第53話「ゴブの条件」
ゴブの条件は、三つだった。
一つ目。「証言の場が終わったら、俺を迷宮に返すこと」。
二つ目。「証言の内容は、俺が決める。誰かに台本を作らせない」。
三つ目。「北部の人間と、一度話せる場を設けてほしい。議会の前ではなく、被害を受けた人間と直接に」。
俺がそれをカーラに伝えたとき、彼女がいちばん驚いたのは三つ目だった。
「……なぜそれを」
「ゴブに聞いてください。俺も最初は意味がわからなかったので、聞きました」
「何と言ったのですか」
「「俺たちも、村の人間に怯えてた。お互いに顔を知ったほうがいい、と思った」と言いました」
カーラは少しの間、口を開かなかった。
翌日、ゴブが第十二層から通信を寄越してきた。
『残留の十八体は今日で全員、第一段階の外気適応が終わった。バインが「あと五日で移動可能」と言ってる』
「それは良かった」
『そっちはどうだ』
「カーラ副司令が、条件を全部受けると言った」
短い沈黙。
『……全部?』
「全部だ。ただし三つ目の「直接対話」については、日取りを調整する必要がある。すぐにはできないかもしれない」
『わかった。それは待てる』
「移動の前に、一つ確認していいか」
『何だ』
「怖くないか」
ゴブが少し間を置いた。
『怖い』
「そうか」
『でも、ドランが——』
また間があった。
『ドランが崩落の前夜、俺に言ってた。「怖くても、話に行けばよかった」って。俺には意味がよくわからなかった。でも今はわかる気がする』
俺は何も言わなかった。
『だから行く。怖いけど行く』
「わかった。準備が整ったら連絡してくれ」
カーラはその夜、王都に戻る馬の準備をしながら、俺に聞いた。
「一つ、確認させてください」
「はい」
「ゴブは——本当に信頼できるのですか」
俺は少し考えた。
「信頼、という言葉が何を指すかによります」
「裏切らないか、ということです」
「裏切る理由がありません。ゴブにとって、議会で証言することは、仲間のためです。俺を騙しても得るものがない」
「……でも、魔物です」
俺は「そうですね」と答えた。
「でも、ゴブは仲間のために条件を出しました。台本を作られたくないのは、本当のことを話したいからです。北部の人間と話したいのは、怖いからです。怖いから、まず顔を知りたい」
カーラが黙っていた。
「魔物だから信頼できないのではなく、信頼できる理由があるかどうかで判断する——俺はそうしています」
「……なるほど」
「俺も最初はそう判断できなかった。でも聞いてみたら、事情があった。まあ、それだけの話です」
カーラは馬に乗りながら、もう一度こちらを見た。
「あなたは、本当に変わった門番ですね」
「ランク外です」
「それが、余計に」
彼女は軽く馬の腹を蹴って、暗い道を王都に向かった。
ゴブが「条件がある」と言ったとき、その声には怯えと覚悟が両方入っていた。
俺はそのことを、カーラには言わなかった。
言う必要がなかった。




