表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
門番、魔王軍と交渉する〜ハズレジョブでも、話を聞く奴が世界を動かす〜  作者: ハル
副司令と新しい戦場

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/78

第51話「副司令の来訪」

馬の蹄の音は、思ったより早く近づいてきた。


 松明を持って走ってくるわけでもない。護衛の複数騎でもない。一頭だけ、まっすぐこちらへ向かってくる。


 俺は門の前から動かなかった。


 騎手が見えてきた。軍服だ。ただし肩章の金線が多い。


 馬が止まった。降りてきた人物を見た瞬間、俺は「なるほど」と思った。


 女性だった。三十代半ばか。短く切り上げた黒髪に、細い傷が左顎に一本。眼鏡をかけているのが、軍服と妙に噛み合っていない。副司令のカーラ・エゼルという人物を、俺は書類でしか知らなかったが、顔を見た瞬間に「この人がそうだ」とわかった。


「アシダ・レン殿、ですか」


「そうです」


「一人で出迎えるとは、警戒心のない方だ」


「馬一頭なので大丈夫だろうと思いました」


 カーラは少し目を細めた。値踏みではなく、何かを確認するような眼差しだった。


「単刀直入に聞きます」


「どうぞ」


「私は逮捕のために来たのではありません。尋問でもない」


 俺は何も言わなかった。


「助けてほしいのです」



 



 北口の待機小屋に案内した。移送の際に物資置き場として使っていた場所で、椅子と折りたたみのテーブルが一組ある。粗末だが、立ったままで話す必要はない。


 カーラは馬を繋いでから、中に入ってきた。俺が水を出すと、受け取った。文句は言わなかった。


「今朝、議会で北部村落への補償案が否決されました」


「聞きました。一部は」


「知っていたのですか」


「ネイハルト局長から。副司令が単独で動いたと」


 カーラは少し口の端を歪めた。苦いものを飲んだような表情だ。


「局長から連絡が行くとは、私の読みが甘かった。ただ——今はそれより」


 彼女は水を一口飲んでから、俺を見た。


「北部村落の件は、今年で三年目の否決です。冬の前に死者が出た年もあった。それでも議会は動かない。安全保障の問題だ、魔物の脅威が消えていないと言い続ける。正論のような顔をして」


「それで、俺に」


「あなたにしかできないことがある、と思って来ました」


 俺は椅子の背に体重を預けた。


「聞きます」


 カーラが少し息を吸った。


「議会を動かすには、安全保障の懸念を正面から崩す必要があります。そのためには——迷宮の知性体に、直接証言してもらうしかない」


 俺は何も言わなかった。


「魔物は脅威ではない。むしろ封印の維持者であった、という事実を、人の前で語ってもらう。それが揃えば、北部への補償だけでなく、今後の共存政策全体を動かせる。ただし——それができるのは、あなただけです」


 カーラは真っすぐ俺を見ていた。


 疲れている目だった。三年間、同じ壁を叩き続けた人間の顔だ。


「まあ、聞いてから判断しよう、と思ってたら、もう十分は聞きました」


 カーラが少し表情を変えた。


「今夜だけ、話を聞いてもらえますか」


「今聞いてます」


「……そうですね」


 彼女はわずかに、力を抜いた。


「では、続きを話します。実は——」



 



 外の風が弱まった頃、ゴブへの通信回線が震えた。


 俺は少し立ち上がって、「少し待ってください」とカーラに言ってから接続した。


『アシダ。ドランの観測中、まだ変わってない。安定してる』


「わかった」


『そっちは誰かいるのか。声がした』


「お客さんだ」


 短い沈黙。


『おいしそうか?』


「食べるなよ」


 通信を切ると、カーラがこちらを見ていた。


「今のは」


「ゴブです。ゴブリンの小隊長。今は迷宮の深部で残留組の世話をしています」


「……あの、ゴブと話していたのですか」


「はい」


 カーラは何かを考えるように黙った。それから口を開いた。


「知性体に、人前で話してもらえるか——というのが、私の頼みの核心です」


 今夜だけで終わる話ではない、とわかっていた。


 それでも、まず聞くことが先だ。


「続きをどうぞ」と俺は言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ