました。なぜここに近づくのか、なぜ境界を越えようとするのか。聞いたら、理由がありました。理由があるなら、対処できます」


 ウォリック議員が黙った。


「感情論ではなく、手順の話です」



 



 その後、採決が行われた。


 俺は演台の横から、ゴブを見た。


 ゴブは緊張したまま、じっと議長を見ていた。


 議長が鎚を持ち上げた。


「採決を取ります」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ