第57話「議場へ」
王都の議事堂は、俺が想像していたより大きかった。
石造りの建物で、扉だけで俺の身長の三倍はある。階段を上がると、両脇に衛兵が立っている。衛兵たちは俺を見たとき、視線が一瞬止まった。それからゴブを見て、止まり方が変わった。
ゴブは俺の隣に立っていた。移送用の幌馬車から降りてきて、初めて王都の石畳を踏んだとき、「硬い」と一言だけ言った。
「緊張しているか」と俺は小声で聞いた。
「している」とゴブは小声で答えた。
「当たり前だ」
「アシダはしてないのか」
「少しはしている」
「嘘をつくな」
「本当だ」
ゴブが横目で俺を見た。俺は正面を向いていた。
カーラが前を歩いている。緊張しているとすれば、背中がそれを示していた。肩が、いつもより上がっている気がした。
議場に入ると、議員たちの視線が一斉にこちらを向いた。
おそらく五十人はいる。長机が半円形に並んでいて、中央に演台がある。議長が壇上に立っていた。六十代か、白髪の人物だ。
議員たちの反応は、カーラが予測していた通りだった。
ざわめきが起きた。
「魔物が入ってきた」という声が、どこかから聞こえた。
「正気か」も聞こえた。
ゴブが俺の袖を少しだけ引いた。
俺は左手をゴブの方に向けた。まだ叩かない。合図は、もう少し後だ。
カーラが演台に向かいながら、振り返ることなく言った。
「静粛に」
その一言だけで、ざわめきが少し収まった。声の重さが違う。三年間、同じ場所で同じことをしてきた人間の声だ。
カーラが議長に向かって頭を下げた。
「本日、証人として同席を許可いただいた者を紹介します。第七迷宮、第四層小隊長——ゴブ殿です」
ゴブがわずかに頭を下げた。下げ方を、俺が事前に教えていた。
議場がまた静かになった。今度はざわめきではなく、沈黙だ。
ひとりの議員が手を挙げた。
「確認させてください。今ここに来ているのは、魔物の代表ですか」
「迷宮知性体の代表です」とカーラが答えた。
「それは王国の法に基づく身分ではない」
「現時点では、そうです。だからこそ、今日この場で話を聞いていただく必要があります」
また手が挙がった。今度は、前列右端の議員だった。年齢は四十代か。顔は平静だが、目が笑っていない。
「安全の保証はどこにあるのですか」
「私が保証します」とカーラが言った。
「副司令個人の保証では、法的効力は——」
「承知しています。この件については、私が全責任を負います」
議長が両手を上げた。
「静粛に」
場が静まった。
議長が、ゆっくりとゴブを見た。それから俺を見た。
それから、低い声で言った。
「発言を許可します」
ゴブが演台の前に立った。
演台の高さが、ゴブには合っていなかった。ゴブの背丈は人間の子供ぐらいしかない。カーラが素早く台座を足元に置いた。事前に用意してあったものだ。
ゴブが台座に乗った。
議員たちと、同じ目の高さになった。
議場が、静まり返った。
ゴブが喉を一度鳴らした。
それから、口を開いた。




