第54話「保証できますか」
カーラから連絡が来たのは三日後だった。
「ゴブの条件、三つとも受諾が取れました」
「三つ目も?」
「はい。北部三村の代表者との事前対話、日程は来月中旬を予定しています。ただし、場所は王都外の中立地点になります」
俺は少し考えた。
「それは、代表者たちの意向ですか」
「……六割方は、私の押しつけです」
「正直ですね」
「あなたには嘘をついても意味がなさそうなので」
俺は笑いかけて、やめた。笑い方を忘れていた、というわけではないが、気恥ずかしい気がした。
「二点、確認させてください」
「どうぞ」
「村の代表者は、ゴブと会うことを了承しているのですか」
「……します、と言った人間が一人います。他の二人は保留です」
「保留のまま当日を迎えることはできません。了承した上での対話でなければ、ゴブを傷つける可能性があります」
カーラが少し沈黙した。
「傷つける、というのは」
「ゴブは怖がっています。顔を知りたいから行くと言った。それを、拒絶で返されたら、傷つきます」
「……魔物が傷つく」
「傷つきます」
また間があった。
「わかりました。三人全員の了承を取ります」
「もう一点」
「はい」
「ゴブの証言は、議会のどのタイミングで組み込まれますか」
「補償案の審議の再上程を、来月末に予定しています。村代表との対話がその二週間前。証言はその場での審議中に組み込む形になります」
俺はメモを取った。
「わかりました。ゴブに伝えます」
ゴブへの報告は夕方に行った。
通信越しに、ゴブは「そうか」と一言だけ言ってから黙った。
「ゴブ」
「今、考えてる」
「何を」
「俺が言葉を間違えたら、どうなるかを考えてる」
俺は「言葉を間違えるとは」と聞いた。
「怖くて、うまく話せなかったら。変なことを言ったら。怒鳴られたら、俺は固まるかもしれない」
「固まったらどうなる」
「わからない。でも、カーラって人が困る。それと、北部の人間が悪い印象を持つかもしれない」
「そうかもしれない」
『俺、責任を取れるか』
「取れないと思う」と俺は答えた。
「え」
「誰でも、言葉を間違えることはある。固まることもある。だから責任は取れない。でも、俺もその場にいる。間違えた後の話は、俺がする」
ゴブがしばらく黙った。
「一人じゃないか」
「当たり前だ」
「……そうか」
通信の向こうで、ゴブが大きく息を吐く音がした。
「わかった。行く。でも、もし怒鳴られたら俺の手を一回だけ叩いてくれ」
「わかった」
「それで落ち着く」
「覚えておく」
翌日、カーラから追加の通信が来た。
「三人全員から了承が取れました」
「三人とも?」
「……正確には、三人のうち二人は「仕方ない」という感じでした。一人は「会いたい」と言いました」
「会いたい、と言ったのはどういう人ですか」
「七十代の女性です。孫を溢出で失っています」
俺は少し間を置いた。
「……会いたい、か」
「奇妙でしょう」
「奇妙じゃないと思います」
カーラが「なぜですか」と聞いた。
「憎い相手の顔を見たいのかもしれません。あるいは、怨んでいる相手に話したいことがあるのかもしれない。どちらにしても、会いたい、は本当の気持ちだと思います」
通信の向こうで、カーラが小さく息を吸った。
「あなたは、あの老女がゴブを責めると思いますか」
「責めるかもしれません」
「それでも行かせますか」
「ゴブが決めることです。俺が決めることじゃない」
今度は、カーラがしばらく黙った。
「……わかりました。準備を進めます」
「あと一点だけ」
「何でしょう」
「ゴブの証言の場に、俺を同席させてください。議場でも、村代表との対話でも」
「もちろんです。むしろあなたがいなければ成立しません」
「わかりました」
「それと——」
カーラが少し声のトーンを変えた。
「今夜だけ、もう一度話を聞いてもらえますか。別の件で」
俺は少し驚いた。昨日と同じ言い方だった。
「今夜も、こちらに来ますか」
「いえ。通信で構いません」
「どうぞ」
「あなたは、北部の老女がゴブを責めた後で——何を話しますか」
俺は少し考えた。
「聞きます」
「老女の話を?」
「老女の話を聞きます。責めたいなら、責めさせます。その後で、ゴブに話をさせます。順番が大事です」
カーラは何も言わなかった。
「別に秘策があるわけじゃないです。それだけです」
「……そうですか」
「それだけの話です」と俺は言った。




